5話 ゲーム
≪蒼汰SIDE≫
巨大なカプセルトイに大勢の人間が向かって行くことになったけど、特に何の妨害もなくすんなりと近づくことができた。
すれ違う【Sくん】は目的の物を僕らが持っていないことが分かるのか、向かってくることもなく真っ直ぐ走っていた。
もっとも、横を走り抜ける際に失望するような目を向けてきた上にため息をつかれたけど。
「あそこがカプセルトイの中に入るための入口なのね」
「結構分かりやすいところにありますよね。しかもご丁寧にデフォルメされた先輩の絵が描かれた大きな看板まで置いてありますし」
看板にはデフォルメされた僕が指をさして、『ここから入れるよ』と吹き出しが書かれていた。
誰がわざわざこんな看板を置いたのか……。
もしも【魔女が紡ぐ物語】が設置したのだとしたら、【魔女が紡ぐ物語】として間違っていないかと思ったけど、ふとこれが【アリス】だったことを思い出して納得した。
『【アリス】なら不思議の国でも鏡の国でも最初は誘導役がいるから、あの看板がその代わりなんだろうね』
不思議の国ならウサギが、鏡の国なら子猫が少女をその世界に導くところから話が始まるので、あの看板はその役割を担っていると思われる。
「あそこから中へと入っていくんですね。軍の人達が次々に入っていってます」
「よく躊躇しないわね。その辺はやっぱり軍人として心構えが違うのかしら?」
冬乃が一応銃器を持って入っていく軍人の人達を感嘆としながら見つめていた。
「当然だな。自分の国にこのようなモノがいつまでもあるなど到底受け入れられないし、ましてや他国にまで被害が及びかねないのならば、全力で事に当たるだろう」
「オリヴィアは責任感が強いね。国の上層部は他国から付け入る隙を与えたくないだけだし、軍人は上からの命令に逆らえないだけだと思うけど」
う~ん、どちらかと言えばソフィアさんの言う通りな気がする。
今回は幸いにも命を脅かすような存在が排出されるのではなく、スマホを使えなくする程度の存在のため、国内の混乱を鎮めるのと自国の面子の為だろう。
「そろそろ入れそうだ、ね」
「事前情報では中でゲームが行われるようですけど、一体どんな内容の試練何でしょうか? ゲームなら咲夜先輩が得意ですよね?」
「どうかな? ゲームは好きだけど、初見のゲームでも上手くできるかは分からない、よ」
咲夜は頼られて嬉しいけど活躍できるか不安そうな表情をしていた。
まあルールも知らないゲームを自信もって上手くやれるとは言い難いよね。
「どんなゲームだろうとクリアする以外有り得ないがな」
オリヴィアさんの言う通りどの道クリアしない事にはこの騒動は収まらず、放置すれば世界中に【Sくん】が広まり、人類はスマホでガチャのあるゲームが出来なくなる地獄に叩きこまれることになってしまう。おのれ【Sくん】め!
……うん。自分のせいだと認めたくないなぁ。
「……クリアしないと、蒼汰助けられない」
『それは割とシャレにならないのです。……自力で脱出できないのです?』
『鎖に繋がれて目隠しまでされてる人間に無茶ぶりがすぎるよアヤメ』
逃げられるならとっくに逃げてるんだよ。
「ちょっとあなた達。おしゃべりはそこまでよ。そろそろ私達も中に入れそうよ」
冬乃に言われて前を見ると、カプセルの取り出し口ほどではないけどそこそこ大きな黒い渦があった。
【ドッペルゲンガー】の試練の時を彷彿させるもので、あれを潜れば中に入れるんだろうと分かるよ。
冬乃に抱えられながら僕は黒い渦を潜るとそこにあったのは――
「「「『『またカプセルトイ!?』』」」」
【Sくん】を排出していたカプセルトイほどではないけど、人の3倍くらいのサイズのカプセルトイが目の前に現れていた。
「……あれ? 人の数が少なくありません?」
カプセルトイに目を奪われていたせいで気づくのが遅れたけど、少なくとも三千人近い人間がこの空間に入ったはずなのに、見る限り100人程度の人しかこの場にいないように見える。
他の人達はどこに行ったんだ?
そう思っていた時だった。
『うわ~また人間が沢山入ってきたよ!』
『忙しいニャ。これで何度同じ説明をしないといけないんだニャ!』
そう言いながらカプセルトイの所にある台座の上に現れたのは、デフォルメの僕よりも少し大きい、3頭身ほどの大きさのぬいぐるみみたいな二足歩行するウサギと猫だった。
『ようこそお客人。【アリス】の世界へ!』
『出来ればとっととこの世界から出て行くか死んでくれたまえニャ』
ウサギが無邪気な少年みたいな感じだとしたら、猫はくたびれた中年だろうか。
ビジュアルが可愛らしいだけに猫の方は中身が残念過ぎる。というか、死んでくれって酷くない?
『君達の目的は【アリス】をこの世界から連れ出す事だよね?』
『それは非常に困るニャ。我々だって生きているというのに、無慈悲に蹂躙して奪い取っていくなどなんたる非道ニャ!』
『【アリス】がいないとボクらは存在できないもんね』
情に訴えてくるの止めてくれません?
そんな事言われても、僕だってこの世界に永遠と拘束されているのは嫌だからどうしようもないのだけど。
『まあいいニャ。オレ達の役目はここに来た人間にルールを説明することだニャ』
『そうだね。それじゃあ早速この世界のルールを説明するよ!』
『よく聞いておけ人間。同じ説明は二度としないからニャ』
こちらが口を挟む間もなく、ウサギと猫は一方的に僕らにルールを説明し始めた。
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて先行で投稿しています。




