38話 確率に祈るな
「こ、こんなの試練として成り立っていないじゃないですか……!?」
乃亜の悲鳴にも似た叫びは僕ら全員が思った事だった。
不可能だ。
奇跡に祈っても到底叶うのことない絶望的確率。
もう何回回せば出るのかすらパッと出てこない数字の段階で終わっている。
「でも試練なら必ず攻略する方法があるはずだよ、ね?」
「……教えて」
『言う訳ないニャ』
『というか知らないものは言えないんだよね』
オルガが猫とウサギに問いかけて、この試練をどうすれば攻略できるか聞き出そうとしていた。
そうだ。確かに咲夜の言う通り今までだって何かしらの攻略方法を見つけ出して試練を突破してきたんだ。
馬鹿正直にこんなおかしな確率の〈ガチャ〉をただ回すだけのはずがない!
「……本当に何も知らないみたい」
「「「『『なっ!?』』」」」
オルガが残念そうに首を横に振るのを見て僕らは思わず叫んでしまう。
猫とウサギから聞き出せば何かしらの抜け道があるのかと思ったのに、まさか運営側も知らないなんて思いもしなかった。
まさか本当にこんな引かせる気のまるでない確率に挑まないといけないのか?
「……でも何かある」
「何か、ですか?」
「……そう。【アリス】を引き当てる方法は知らないけど、排出率を100%、1回引くだけで確実に【アリス】を引き当てる何かはあるらしい」
「100%って、じゃあやっぱり攻略方法があるって事なのね!」
冬乃がオルガの言葉に喜んでいて、他のみんなもどこかホッとした表情を見せていた。
確かにオルガは猫とウサギが知らないと言っただけで、攻略方法がないとは言ってなかったもんね。
『それじゃあその攻略方法を見つけ出すのです!』
「でもどうやって? 猫とウサギは知らないんだよ、ね」
「袋叩きにして情報吐き出させようにも知らないんじゃ吐き出しようもないわよね」
『サラッと恐ろしい事言わないで欲しいニャ』
猫たちは戦慄しているけど冬乃の意見には激しく同意だ。
叩いて出て来るならいくらでも叩くんだけどなー。
『嫌な目で見てくるんじゃないニャ!?』
『叩いたところで知らないものは知らないよ!?』
猫とウサギは僕らをドン引きするような目で見て後ずさりしてるけど、一応敵対関係なんだから拷問の1つや2つあってもおかしくはないよね?
まあ知らないのはオルガの[マインドリーディング]で分かっているから、拷問なんて無駄な行動したりはしないけど。
「猫とウサギは放っておきましょ。構うだけ時間の無駄だし、何より時間がないわ」
「冬乃ちゃんの言う通りだ、ね。オリヴィアさんとソフィアさんがこのままだと死んじゃう」
咲夜がチラリと見る先には、祈るように1回1回を全力でタップして〈ガチャ〉を回しているオリヴィアさんとソフィアさん。
すでに課金しているのか先ほどよりもさらに真剣に〈ガチャ〉を回してるけど、それでもほんの少しペースが落ちただけで後数分もすればHPも使い切るだろう。
『とりあえず、咲夜はあの2人が死なない様に見張ってもらってもいいかな? 〔傷跡のない恍惚なる痛み〕ならダメージなく転ばす事が出来るはずだし』
「ん、分かった」
〔傷跡のない恍惚なる痛み〕の存在が今日ほどありがたいと思うとは。
……エバノラから得た【典正装備】がちょいちょい役に立つのが微妙な気分だ。
「それならもういっそのこと今の内に縄で縛りあげておいた方がいいんじゃないかしら?」
『下手に今止める方が中途半端に理性がある分厄介な気がするよ。それよりも〈ガチャ〉を回せなくてポイントを欲しがってる状態の方がまだまともに戦闘できない分止めやすいと思う』
『どちらにしろ〈ガチャ〉をできなくしたところで、ワタシ達も時間が経てばああなるのですから、そんな事している余裕はないのです』
ソフィアさんとオリヴィアさんに時間をかけているくらいなら、いち早く攻略方法を見つけないといけないというアヤメの意見には賛成だ。
だけどまるでヒントのない状態から攻略方法を短時間で見つけるのは至難の業だよ。
「とりあえずカプセルトイの方を調べてみましょう。少なくとも〈ガチャ〉のヘルプにはこれ以上の情報はなさそうですし」
「そうね。この2人は咲夜さんが見てくれるし、私達はできることをしましょう」
「……じゃあ行く」
オルガは乃亜と冬乃の意見に同意すると、ひょいっとウサギと猫を抱えてカプセルトイへと向かって行く。
『ウニャ!? 何で連れてこうとするニャ!?』
「……2匹が知らない何かに反応するかもしれないから連れてく」
『いや、ホント何も知らないんだけど!?』
「……役に立つかはこっちが決める」
『『横暴だ(ニャ)!』』
ウサギと猫の意思はガン無視で僕らはカプセルトイへと向かって行く。
うん。改めて見るとホント大きいな。
乃亜達の3倍の大きさでツマミの部分も人一人くらいはありそうだし。
カプセルトイの周囲をグルグルと見て回る僕らは他の人達に奇異の目で見られてもおかしくないんだろうけど、生憎とその人達は自分のスマホに集中していてこちらを見向きもしていなかった。
「う~ん、特に何の変哲もないカプセルトイですね」
「何かヒントが書かれているわけでもなく、ただただデカい普通のカプセルトイよね」
「……何か分からない?」
『そんな事聞かれても困るニャ』
『分からないものは分からないよね』
全員で調べてみたけれど、ハッキリ言ってお手上げ状態だった。
普通のどこにでもあるカプセルトイでしかないのだから。
『これを調べても無駄って事なのかな?』
「そうなると黒い渦の先をひたすら散策してヒントを探さないといけないのですが、そんな時間ありませんよ」
だよね。
せめてもう少し時間があればまだ調べる余地はあるのに……。
『……なのです?』
『どうしたのアヤメ?』
「何か分かりましたか?」
時間の無さに焦れていた僕らは、少し離れて上から全体を見ていたアヤメが首を傾げながら降りてきたので思わず問いかける。
『いえ、ふと見て思ったのです。このカプセルトイ、出口があるのです』
『いや普通あるよね』
そうじゃなかったらカプセルトイじゃないし。
『その出口のサイズが人と同じサイズなのです』
……………………えっ? まさか……。
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