42話 まさか、またか?!
好き勝手暴れる【Sくん】に対し、僕らは何とかやられずに済んでいた。
【典正装備】を使って手当たり次第に攻撃してくるから攻撃があっちこっちに飛んでくせいで、まともに戦った事がないかのように僕らに直撃させることがそうそうなかったからだ。
そうなってくると逆に心配になるのはこの場にいた他の人達だけど、幸いにもガチャに溺れてしまった人達は全く思考できないわけではないので、「ガチャー!」と叫びながらも勝手に逃げていってくれた。
これで巻き添えが出なくなるから良かったよ。
ただソフィアさんとオリヴィアさんは【Sくん】の攻撃から逃げはするも、何故か僕らから離れてどこかに避難しようとはしなかった。
そんな2人が少し心配にはなるけれど、他に周囲を心配せずに【Sくん】に集中できるので問題はないはず。
……しかし100人以上この場にいたのに結局【魔女が紡ぐ物語】と戦うのが僕らだけになっているのには釈然としないものがある。
「とはいえ嘆いていても仕方がないか。じゃあ冬乃、いつものお願い」
「分かったわ。〔業火を育む薪炭〕〔溶けた雫は素肌を伝う〕」
もはやお馴染みとなった冬乃の3種【典正装備】による強力な遠距離射撃による攻撃。
5分だけとはいえ、僕が〔籠の中に囚われし焔〕を再召喚してインターバルを消すことで連射できるこの攻撃は、【ヤ=テ=ベオ】相手だったら〔業火を育む薪炭〕の無い状態でも倒す事ができた組み合わせだ。
「いくわよ咲夜さん、オルガさん。〈解放〉!」
『ガチャ』
冬乃の呼びかけですぐさま【Sくん】の近くから咲夜とオルガが離れると同時に放たれた炎は、先ほど【Sくん】が〔籠の中に囚われし焔〕で放った炎よりも強力なものだった。
だけどその炎が【Sくん】に当たる事はなかった。
『〔曖昧な羽織〕はさっき使っていたのになんで使えるのです?!』
ガチャから出てきたのは先ほども使用していた〔曖昧な羽織〕。
攻撃は【Sくん】を素通りして背後のガチャに当たるだけだった。
本来〔曖昧な羽織〕は能力を解除したら12時間のインターバルが存在するものだ。
「インターバルなしで【典正装備】を使える。いや、ガチャから出た新しいものならインターバルは関係ないってことか」
さっきも〔傷跡のない恍惚なる痛み〕を2つ使っていたんだから、それぐらいの事はやってのけるのか。
「あれじゃあ攻撃しても意味ないわね」
『ガチャ』
冬乃が攻撃を止めると、【Sくん】は再びガチャから出てきたものを手に取ろうとする。
「今よ。〈解放〉」
『ガチャ~~!?』
大慌てでその場から飛び跳ねる様に離脱した【Sくん】は辛うじて冬乃の攻撃を避けていた。
「〈解放〉〈解放〉〈解放〉〈解放〉」
『ガ、ガチャーーー!!?』
〔曖昧な羽織〕の能力を解除して別の【典正装備】を使おうとした隙を見計らって攻撃した冬乃だったけど、【Sくん】はコミカルな動きでそれを避け続けてしまう。
あのずんぐりむっくりな見た目で意外と回避上手いな。
『ガチャ~』
【Sくん】は避けながらもガチャから出た新しい【典正装備】を手に取って冬乃の方へと向けてきた、ってあれはまさか!?
【Sくん】の手にもった鏡が光り冬乃を照らしてしまう。
「おぎゃあああ!?」
「冬乃!?」
光が治まった後にその場にいたのは赤ん坊となった冬乃だった。
「嘘でしょ? 僕らが使ってる【典正装備】以外の【典正装備】も使えるの?!」
片瀬さんがかつて僕に使った〔桃源鏡〕が使用された事に驚きながらも、冬乃を放置するわけにもいかないので腕に抱えて【Sくん】との戦いから少し距離をとる。
『大丈夫冬乃?』
『大丈夫よ。だけどこの状態じゃ【典正装備】なんてまともに使えないから[狐火]や[幻惑]くらいしか使えないわ』
魔道具の〔絆の指輪〕で冬乃に問題ないか確認したけれど、やはり僕の時と同じでスキルは使えるだけの精神が高校生の赤ん坊になってしまったようだ。
『私はもうろくに戦えそうにないからオルガさんをサポートしてあげて』
『分かった』
僕は[チーム編成]の〈サポート〉に設定していたオルガを冬乃と入れ替え、さらにオルガに器用度が100%上昇する執事服を着せる。
「……ん? 調子が良くなった」
オルガがチラリとこちらを見てきたので頷くと僕が何かしたんだろうと悟ったようで、〔籠の中に囚われし焔〕による冬乃の連続攻撃がなくなり再び好き勝手に暴れ出した【Sくん】に咲夜と共に攻撃をしだす。
『ガチャ』
「あ、今度はわたしの【典正装備】ですか」
咲夜達の攻撃を〔傷跡のない恍惚なる痛み〕を振り回しながら牽制していた【Sくん】によりガチャから排出されたのはアイマスクである〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕。
これを使用されたら10秒間麻痺させられるから厄介なんだよな。
『ガチャ~』
そう思っていたらハズレと言わんばかりにため息を吐いてそれを捨ててしまった。
「ちょっ、失礼じゃないですか!?」
「まあ目を塞いだ時間効果を発揮するタイプだから、普通は戦いながら使用できるものじゃないよね」
乃亜が【Sくん】のあんまりな行動に憤慨しているけど、さすがにあれを着けて戦闘するには相応のスキルがないと無理だよ。
それはともかく今の行動で分かった事がある。
「あのガチャは確かに色々な【典正装備】が出てきて厄介だけど、どうやら【Sくん】が望んだものがそう都合よく出て来るわけじゃないみたいだね」
もしもそうだったら最初から使えないと分かっているものをガチャから出したりしないはずだし。
〔桃源鏡〕連続で出てきて全員赤ん坊にされる心配がなくなってホッとしたよ。
……もう赤ん坊になるのは嫌だから、出来る限りガチャから出てこないでくれよ!
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて先行で投稿しています。




