1話 不可解な事件
「ほう。ここが占有ダンジョンなのか」
「見ただけでは分からないけど、ここじゃCランクのダンジョンのわりに魔物の戦闘力が低いし、ドロップするアイテムは普通のCランクよりも高価なんだよね? まあお金はどうでもいいんだけど」
オリヴィアさんとソフィアさんは〔ミミックのダンジョン〕に入った後、他のダンジョンと比較するかのように周囲を見渡していた。
本来であれば占有ダンジョンは冒険者学校が占有しているために部外者は入る事ができないのだけど、僕らは以前短期留学で冒険者学校に訪れた際【魔女が紡ぐ物語】に襲われる事故があり、そのお詫びに関係者じゃなくても入る事が出来るようになったのだ。
ただ、あくまでも襲われたのは僕らなのでオリヴィアさん達は関係なく、本来なら入る事は出来ないのだけど、僕らが一緒に行動することと使用料を払う事で入場を許可された。
1日500万という驚きの金額ではあるけど。
「お金はいいっていうけど、レベル上げの為とはいえ2日分で1000万も払ったんだから少しは取り戻さないと。
よく払う気になったね」
「その程度で済むのなら払う価値はあるよ。もっとも中国、ロシアの時の【魔女が紡ぐ物語】討伐の報奨金がなかったらさすがに無理だったけど」
億単位の金が手に入っているからこそ出来る事だとソフィアさんは言う。
あまりにも大金すぎてどう使えばいいのか分からなくて困るけど、まさにこういう時に使うのがいいんだろう。
『ご主人さま。お金の話もいいのですが、早くパパとママ達を集めて欲しいのです』
「そうだね。本来なら買い取るつもりだったのに紛失しただなんて思いもしなかったよ」
そう。レベル上げ以外の目的は、消耗して外に出てこれなくなったクロとシロの欠片を買い取るためだった。
アヤメを産むのに力を使ったのか己の身を削ったのか知らないけど、クロとシロは僕のスキル、[放置農業]の中から出てこれなくなってしまっているからだ。
〔ミミックのダンジョン〕でのみドロップする石の欠片を集める事でクロとシロの力が戻るし、元々以前冒険者学校に来た時からクロとシロの欠片を買い取るからもしもそのドロップアイテムを回収したのであれば取っておいて欲しいと、学校側にお願いしていた。
なので〔ミミックのダンジョン〕に行くついでに回収しようと思ったのだけど、その時に聞かされた話は不可解なものだった。
◆
「えっ、無くなったんですか?」
「そうなんだ鹿島君。学校の方で買い取りして保管していたんだけど、自分達が中国、ロシアの方に行っている間に無くなってしまったみたいでね。
他のドロップアイテムなんかの貴重品と一緒に保管していたのに、何故かそれだけが無くなっていたんだ」
そう言って困ったような申し訳ないような表情を浮かべる、冒険者学校の生徒会長である女性のような見た目の矢沢恵さん。
[アイドル・女装]という女装を強制されるデメリットスキルは克服したはずなのに、最終派生スキルが優秀すぎて周囲からスキルを使用できるようにしておいて欲しいと頼まれるため、相変わらず女装したままの悲しき人。泣いていいよ。
「無い以上は仕方がありませんけど、あれって僕以外に使い道がある人っているんですか?」
「いや、そんな話は聞いたことがないよ。むしろ誰一人として使い道がなくて、今までダンジョンでドロップしても捨てられていたくらいだし。
今でも価値が無いといっていいもので、その周囲に置いてあった貴重品の方が価値があったから物取りの犯行にしてはおかしいんだ」
「そうですよね。まあ無い以上は仕方がないですから、ダンジョンでレベル上げするついでに回収してくることにしますよ」
「本当にごめんね」
「気にしないでください。矢沢さんが悪いわけじゃありませんから」
◆
「誰がこんなの集めるんだろうな」
『人のパパとママを見ながらこんなのって言わないで欲しいのです。パパとママも怒るのですよ』
僕がスキルのスマホで[放置農業]の画面から見えるクロとシロを見ながらそう呟くと、アヤメが耳ざとくそれを聞いて咎めてきた。
「ごめんごめん。だけどさ、僕みたいなスキルじゃなきゃクロとシロの欠片って何の意味もないインテリアにしかならないと思うんだけど、誰がクロとシロの欠片を盗んだのかなって思って」
「もしかしたら盗んだのではなく、自然消滅したとか。長時間放置しておくと消えて無くなってしまう代物だったのでは?」
乃亜がそう言ってきたけど、僕はそれに対して首を横に振る。
「いや、そんな事はないみたい。1年どころか10年以上前から放置していた時は消えなかったみたいだし、消えた物は最近ダンジョンから入手した物だって言ってたから、時間経過での消滅は考えづらいよ」
だけどだからと言って、泥棒が盗んでいったにしては他に価値のある物があったのに、クロとシロの欠片だけを盗むとか意味が分からない。
「一体何で消えたんだろ?」
「分からない事考えても仕方がないんじゃないかな。どうせここの魔物を倒せばドロップするんだし、レベルアップのついでに手に入れればいいよ」
「確かにソフィアさんの言う通りだね」
もっとも、1つだけ気がかりなことを聞いているのだけど、今は気にしてもしょうがないかな。
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