3話 仮初の紋章
「OK。準備できたよ」
僕が[チーム編成]の準備が出来たことを告げると、画面の向こうではソフィアさんがすぐにでも自分の力を試したいと言わんばかりにソワソワしていて、後少し声をかけるのが遅かったら突撃していたんじゃないだろうかという感じだった。
「ありがとうソウタ。それじゃあ早速行こうか。〈解放〉」
「くっ、やるしかないか。〈解放〉」
チャイナ服を着たソフィアさんはノリノリで、オリヴィアさんは少々苦悶の表情を浮かべながら、左手首の入れ墨から取り出した【典正装備】であるワッペンを2人とも右手に持って己の胸に当ててその力を解放した。
〔仮初の猫の紋章〕
〔仮初の兎の紋章〕
ソフィアさんとオリヴィアさんが先日戦った【魔女が紡ぐ物語】である【アリス】から手に入れたのは、猫とウサギを模したワッペンの【典正装備】だ。
その能力は至って単純。
「ふふっ、ユニークスキルの獣人化は思ってた以上に凄いね。身体能力が格段に上がる!」
「確かにな。だがこの獣耳や尻尾が無ければもっと良かったのだが……」
「それがあるから強化されているのに何を言っているの?」
冬乃の持つユニークスキル、[獣人化(狐)]と似た効果を発揮する【典正装備】。
その能力は冬乃のとは違い派生スキルが使えるようになるわけではなく、[獣人化]特有の身体能力の強化と感覚の鋭敏化と実にシンプルだが、その分インターバルや時間制限がない。
尖った能力ではないが制限が一切ないため、強くなりたいと望んでいた2人にとっては単純な戦闘力強化はありがたいんじゃないだろうか。恰好に目をつぶれば。
「私は四六時中この恰好なのに、あんなに嫌がらなくてもいいじゃない」
「まあまあ冬乃先輩。気にする事ないですよ」
「うん、冬乃ちゃんはよく似合ってるから、ね」
後方で少し不貞腐れた冬乃を乃亜達がなだめていた。
自分の現在の恰好を嫌がられていたらそりゃいい気分にはならないよね。
「[デウス・エクス・マキナ]起動。派生スキル[フルボディオーダー]!」
少し冬乃の方に気を取られている間にソフィアさんが[デウス・エクス・マキナ]を発動させながらミミックへと近づいて、ってあれ?
「おい、なんだその耳と尻尾は?」
「へ? うわっ、尻尾が機械になってる?!」
先ほどまでただのモフモフの猫耳と尻尾だったのに、ソフィアさんが[デウス・エクス・マキナ]を発動させたら、それに合わせる様に耳と尻尾までメカ化してしまった。
まさかあの【典正装備】、発動させているスキルに合わせて見た目が変化するのか。
「う~ん、よく分からないけど検証は後。身体能力の上り幅は変わらない感じだし、まずはミミックを倒すよ」
「ソフィアが問題ないならそれでいい。行くぞ、[聖騎士]派生スキル[フィジカルアップ]」
詳しいことは分からないけどとりあえず問題はなさそうだ。
巨大なロボミミックは以前遭遇した時には矢沢さんの支援と副会長でおねぇの和泉さんが[ラブ・インパクト]というスキルで一撃で倒しており、あの時の威力は相当なものだった。
ソフィアさんもオリヴィアさんも和泉さんのような強力な攻撃はしていないけど、ロボミミックの全身から開いた口から伸ばされる舌や、腕や足を振り回してくる攻撃を俊敏に避けて確実にダメージを与えており、しばらくその様子を見ている内にロボミミックをあっという間に倒してしまった。
「うん、最初は微妙な【典正装備】かと思ったけど悪くないね」
「見た目はアレだが、純粋に戦闘力が上がるのはありがたいな」
ソフィアさんもオリヴィアさんも満足そうにしており、強くなった事を喜んでいるようだった。
「じゃあオリヴィアは十分戦ったし、ここからは厳しくなるだろうからワタシの番でいいよね?」
「ふざけるな。あんなデカいのが出なければまだまだいけるに決まっているだろうが」
強くなった事に満足しているようだけど、まだまだ現状の強さには満足していないようだ。
「ワタシはあの大きなミミックでも1人で戦えるから、オリヴィアはもう休んでいなよ」
「断る! そもそも私が一番レベルが低いのだから優先してくれてもいいだろうが!」
「それは不平等じゃないかな? ワタシだってこのダンジョンに入場するのにお金を払っているのだし、レベルを上げる機会は当然あるべきだよね?」
「それはそうだが、今の戦闘では貴様にほぼ経験値が流れていっただろうが。それを考慮するならもう少しだけレベルを上げさせてくれてもいいじゃないか。せめて380までは上げておきたいぞ」
それはもう僕とほぼ同じレベルなのよ。
はぁ、まったくしょうがないなぁ。
「「「キシャーー!!」」」
「うおっ、急になんだ?」
「何であんなにいっぱい?」
オリヴィアさん達はいきなり大量のミミック達が現れた事に驚いているけど、こんな事出来るのなんて僕とアヤメしかいないよ。
「アヤメにミミックの居場所を聞いて〔似ても似つかぬ影法師〕で引き連れてきたよ」
ミミック達の前を必死に走るデフォルメの僕。
あっちに意識を移すと後ろから襲われている恐怖で間違いなく冷や汗をかく破目になるので絶対しない。
「今からソフィアさんをパーティーから外すよ。
それならソフィアさんの攻撃が当たっていないミミックの経験値はオリヴィアさんにいくから問題ないでしょ。
ソフィアさんの支援がパーティーメンバーでなくても支援できる〈サポート〉のみになるけど、さっきのロボミミックほど強くないのしかいないし大丈夫だよね?」
「服の分の支援が無くなるのは残念だけど、まああの程度の相手なら別にいいかな」
「ああ、私もそれで構わない」
元の服に戻ったソフィアさんと、今もメイド服姿のオリヴィアさんが、レベル上げのためにミミック達を倒しに向かった。
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