45話 怒涛の展開
咲夜に連れられて【青龍】の近くへとたどり着いた。
近づくまで少し警戒していたけれどその心配は必要なさそうだ。
なにせ【青龍】の全身が淡い光を纏っており、今までも何度も見た【魔女が紡ぐ物語】を倒したことを証明する光景なのだから。
【青龍】の全身を覆う光は体の端から崩れるように散っていき、そしてついにその全てが霧散した。
――ポンッ
お馴染みの音共に現れる宝箱。そして――
「うっ、わ、妾は……」
『ママ~!』
【青龍】のいた場所に現れた1人の女性、シンディが横たわっていた。
「なんとか【四天王】である【青龍】は倒せたみたいだね」
「やりましたね先輩。ところでこの宝箱なんですが……」
「なんで全員に1つずつあるのかしら?」
冬乃が首を傾げ、本当に【典正装備】なのか怪しみながら屈んでいた。
確かにおかしい。
本来【魔女が紡ぐ物語】1体につき【典正装備】は4つまでなのに、ここにいるメンバー全員、つまり7つ目の前にあるのだから。
「まさか【四天王】と【青龍】のダブルってことなのかな?」
うわー何それお得、って言いてる場合じゃないよね。
ソフィの言う通りだとしたら、道理でこんなにも無茶苦茶強いわけだよ。
【四天王・青龍】ではなく【四天王】と【青龍】とか無茶苦茶にもほどがある。
乃亜の最終派生スキル[恋い慕うあなたを囲う]を使って有利な状況にしたにもかかわらず、倒すのにこんなにも時間がかかっているんだから、今まで倒してきた【魔女が紡ぐ物語】の中でもトップクラスの強敵だ。
正直魔女達の理不尽な【魔女が紡ぐ物語】に比べると、戦闘面だけなら上回ってたんじゃないだろうか?
「ふっ、ママ、か……。おぬしが妾の子であるという実感がないのが残念だが、それでも最後の最後で妾にも残せたものがあるのだと知って嬉しかったぞ」
『ママッ!?』
シンディの身体がどんどん透明になっており、今にも消えそうになっていた。
一体なぜ?
「この身は【魔王】殿によって具現化していたにすぎないからの。【魔王】殿とのつながりが消えた今、具現化する力も無くなっていき、むき出しの魂がそこに残るだけだ。
そして魂だけの存在がこの世に残り続けることもできぬし、後は消えゆくだけよ」
『そんな事にはさせないのです!』
「なっ、なにを!?」
アヤメがシンディを掴むと、肉体の無いシンディは簡単に持ち運べるのかシュルンッと僕のスキルのスマホにシンディごと入っていった。
…………何してんの!?
え、て言うかシンディこの中に入れるの?!
『ふい~、危ないところでした』
『まさか妾の欠片と融合することで生きながらえるとはの。我が娘ながら無茶苦茶だの』
僕のスキルが関わっているのに完全に置いてきぼりです。
スキルのスマホから聞こえてくる音声から、とりあえずシンディが消えずに済んだことだけが分かった。
『それでは主様よ。今後ともよしなに』
「なんか勝手に主にされた!?」
怒涛の展開に頭が追い付かないよ。
『元から主様に仕えておったであろう? 妾はシロと呼ばれておった時の妾であり、シンディでもあるのだから、それが1つの存在になっただけだの』
「え、それでいいの? 異世界じゃなんかすごい存在だったんじゃないの?」
聞いた話じゃ滅茶苦茶強い人だと聞いていたのに、そんな人が僕に仕えることに抵抗はないんだろうか?
『それはもう過去のことよ。それに今の妾はまともな肉体が無いから前のような力は振るえぬしの。
もはやかつての力はないが、全身全霊でもって主様の力になることをここに誓わせていただく』
……………まあいいか。
「……考えるの面倒になった?」
否定はしない。
まさにオルガの言う通りで、元々僕のスマホの中にいたシロが全ての記憶を取り戻しただけで、今まで通りと思えばいいという結論になっただけだ。
「先輩、のんびりしている時間はありませんよ。対象である【青龍】がいなくなったことで[恋い慕うあなたを囲う]が維持できなくなったのか、この世界が急速に崩壊し始めています」
乃亜の指さす先では遠くの建物からまるで砂になったかのようにドンドン崩れていく光景があった。
「急いで戻りますよ」
「戻ったら急いで退避しよう。向こうがどうなってるか分からないし、何よりもう僕らはほとんどのスキルや【典正装備】がインターバル中で戦力になれないからね」
最終派生スキルを使った乃亜は言わずもがな。
戦う力なら先ほど出た【典正装備】がないこともないけど、今は効果を確認している暇もないし、確認するなら安全な場所でないと危険だ。
というか【青龍】との戦いでスタミナもだいぶ削られているし、他のみんなも【白虎】と戦えるような力はほとんど残っていない。
さすがに【青龍】を倒した以上、十分な成果を上げているし退避しても非難されることはないだろう。
もしも仮に戦うとしたら、考えられる残された手はアレだけかな~。
「それでは戻りますよ」
乃亜の合図と共に空間が解かれたのか、僕らは元の場所に戻ってきた。
『ガアアアアッ!』
目の前に【白虎】がいるというもっとも最悪なタイミングで。
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




