43話 ジョーカー
オルガがまさか不確かな効果の【典正装備】を当てにしているとは思わず驚いてしまった。
〔53枚の理解不能な力添え〕は52枚使い切った後にのみ使えるジョーカーが存在する。
しかしその能力は完全にランダムであり、狙った効果が使用できるわけじゃないから、とてもじゃないけどそれを当てにして戦闘できるものじゃない。
「……だからこそ今使う。強力な効果ならラッキーだし、使えなくてもピンチじゃないから困らない」
なるほど。
当てにできないからとっとと使うというのなら納得できる。
ジョーカー以外もランダムで効果が安定しないなら、むしろ使わない方がいいということか。
「……ジョーカー発動」
オルガが道化師の描かれたカードを己の腕に貼り付けた。
今まで見る機会なんて無かったけど、一体どんな効果が出るんだ?
そう思っていたら、オルガが何重にもブレ始めた。
「えっ」
「「「「……なるほど」」」」
オルガが4人に増えた!?
「「「「……今回は4つの柄、それぞれの効果を付与された状態の4人のボクになる効果が4分間持続するみたい」」」」
「効果時間、1分固定じゃありませんでした?」
「「「「……ジョーカーはそれもランダム。貼ってから分かる」」」」
もうジョーカーだけでよくない?
52枚消費するという面倒な工程が挟まるからこそ、それだけの効果のものになっているのかもしれないけど、ジョーカー以外が不要になってしまっているよ。
「「「「……いく」」」」
4人のオルガがそれぞれ別々の行動をとり始めた。
それぞれがスタミナ、速度、攻撃、防御のみが上がっているから、自身のバフに応じた行動になるんだろうけど、それに加えて[マインドリーディング]で口に出さずとも瞬時に意思疎通ができるから、同じ行動にならないんだろう。
スタミナと速度が向上しているオルガ達が【青龍】を翻弄させ、攻撃が向上しているオルガがメインとなり、防御が向上しているオルガが時折守りながら攻撃していた。
「ワタシも続くよ。〈解放〉。そして[ファイナルギア]」
ソフィはいきなり全力でいくようで、〔仮初の猫の紋章〕まで使用してオルガと同じ方向から攻撃を始めた。
『ガアアアアッ!』
いくらこの特殊な環境に加え、ダメージを負っているせいで動きが緩慢になるとはいえ、そう何度も攻撃を喰らえば【青龍】だって反撃もする。
まとめて薙ぎ払うためかその鉤爪を大きく振るってきた。しかし――
「その大振りを待っていました。〈解放〉」
『ギュアッ!?』
「そっちばかりに注意していていいのかしら? [狐火]〈解放〉」
『ギャアアアッ!?』
乃亜の〔報復は汝の後難と共に〕で倍返しされ、さらに乃亜達が攻撃を仕掛けている方向とは逆方向から、[狐火]によって開けられた小さな穴を通って、冬乃の〔籠の中に囚われし焔〕から射出させれた炎が直撃するという散々な目に遭っていた。
オルガ達があえて一方向から攻撃していたのは冬乃が狙いやすいようにするためだった。
オルガ達の方に意識が向けば冬乃が、冬乃に意識が向けばオルガ達がボコボコにするというハメ殺し状態だ。
「このまま倒せるかな?」
「たぶん難しいと思う、よ。ほら」
少し離れたところでチャンスをうかがっている咲夜が指さす先では、【青龍】が周囲に張っていた〝水〟の膜を消して自分の身体に纏わりつかせている姿だった。
「やっぱり一筋縄じゃいかないか」
「ん。さっきのタイミングで〝神撃〟が撃てれば良かったんだけど、拘束の強さから考えるとこっちに意識を割いてて絶対避けられてた。
でも今はさっきよりも拘束が緩んだから、あの技に力を注いでるんだと思う、よ」
「なるほど。なら咲夜――」
「分かってる。あの〝水〟の対処はお願い、ね」
僕が全てを言わずとも咲夜は頷いてくれた。
よし。じゃあ後は乃亜達の方か。
「乃亜、〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕でどれだけ相手の動きを止められそう?」
「先ほどカティンカ相手に使ったばかりですから、ほんの少し動き辛いと感じさせる程度で一瞬しか隙を作れないと思いますよ」
「問題ないよ。合図とともに使って欲しい」
「分かりました」
そう話しながらスクリーンでチラリと乃亜達の状況を見ると、〝水〟を纏った【青龍】が体当たりをしながら〝水〟の刃を四方八方デタラメに射出してくるせいで、乃亜達はそれを回避したりするのに忙しくまともに攻撃できていなさそうだった。
「くっ、さっきまで切れてたのに、纏ってる〝水〟が分厚くてレーザーブレードが【青龍】の身体に届かない!」
「……避けるので精一杯。もうそろそろジョーカーの効果も切れそうでピンチ」
ジョーカーの効果が切れれば一気に人数が減り、やられる危険が上がる。
この空間内でまだ追いつめきれないとか【四天王】強すぎないか?
急がないと時間がないな。
「冬乃。ある場所に移動した後、全力で【青龍】に攻撃して欲しいんだけどいける?」
「できるけど意味ないと思うわよ。〝水〟の膜が無くなったけどあんなにも分厚い〝水〟を体に纏ってたら、全力でも消しきれる気がしないわ」
「そこは僕も手伝うから」
『またさっきみたいに裸になって、後ろから抱き着きながら射出してもらうのです?』
「そうなの?!」
「違うよ!?」
アヤメがとんでもない事を言い出したけど、それをやって[強性増幅ver.2]の上書き強化をしても〔籠の中に囚われし焔〕は蓄積させた炎を射出する都合上、すでに先ほどこの空間に入った直後に最大威力の[狐火]を冬乃はチャージしているので意味はない。
僕の派生スキルの1つ、[メンテナンス]で【青龍】の〝水〟を操る力を封じれればいいけど、その対象に近づかなければいけないし、僕がやられればこの空間は解除されてしまう。
〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め〕なら結界の効果を反転させられるけど、あの体に纏わりついてるのは結界なのか怪しい上に〝水〟だから当てても簡単にその部分を切り離されるだろう。〔典外回状〕じゃ広範囲に影響を及ぼすからみんなまで影響を受けて弱体化してしまうから意味ないし。
だからもう1つの手段で【青龍】を倒すよ。
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ふい~。ようやく次くらいで【青龍】にケリがつけれそうだ。
……まだ【白虎】おるやん(´;ω;`)
あっちの方で勝手に倒しておいてくれないかな?
カクヨム様にて先行で投稿しています。




