43話 使ってない手段
戦闘をしているオルガの目が何故かずっとこちらを向いており、何かを訴える様なギラギラとした目で見てきていた。
『……欲しい』
いや怖いよ。
ソフィアさんとオリヴィアさんは僕のスキル目当てで僕を欲しがっていたけど、オルガはうぬぼれでもなんでもなく僕自身を欲しいと言っている。
何故か好意を持たれている事に関しては嬉しいと思わなくもないけど、問題はこのまま捕まったら監禁されて一生飼われそうなイメージがするから怖いんだよ。
『……監禁もまた、いい』
良くないよね? 完全にバッドエンドじゃん。
監禁ルートとか彰人から押し付けられたゲームの中だと、そこから脱出した主人公は1人もいた記憶がないんだけど!
「オルガ先輩が何だか恐ろしい事言ってますよ!?」
「ちょっ、蒼汰に何する気なのよ!」
「蒼汰君を独り占めにするのはよくない」
独り占めとかそんな軽いもんじゃないよね?
完全に自由を奪われる状態を喜べるほどMは極まってないんだよ。
「これは負けられない理由が増えたわね」
「蒼汰君を奪われるわけにはいかない」
「先輩の事を監禁したいほど好きというのはいいのですが、実際にされるのは困ります」
何を言っているのかな乃亜は?
『中々盛り上がっていますね。そろそろわたしも参戦することにしましょう』
「なっ、ドッペルマスター!? さっきまで高みの見物だったくせにどう言う事なの?!」
『ちょっとスキルの把握と変身する人間の選定に手間取っていただけです。
支援に集中するのであればあなたの姿の方が都合が良さそうでしたが、さすがに三対一は厳しくなりそうでしたのでこちらの姿にしました。
変身して実感しましたが正直言ってあなたがここまで戦えないとは……同情します』
「ガチトーンで言うのは止めて」
敵に同情されたの、これが初めてじゃないから尚更悲しい。
『さて、ではやはり[鬼神]を使いますか』
「うわっ、わたしの姿で咲夜先輩が全開になった時みたいな姿になりましたよ!」
さすがにこのままではマズイというのは誰がどう見ても分かり切ったことだ。
なにせ同じ[鬼神]の使い手である咲夜がオルガにその力の行使を止められているせいで、その力を十分に発揮させてもらえないんだから。
「これは、やるしかないか」
『えっ、何をするつもりなんですかご主人さま?』
僕と同じで戦力にはなれないものの、敵の位置を頭に直接伝えてくれる力を使ってみんなをサポートしていたアヤメが、何を仕出かすつもりだという様な表情で問いかけてきた気がするのはきっと気のせいだ。
僕はただオルガの相手をするつもりなだけだというのに。
『やめるのです。監禁エンド一直線なのです』
そう伝えたら信じられないものを見るかの様な目で言われてしまった。
「でも誰かがオルガを引き留めてないと、ドッペルマスターが参戦してきた以上このままじゃ全滅させられて結果は同じだよ」
ちらりとドッペルマスターを見ると乃亜達に向かって攻撃を仕掛けていたが、『この身体でいきなり[鬼神]は慣れませんね』と言って見当違いの場所に高速で移動していた。
ドッペルマスターが慣れるまでの時間の問題であり、もはや四の五の言ってる場合じゃない。
「オルガの目的が僕なら、囮として十分役立てるはず」
『その結果が十八禁エンドでもなのです?』
勇気を振り絞っていくんだから心がくじけそうな事言わないでくれない?
「大丈夫。その時はみんなが助けてくれるさ」
『他力本願というか、問題を明後日に放り投げたのです』
「今ここを何とかしないと明日すら来ないんだよ!」
僕は意を決してオルガの方へと駆けだした。
「あっ、先輩何を?!」
「僕がオルガを引き留めるから、咲夜は[鬼神]の全開使用でドッペルマスターを引き留めて」
「う、うん。分かった」
乃亜達は僕の行動に少しの間戸惑ったけれど、意図を話すとすぐさま納得してくれた。
『……あはっ』
ガンギマリした目をした状態で笑われるとこんなにも怖いんだって思い知らされた。
オルガの僕を見る目が怖すぎるよ。
そのせいでオルガにそのまま近づくはずが、乃亜達よりも少し前に出た位置で止まってしまう。
『……来た。来てくれた。……鹿島、蒼汰』
自分のフルネームを言われてこんなにも怖い思いをしたのはこれが初めてです。
『……怖い? じゃあなんて呼べばいい?』
「普通に名前だけ呼んでくれればいいよ」
『……そうた。ソウタ。蒼汰。……うん、蒼汰』
……これ以上近寄れる気がしなかった。
ここから先に進んだら、そのままお持ち帰りされてどこかに連れ去られるイメージが湧いてしかたがなかった。
誰か、勇気をください。
「先輩無理しないでください。それにまだ使っていない手段があります!」
乃亜はそう言うと僕をギュッと抱きしめてきた。
そうか。[強性増幅ver.2]でさらにパワーアップするつもりなんだね。
「オルガ先輩! こっちに来て一緒に先輩を抱きしめませんか?」
「ふぁ?!」
何言ってるの乃亜!??
『……温かくしてくれるなら何でもいい』
頷いちゃった!?
ひょこひょことオルガはこちらに近づいてくると、そのまま僕を抱きしめて大人しくなってしまった。
「予想以上に上手くいきましたね。これでドッペルマスターに集中できますよ」
えっ、使ってない手段ってこれなの!?
というか、覚悟して来たのにこの結末はないでしょ!?
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