18話　宗教

　

　僕らの前に現れたウサギと猫は、カプセルトイの方へと向かって行くと全員に聞こえる様に僕らに先ほどした話をした。

　――ピロン　プレゼントが届きました

　オルガがスマホを確認すると、100枚分のガチャチケットが届いていた。

『これで今なら130連回せる！』

「全部ガチャにつぎ込む気ですか。まあ5ポイント貯めるのは割と簡単なので、それもありですが」

「まあそうね。ボスに挑むわけじゃないならそこまで警戒する必要はなさそうだものね」

「問題はない、かな？」

『新ガチャ次第だと思うのです。まあこの流れなら限定ガチャは何が来るかは決まっているようなものなのですが』

「……蒼汰が回したいならそれでいい」

　おおっ！　意外とみんなノリ気だ！

　よし、全員の賛同が得られた今、全員合わせて650連分だ！

　これが1人で回せたらな～。ああ、僕も参加したい……。

　僕が指を咥えて眺めていなければいけないせいで悲しい気持ちになっているのとは真逆に、会場全体は歓喜の声に包まれていた。

「よっしゃ！　これで今度こそ勝つる！」

「今までのオレと同じだと思うなよ運営！　今度こそ引き当ててやるぜ」

「私の運なら100連も回せば特効装備なんて余裕よ！」

　なんて物欲にまみれた歓声なんだ。あの輪に入れない自分が恨めしいよ……！

『そしてお前達のお目当ての限定ガチャが追加されるニャ』

『全員スマホを確認してね』

　――ピロン

　いつもの通知音と共に〈ガチャ〉の画面に【！】のアイコンが前の時のように表示されたので、オルガがそれをタップするのを待つ。

「……ん」

　〖限定ガチャ　〈【穢されし泉の女神】特効ガチャ〉　が解放されました〗

　やっぱり来たか！

　ここで特効装備が手に入れば確実に〝鍵〟が1つ手に入るぞ。

『ちなみにこの限定ガチャは今から30分限定ニャ』

『限定ガチャは3時間ごとに変更されるから、狙っている特効装備があるなら気を付けてね』

『『それじゃあまた（ね）（ニャ）』』

　ポンッと音を立ててウサギと猫が消えると、後に残ったのはすかさずガチャを回しだす人々だけだった。

「時間が限られているなら俺の午前2時教が使えない！？」

「バカめ。手洗い土下座教に入信していないお前の負けだ。これなら時間を選ばないんだよ！」

「クスッ、手を洗っている間に私が引いてみせるわ。乳首教ならこの身一つ、乳首でタップするだけだからすぐに出来るわ！」

「ふっ、甘いですね。それでは物欲センサーに感知されてしまいますよ。寝起き教なら物欲を極限まで抑えて回せるので、圧倒的に有利です」

　違った。頭のおかしい宗教が跋扈する会場に変わり、変な行動する信者たちが溢れていた。

　僕は出るまで引く教だからおかしな行動はしないよ。

「私達は普通に回しますか。こういうのは出る時は出ますし、出ない時は出ないのですから」

「そもそも1個しか出ないなら早く回した方が有利だよ、ね？」

「確率が常に0.01％なら咲夜さんの言う通りよね」

　乃亜達もどうやらとくに自分の信じるガチャの宗教(おまじない)は無いようなので、普通に引くようだ。

『あの行動、意味があるのです？』

「……さあ？」

　アヤメは奇妙な行動をする人達に懐疑的な目を向けており、オルガは首を傾げていた。

　いや、あの行動は仕方がないんだよ。宗教は一度入信したら中々抜け出せないから。

　特にそれで成功した事のある人は余計にね。

「「「ふああああっ！　出ないいいいいいいぃぃ！！！！」」」

　今回はその成功体験を味わえなかったようだけど。

「出てくれるとありがたいのですが……。それではいきます！」

　おっ、乃亜も早速ガチャを引き始めた。

　それに続いて他のみんなもガチャを引き出す。羨ましい。

「武具や防具は出ますが特効装備は出ませんね」

「まだ引き始めたばかりだから仕方ない、よ」

「でも咲夜さん、0.01％ってまず無理なんじゃないの？　普通のガチャでもこんな確率で排出されるものなのかしら？」

　冬乃が少ししかめっ面で言うけど、さすがにそれはごく限られたガチャだけだよ。

　ピックアップ以外の最高レアが0.01％とかなら有り得るけど、本来その辺りは狙うものじゃないし。

『おおぅ。ガチャをドンドン回していくこの感覚、なんだか癖になりそうなのです』

「……いっぱい回す」

　おっ、分かってくれた？

　ガチャを回すのは楽しいよね。当たるのも外れるのも含めて一喜一憂できるガチャはやはり良い文明。

　誰ですか、悪い文明だなんていう一般人は！

「今身に着けている武器と防具が被りましたけど、むしろ当たりですね」

『同じ種類のものなら強化素材として重ねることで+1されて大幅強化されるからね。要らない装備を素材にした場合でも少しだけ強化されるから、他のものが出ても使い道はあるよ』

　〈ガチャ〉で出てきたアイテムをどう利用しようか話しながら、全員が出ない出ないと言っていた時だった。

「……押せない？」

　オルガがガチャを回すところをランドセルの上に乗って後ろから見ていたら、オルガが何度限定ガチャの10連ボタンをタップしても反応しない事に不思議そうにしていた。

　よくよくスマホを覗き見ると、右上の隅からある文字が流れてきた。

　〖限定ガチャ　〈【穢されし泉の女神】特効ガチャ〉　が終了しました〗

　えっ、まだ30分経ってないはずなのに……。そんな、まさかもう引かれたのか！

　周囲の人達全員がキョロキョロと周囲を焦るように見渡す中、1人だけガッツポーズをとっている人物がいた。

「ふははははっ！　やったぞ！　私はこの勝負に勝ったんだ！！」

　限定ガチャの終了のお知らせからほんの少し間を置いて聞こえてきた声。

　それはオリヴィアさんの狂気にも似た歓呼の声だった。