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ああ、課金してぇーー!!!~課金できないから現代ダンジョンでレベルを上げる~  作者: 甘井雨玉
9章

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幕間 オルガ・ポポワ(2)

 

 転校初日、教師に連れられ自分が所属することになるクラスへと赴くことになった。


『「キャー、なにあの子!? お人形さんみたい」』

『「小っちゃくて可愛いな」』

『「ハァハァ……」』


 日本の学生は心の中で思った事をそのまま声に出しているようだ。

 最後の人は孤児院にいた職員と同じニオイがするのは気のせいではないと思う。


「……オルガ・ポポワ」


 ロシアにいた時にリモートで勉強を教えられていた時に、少しでもいいから声を出す様に言われ続けたお陰で、ある程度は声を発せるようになった。

 まだ普通には喋れないけど。


『「日本に来た理由は?」』

『「ロシアの寒さってやっぱりキツイの?」』

『「スリーサイズ――ぐふっ!」』


 だから質問されても困る。あと最後の人は殴られて当たり前だと思う。

 なんとか単語で回答していくが、こんなにも人に囲まれる経験は初めてだったので大変だった。


『大人し■うな子。咲■と似て■?』


 渡された資料にあったターゲットの方からそんな声が聞こえてきた。

 ボクと似ているというのは分かる。

 ボクも資料を見て、ターゲットの中で四月一日(わたぬき)咲夜に一番親近感を湧かせていた。

 だけど四月一日(わたぬき)咲夜とボクとでは致命的に違う点があった。


 彼女には親しい人物が少なくとも3人いて、ボクには1人もいないということ。

 その事に、資料を渡された時や転校してきたばかりの時には何とも思わなかった。


 鹿島蒼汰と接触するまでは。


 鹿島蒼汰がクラスメイトの男子達に何故か追いかけられて困っていた時、そこから助けたソフィア・グティレスとオリヴィア・ローズ・ウォーカーが争い出した隙に鹿島蒼汰を連れ出し、言われていた通り他国の勧誘を防ぐとともに親密な関係になるべく行動した。


 女子トイレの個室に連れ込み、対象と2人きりになる。


「あの、オルガさん?」

「……オルガでいい」


 親しくなるにはまず敬称を省くといいと聞いた。


『年上の女性に対して呼び捨てとか……咲夜に対しては割と早い段階で呼び捨てだったから別にいいんだけど、それよりも今の状況だ』


 直接触れているから鹿島蒼汰が少し困惑しているのはハッキリ伝わってきたけど、敬称を省いて名前呼びすることに問題はないようだ。

 どちらかと言えばこの状況に困惑しているせいでそんな事を気にしていられないみたいだけど、それならそれで好都合だ。

 結果的に敬称を省かせることに成功しているのだから。


 しかしこれで満足するわけにはいかない。

 指令では親密な関係になれればいいと言われているのだから、さらに畳みかけねば。


 親密な関係……………肉体接触か。


 問題ない。知識はちゃんとある。


「……座って」


 身長差があるから、まずは座らせてボクが膝の上に座ればちょうどいい。

 鹿島蒼汰は座っている場合じゃないと微妙な抵抗をしているけど、ボクの力には敵わず座らせることに成功した。


「ちょっ、何してるのオルガ?!」


 そしてその流れでボクは鹿島蒼汰の膝に座って密着し――


 その時、初めて人の温もりを知った。


 誰にもまともに触れられた覚えのないボクは、それがとても気持ちいいものだと知ってしまった。


「……これ、好き」


 口から自然と洩れた言葉。


 人の温もりはこんなにも心地よいものだったのか。


 いや、これが他の男の人であればこんな気分にはならなかっただろう。

 下心なんて何もない、純粋に困惑しているだけだからこそ、その胸に寄りかかって安心して眠れるのだから。


 もっともそんな時間は短かった。

 それが名残惜しくて襲わないのか尋ねたけど襲うという発想はおろか、抱くことすら頭によぎっていない。

 ちょっと残念。


 またその温もりを感じたいと思ったのだけど、それが叶ったのは姉の攻撃から助けられた時だった。


 意味が、分からなかった。


「……なんで、助けてくれたの? ボク、役立たずだったのに」


 ただ怯え震えているボクなんて見捨てられて当たり前なのに。


『そんなに深く考えての行動ではなかったし、強いて言えば友達だから?』

「……友、達?」


 鹿島蒼汰から伝わるのは深く考えての行動ではなかったこと。

 そして、ボクをただ純粋に守ろうとしてくれた想いだけだった。


 こんな温もりを僕は知らない。


 こんな打算もなにもない温かさを、僕は知らない。


 知らなければ何も思わなかった。

 知ってしまったから火種が生まれた。


『……()()はあの人が欲しいんだよね?

 ……あの温もりを自分のものにしたいんだよね?

 ……指令なんか関係ない。何もかも捨てて、あの人が傍にいてくれるだけでいいんだよね?』


 だからボクは唐突に始まった試練で向き合ったドッペルゲンガーの言葉は否定できなかった。

 動揺し震える手でナイフを正確に操れず、欲望で強くなっていたドッペルゲンガーに敵うはずもなくのみ込まれた。


 ドッペルゲンガーに取り込まれたことで、生まれた火種が“強欲”と“傲慢”で一気に膨れ上がった。

 半分無自覚だったその感情が、心の全てを埋め尽くしていく。


 ボクは、あの人が欲しい。


 ただの一度も温もりを知らなかったボクにそれを教えてくれたあの人が、ボクはただただ欲しかった。


気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。


カクヨム様にて先行で投稿しています。


33話と41話を少しだけ修正しました。

読まなくても本筋に影響は全くありませんが。


33話では試練中に陰に潜んでいものがその試練の間だけの存在であることを念のため明記したのと、41話ではソフィアさん達の服がビリビリに破れたことを加筆しました。

33話はともかく41話は必須でしたね( ੭•͈ω•͈)੭

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 33話では試練中に陰に潜んでいものがその試練の間
[良い点] これはこれは ヤバイね!ナニがって? 蒼汰の〇〇がさ! [一言] こ、、、これは 俺が救うしかない!! 「スリーサイズ――ぐふっ!」 〇〇くんに幸あれ
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