44話 あり得ない数のスキル
『くっ、やはり先輩の姿でいるべきでしたか?
そうすればオルガ先輩が堕とされることはなかったはず。
ですが先輩では戦力にならな過ぎて、どの道オルガ先輩はやられていましたかね?』
「こっちの問題が解決してホッとしたところに暴言放り込むのやめてくれない?」
ドッペルマスターがオルガが戦力外になったのを見て、咲夜の拳を大楯で受け止めたり振り回したりしながら残念そうに息を吐いていた。
『この姿なら[損傷衣転]でダメージが抑えられ、先輩の力で服も修繕できるはずだったのに、まさか2人は即行で倒されて、1人は懐柔されてしまうとは思いもよりませんでした』
「それは僕もだよ」
倒さなきゃいけないと思っていた相手が腕の中で大人しくしているなんて誰が予想するんだ?
『普通のドッペルゲンガーであればあんなに簡単に欲に流されることはないのですが、“強欲”と“傲慢”が組み込まれているせいで結局わたし以外誰もまともな戦力になりませんでしたね』
ソフィアさん達は頑張って戦ってたと思うんだけどなぁ。
まぁ200人近くいて、2人、いや一応3人しかまともな戦力がいなかったとか泣いてもいいレベルで悲しいけど。
『まあいいです。結局わたし1人であなた達を相手にすることになりましたが時間は十分ありました。
今から200人ほどのスキルの力を味わわせてあげます。
[身体強化][思考加速][速度強化][腕力強化][脚力強化][器用強化][強靱強化][精神強化][五感強化][ダメージ削減][フィジカルプロテクト][痛覚遮断][先読み][体術][盾術][ハードコーティング][スタミナアッパー][英雄][一騎当千][オートリジェネレーション]』
いやいやいやいや、嘘でしょ!?
確かにさっきから乃亜の身体で咲夜の[鬼神]を使っていたけれど、この場にいる人間だけじゃなくてこの城の中にいる全てのドッペルゲンガーに取り込まれた人間のスキルが使えるだなんて反則もいいところじゃん!
聞いたこともないスキルもあるし、ユニークスキルも当然のように使えるってヤバいな。
『離れていてもスキルのコピーが出来るのはわたしの支配下にあるドッペルゲンガーだけで、先輩達は近くに来るまで変身できませんでしたからね。
先ほどまでの時間で先輩達のスキルを把握していたんですよ。
ソフィア先輩達はそのための時間稼ぎであったというわけです』
今までの【魔女が紡ぐ物語】と違い、僕たちの姿で僕たちのスキルを1人で使える程度なら全員で協力すれば何とかなりそうな気がしてた。
だけどまさか、スキルを通常ではあり得ない数を使って強化できる敵だなんて想像もしていなかった。
『先輩達の目の前にいるのは人類が到達できないほどのスキル数を持った正真正銘の怪物です。
殺されたくなければ早く降参してくださいね。勢い余って殺しかねませんから』
「殺さない様にしてくれるんだ」
『創造主から殺すなと命じられていますからね。やれやれ、自分の手で蝶の羽を毟りたいだなんて厄介な人達です』
降参しても結局やべえ事にしかならなそうな事はよく分かったよ。
でもそれなら――
「後先考えないで短期決戦でいこう。体力無くなったらすぐに僕の所に来て。あと5回回復させられるから」
「思い切りがいいですが、相手がどんな手札を持ってるか分からないのにそれは危険じゃないですか?」
乃亜は心配そうにこちらを見て言うけど、僕はそれに対して首を横に振る。
「いや、どうせ200人近い人間の持ってる膨大なスキルの把握なんてどの道無理なんだから、相手がスキルを使いこなせない内に味方に攻撃が当たるのを覚悟で仕留めるしかない」
「なるほどね。だけど自爆やフレンドリーファイア覚悟なんて正気なの?」
「乃亜ちゃんの[損傷衣転]で傷はつかないけど、それは向こうも同じ」
「確かに相手も乃亜と同じで[損傷衣転]は使えるけど、こっちと違って服を直すことはできないはず。
僕のスキルは自分には作用しないからね」
『ですがご主人さま以外に服を修繕するスキルを持っている可能性があると思うのです』
「そうなったらどの道どうしようもないんじゃないかな? でもその可能性は低いと思うよ」
捕まってる200人近い人間は全員冒険者である上にスキルの枠が限られている以上、戦闘とは直接関係のない衣服の修繕を一瞬でできるようなスキル持ちがいるとは思えない。
スキルの枠に余裕のある冒険者であるほどの高レベルでも、そのくらい強ければお金を持っているだろうし、〔マジックポーチ〕は間違いなく持ってる。
だからスキルで服は直すよりもそこに服を入れておいて着替えるんじゃないかな。
「ん、蒼汰君に賛成。全力でいく。〝臨界〟!」
「やるしかありませんね。〔武神・毘沙門天〕」
「〔業火を育む薪炭〕〔溶けた雫は素肌を伝う〕。こうなったら〔籠の中に囚われし焔〕 でここにあるもの全て吹き飛ばす気でいくわよ!」
乃亜達が持てる全ての力を使うけど、こちらの思惑に相手も乗ってくるつもりなのがその手に出現させたもので伝わって来た。
『ふふっ、ならばわたしも出し惜しみはしませんよ。〔武神・毘沙門天〕』
「やっぱりドッペルゲンガーと同じでドッペルマスターも【典正装備】が使えるんだね」
『……ええ。もっとも変身している人のものしか使えないのですけどね』
……なるほど。乃亜の所持する【典正装備】しか使ってなかったし、そっちまで使い放題ではないわけか。
今までの【魔女が紡ぐ物語】との戦いの中で、一番短時間で激しい決戦が始まった。
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カクヨム様にて先行で投稿しています。




