36話 最悪の文言
≪蒼汰SIDE≫
猫から情報を巻き上げるために七並べをしているけどいい加減飽きてきた。
『ウニャー! あと3枚出せば上がれるのに何で上がれないのニャ!!』
何度かゲームをして少しずつ情報を手に入れたけど、やっぱり七並べは1回が長いよ。
情報自体も【アリス】、つまり僕の個人情報でガチャが3度の飯よりも好きとか分かりきっているしょうもないことばかりだし。
ポーカーにしておけば、とっくに【アリス】の居場所まで吐き出せていただろうことを考えると、いい加減別のゲームに変えたいところだ。
「もう諦めて別のゲームにしない?」
『いやニャ。そもそも七並べで勝ったら一度周囲を見て回るつもりだから、他のゲームをする気はないニャ』
ちっ。別のゲームをするなら接待で負けてあげてもいいのに、勝ち逃げする気満々のせいで負けるに負けられないじゃないか。
情報を少しでも引き出すために七並べを続けるしかないなぁ~。
「先輩、ただいま戻りました」
『おかえり~。〝鍵〟は無事手に入った?』
戻って来た乃亜達にそう尋ねたら首を横に振ってきた。
手に入れるのが無理だと判断したから戻ってきたのかな?
「他の冒険者の人達が〝鍵〟を手に入れられそうだったから任せてきたのよ」
あ、そうなんだ。
冬乃がちょっとホッとした様子でそう言っているので、〝鍵〟の入手方法は相変わらず酷かったんだろう事が予想できる。
【煩悩の仏】=エバノラの試練だからしょうがないね。
『なんであと少しで上がれたのにパス3回させられて負けないといけないのニャー!』
乃亜達の方を向きながら適当に相手していた猫の何度目かの悲鳴が突如として響いてきた。
考えなしに置くからじゃない?
乃亜達と話しながらでも余裕で勝ててしまうので、もう才能がない――いや、ある意味才能があると言えるか。負ける才能だけど。
『それじゃあいい加減【アリス】の居場所を吐いてもらおうかな』
『くそぅ……ニャー』
『はぁ。本来なら〝鍵〟が全て揃った後なんだけど、もう終わりは近いからいいかな』
ウサギが呆れた表情で猫を見ると、未だに自分の手札を見て悔し気にしている猫へとその手を伸ばして首を掴んだ。
『ニャ、何するニャ!?』
『はいはい。遊びはもう終わりだよ。お仕事の時間さ』
『ニャーーー!!』
ずるずると猫を引きずっていくけど待って欲しい。
『ちょっ、まだ教えてもらってないんだけど!』
立ち去っていくウサギの背中に向けて慌てて声をかけると、ウサギがこちらに顔だけ向けてきた。
『安心していい。すでに物語は終盤までたどり着いている。【アリス】の居場所はすぐに分かるよ』
『猫じゃないんだから首を掴むのはやめるニャ―!』
いや、猫じゃん。
って、そんな事はどうでもいいとして、ウサギが意味深な事言っていたな。
よく分からないけど、とりあえず【アリス】の居場所は時がくれば分かるって事でいいのかな?
「と、取って来たぞ……」
「……オリヴィアさん、何だか凄く意気消沈していません?」
「それにさっきまで着ていた服と違うけど、〈ガチャ〉でも回したのかい?」
ソフィアさんの言う通り、オリヴィアさんの服が何故か魔法少女のコスプレから中世ヨーロッパの貴族が着ていそうなドレスに変わっていた。
「【飾りたがりのドッペルゲンガー】はオリヴィアさんを飾って写真撮影をしたかったみたい」
『うん。意味が分からないよ』
それで〝鍵〟が手に入るとか変なボスを相手にしたんだなぁ。
「……10着以上着て頑張った。オリヴィアが」
『オルガさんの言う通りワタシ達はせいぜい衣装を持って逃げる【Sくん】を捕獲していただけなのと、逃げ出しそうなオリヴィアさんを見張ってたくらいなのです』
まああんな恰好をさせられるんだから逃げたくもなるよね。
なんにせよこれで4つの〝鍵〟が手に入ったことになる。
オリヴィアさんが肩を落としながら時計へと近づき、〝鍵〟を使用したことで回っていない時計は残り1つ。
「なんとか1つ〝鍵〟が手に入ったわね。あとは【アリス】さえ見つければ【典正装備】が手に入るでしょ」
そう言いながら少し離れたところの黒い渦から現れたのは他の冒険者の人達。
その人達は何故か体にぬめっとした液体がへばりついてるように見えるのは気のせいだろうか?
「……あそこの〝鍵〟、手に入れようと無理しなくて良かったですね」
「本当ね。最悪のボスだわ」
「〝鍵〟が手に入らなくて悔しいと思ったけど……、あんな目に遭うならこれで良かったと思うよ」
乃亜、冬乃、ソフィアさんがホッとした様子で、〝鍵〟を手に時計へと向かう冒険者達を見ていた。
乃亜達が向かったボスは【煩悩の仏】だからあの液体は……まあそういう事なんだろう。
あの冒険者達は〝鍵〟を手に入れた喜びの方が大きく、さほど気にしていないようだし気にする事じゃないよね。
それよりもこれで5つの〝鍵〟が手に入った。
あとは肝心の【アリス】だけなんだけど、あのウサギの口ぶりから何かが起こるはず。
その考えは正しく、あの冒険者の手によって最後の〝鍵〟で時計の針が回った時だった。
――ゴーンゴーン!
盛大な鐘の音が周囲へと鳴り響くと共に、この〈ガチャ〉の空間にいなかった人達が次々とこの場へと転移されてきた。
「「「ガチャーー!!」」」
〈ガチャ〉に狂った哀れな人達まで現れた。
僕の忠告を聞かずに〈ガチャ〉を回した人はすでに死んでるはずなので、この人達はおそらく猫の言っていた位相がズレた場所、いわゆるサーバーが違う人達の中の生き残りなんだろう。
もっともどう見ても手遅れだけど。
死亡カウンターにはすでに5000人以上の人間が死んでいることを指し示しており、ここにいる百数十人程度しか生き残りはいないのが分かる。
早くこの試練を終わらせて新たな犠牲者が出ない様にしないといけないね。
『お前達よくやったニャ!』
『見事5つの〝鍵〟を手に入れた君達に最後のミッションだよ!』
カプセルトイの所にある台座に2匹が立って、テンション高く5つの〝鍵〟を手に入れた僕らを褒めたたえていた。
『『最後のミッション、達成できるものならしてみるがいい(ニャ)!』』
――ピロン
猫とウサギが高らかにそう言うと、この場にいる全員のスマホの通知音が一斉に響く。
それと同時に目の前のカプセルトイにこの試練において最悪の文言が浮かび上がっていた。
〖〈ガチャ〉で【アリス】を引き当てろ!〗
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




