39話 回せ!
すいません、前話の投稿する日にちミスってました。
寝ぼけていたんでしょうね……。
アヤメの発言に僕らは固まり、再びカプセルトイを上から下まで見てしまう。
「まさか、これを回すのですか?」
「う、嘘でしょ? そんな事でこの試練はクリアなの……?」
「……そんなまさか」
あまりにも単純な事すぎて、全員が全員信じ切れていなかった。
だってこの目の前のカプセルトイはあくまでオブジェであって、〈ガチャ〉を回すにはスマホからのはず……。
しかしこのカプセルトイが何なのかは一切言及されておらず、またただのオブジェだとも言われていない。
こんな簡単なことで試練がクリアできるはずがない。
そう思うには乃亜達から聞いていた話が否定していた。
【穢されし泉の女神】はスミ僕を泣かせるだけ。
【空腹のヤ=テ=ベオ】はミノタウロスを捕まえて食べさせるだけ。
【寝付けない織田信長】は耳栓を渡すだけ。
【飾りたがりのドッペルゲンガー】はコスプレ撮影会をするだけ。
【煩悩の仏】は咲いてる花をばら撒くだけ。
どれも気づけば簡単な事だ。
やることは単純でそこまで難しい事じゃない。
つまりこの最後のミッションもそう言う事なんだろう。
気が付けば大した事なかったんだ。
「では、回してみますか。仮にこれがただのオブジェだったとしても私達には何の損もありませんし」
「そうね。どうせだから全員で回しましょ。【アリス】を引き当てた人に確定で【典正装備】が手に入るなら、ここにいる全員が手に入れた方がいいもの」
「……でもここにいるの5人」
『ご主人さまの事は気にしなくていいのです。この試練の参加権がないのですから』
いや、そうなんだけど言い方ってものがあることない?
「本来なら咲夜先輩達も呼んでから誰が【典正装備】を手に入れるか決めてから回すべきでしょうが、今も黒い渦へと駆けこんでいる人がいるのでこれ以上犠牲を出さないようにするにはもう時間がありません」
乃亜の言葉に全員が頷き、巨大なツマミを乃亜、冬乃、アヤメ、オルガの4人で回すことにした。
果たして本当にこれはただのオブジェじゃないのか。
そんな心配は杞憂だった。
ググっと動き出したそれはゆっくりと回りだし、やがてガチャリと金属的な重い音を立てた。
ガコンッと音がすると共にカプセルトイから1個の巨大な黒いカプセルが転がってくる。
コロコロと転がったそのカプセルがやがて動きを止めると、それはまるで崩れる様に消えていき中から1人の少女の恰好をした人間が現れるのが見えてきた。
悲しいことに石の壁に鎖で繋がれた自分である。
あんな自分をこうして客観的に見たくなかったなぁ。
そう思いながら見ていると、腕に繋がっていた鎖が砕け石の壁も消失した。
その瞬間、僕の役目も終わったことが分かった。
◆
「「「『先輩(蒼汰)(ご主人さま)!』」」」
先ほどまで話していたのに、ひどく久々にみんなの声を聞いた気分だった。
日数的にはそれほど経っていないとはいえ、ずっと身動きも出来なければ何も見えない状態だったのだから当然か。それはもう長く感じたよ。
みんなの声にこれでようやく解放されるのだという実感も湧いてきた。
「みんな、助かったよ」
「良かったです先輩。魔女の2人に連れ込まれて【魔女が紡ぐ物語】に取り込まれてしまった時には生きた心地がしませんでしたよ」
「本当よ。正直あの時は泣きそうだったわ……」
「……無事でよかった」
涙ぐみながら乃亜達3人が僕へとしがみついてきた。
『ご主人さまがその恰好じゃなければ感動的だったのです』
「着たくて着てるわけじゃないんだよ!」
この場面で茶々入れるのは止めてくれないかなアヤメ!
アヤメに茶化されながらも乃亜達3人にしがみつかれていると、離れた所にいた咲夜もこちらに近づいてきた。
「よかった蒼汰君。助けられて本当によかった!」
「咲夜も助けてくれてありがとね。……ところでその2人は?」
「「ガチャ……」」
「【アリス】ガチャが終わったらガチャしか口にしなくなっちゃった」
壊れたの?
咲夜に首根っこ掴まれて連れて来られたソフィアさんとオリヴィアさんは、まるで大事なおもちゃを取り上げられた子供のような虚無の目をしている上に、手を空中に彷徨わせていた。重症である。
「まあ外に出れば元に戻るんじゃないですかね?」
「そうよね。こうなった原因はこの空間内にいるとガチャ欲が増幅するからだし」
乃亜と冬乃が若干呆れた目で2人を見ながら、早くこの世界から脱出しようと言わんばかりに出口である白い渦の方へと向かうので、僕らもそれに続いて向かう事にした。
周囲には【アリス】ガチャが終わって〈ガチャ〉自体が機能停止したために、ソフィアさんとオリヴィアさん同様ガチャしか口にせずにその場に動かなくなってしまっている。
まあ猫から巻き上げていた情報によると、僕が外に出ればこの空間は崩壊して中にいる人間は強制的に外に追い出されるらしいから、放っておいても問題ないかな。
「ん?」
僕らが出口へと向かっていたら、おかしな事に気が付いた。
出口の前でウサギと猫が立っていて、まるで僕らを外に出さないようするために妨害しているかのようなんだけど、問題はそこじゃない。
「なんで小さい先輩があそこにいるんですか?」
乃亜の疑問は僕ら全員の疑問だった。
あれが【Sくん】であれば別に問題ないのだけど、あれ、どう見てもさっきまで僕が操っていた〔似ても似つかぬ影法師〕だ。
「蒼汰が操ってるの?」
「いや、僕はそんな事してない――あれ?」
そう言えばおかしい。
僕はマリとイザベルに取り込まれた時、確かに〔似ても似つかぬ影法師〕を落としたけど起動はしていなかった。
今の今までその事が頭から何故か抜け落ちていたせいで、あれを〔似ても似つかぬ影法師〕だと勘違いしていた。
でもだとしたら、あれは何なんだ?
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