9話 会議
学生の本分とはなんぞや?
そう問われた時、ほとんどの人間は勉強と答えるんじゃないだろうか?
「それでは【魔女が紡ぐ物語】である【魔王】の対策会議を始める」
僕が学生とは何かを考えていたら、見知らぬオッサンが会議室の一番前で仕切り始めてしまった。
今の状況を整理してみよう。
高校生とはほぼ縁のないようなビルの一室。
そこの広大な会議室に僕らは呼ばれていた。
僕ら以外にもそこには大勢人が集まっているけれど、安定の矢沢さん達以外では全員大人だ。
しかも歴戦の戦士を思わせる様な風格のある人達ばかり。
そう。僕らは学生という身分であるにもかかわらず、【魔王】と名乗る【魔女が紡ぐ物語】の対策会議に呼ばれている。
ロシアと中国の時の迷宮氾濫と同じように再び急遽招集されてしまったのだ。
おかしくないだろうか?
学生である上にまだ僕ら未成年なんだけど?
何故この場に呼ばれてしまったのだろうかと全力で叫びたい。
「……安全地帯が設置できるのと右手のそれ以外、ない」
「まあ、そうだよね」
オルガに心を読まれるのも慣れたもので、僕が考えている事に対して明確な答えを出してきたことに関して今更思うことはない。
そんな事よりも、もう危険なことはしたくないと思った矢先にこれなんだからホント勘弁して欲しいよ。
【魔王】の宣誓後、3日後にはこの状況なんだから参ってしまう。
この会議に呼ばれる前までは割と平和だった。
SNSでバズった僕の右腕のせいでマンションから出るのも困難だったけど、それを解決したのはなんと〔明晰夢を歩く者〕だ。
肉体丸ごと相手の精神に入ることができる特性を生かして、身を隠して学校へ登校することが出来ていたんだ。
乃亜達にお願いして迎えに来てもらいその精神に入って身を隠すというのは、本来の目的とは違う使い方な気がしなくもないけど。
身を隠す方法では[画面の向こう側]という手も無くもないけど、あれはスクリーンが出るから逆に目立つんだよね。
隠れ蓑にさせてもらっているみんなは幸いにも、乃亜達の紋章は銀色、オルガ達海外組は銅色だったので、目を引かないわけではないけど金色という存在がすでにSNSで上がっているからか、話しかけられたり絡まれたりする事はなかった。
「当面の方針としてはできるだけ自身の紋章を成長させることで――」
そのはずだったのに、金色の紋章を持ってるから会議に来てねと呼ばれてしまったんだから勘弁して欲しい。
まあ僕以外に金色の紋章を持ってるのはこの場には他に1人しかいないから、全国各地から探した結果と考えれば、たった2人しかいない金色持ちを呼ばないわけがないんだろうけど。
紋章を成長させるならどんな基準でポイントが増えるか分かった方がいいんだから、所有しているポイントが多い人物からそれを聞き出して周囲に共有させるのは当然だ。
「君達の手元にある資料にはどのようにしてポイントが増えるかが記載されており――」
これが自己顕示欲や独占欲の強い人物に対してだったら何かしら金銭をちらつかせてでも情報を引き出させようとするんだろうけど、生憎僕にはそんな気もなければお金も特段欲しいという気持ちもないし、そんな事よりも【魔王】を倒すのが優先だからね。
僕以外の金色の紋章持ちであるあの人もあっさり情報開示していたから僕と同じ気持ちなんだろう。
僕以外の金色の紋章持ち、それは以前【織田信長】の【魔女が紡ぐ物語】の時に一緒に戦った風間亮さんだ。
亮さんは【織田信長】と戦う前の会議ではずっとご飯を食べていたけれど、今はそれをせずに普通に話を聞いているね。
まああの時は会議の次の日には【織田信長】の討伐に向かうと分かっていたからその準備を行う必要があっただけで、今はその必要がないから当然か。
さて、校長先生の話よりも長い会議だけど、とりあえずこの会議はどちらかというと顔合わせという意味合いが強いかな。
会議の内容を要約すると、日本としては基本的にここにいる者達で外国と手を組み【魔王】と対峙するから協力してね、ってことだったし。
まあ協力してねというより、協力してくんないとマジでヤバいから頼むって感じだけど。
3カ月以内に【魔王】を討伐できなければ人類がどのような形かは分からないけど滅亡すると言われている以上、とやかく言ってる場合ではないのは分かる。
できれば戦いたくなどないけど、やらなければ人類が滅亡してゲームアプリ会社まで無くなってしまうというのであれば、自分だけ助かればいいなどと言ってる場合じゃない。
「外国と協力して事に当たっていくことになるが、まだ明確な日にちは決まっていない。
勇者の証が一定以上の者はどのダンジョンに行っても【魔王】が支配するダンジョンに同行者と共に転移することができる。
この機能を利用すれば外国との連携が容易なので、できるだけ数の利を生かして討伐に当たるためにスケジュールの調整を行っているのだ」
どのダンジョンからも転移出来るのか。
今までの【魔女が紡ぐ物語】の事を考えると、ダンジョンにまで干渉できるあたり、かなりヤバそうだね。
というか、ポイントの内訳の文章からどう考えても魔女なのは間違いないし、今回もかなりきつそうだと予想できる。
また大変な事に参加させられることになったなぁと思っていたら、いつの間にか会議が終わっていた。
出来るだけ急な呼び出しにも応じられるようにしておいて欲しいのと、勝手に【魔王】のいるダンジョンには行かないで欲しいという言葉で気が付いたら締めくくられていたんだ。
まあこれ以上話がないなら帰るかな。
周囲の人たちが席を立ち部屋から出て行くので、僕も乃亜達と一緒に他の人達と同じように一旦帰ろうとした時だった。
「すまない。少しいいだろうか?」
どこか疲れ切っていそうなおじさんに呼び止められてしまった。
「魔女について話がある」
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