41話 無茶するわ
「手を抜いてる余裕はなさそうですね。一撃で決めます」
『あいにくだが私も鹿島先輩の力でパワーアップしている以上、そう簡単にやられると思うな!』
乃亜の一発KO宣言にオリヴィアさんは激高しながら、手に持っているロングソードを振り下ろして大楯を弾き飛ばそうと試みる。
横なぎに振るわれたロングソードは想定以上の力が込められていたのか、乃亜の手から大楯が弾き飛ばされてしまった。
『よしっ。これで!』
「はい。これでお終いです。〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕」
『なっ、体が……!?』
乃亜は追加の試練が始まってからずっと身に着けていた〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕を外しオリヴィアさんを視認。
その結果、オリヴィアさんは10秒間麻痺させられ動けなくなった。
「先輩!」
「分かってる」
僕はスキルのスマホを操作し、再び乃亜の手元に大楯を再召喚する。
『状態異常なら、[ホーリーエンチャント]。っ?! バカな!? このスキルは状態異常を無効にできるはずなのに!』
「こちらの能力の方が強かったということですよ。しばらく眠っていてください、ねっ!」
振るわれた大楯がオリヴィアさんの腹部へと直撃し、着ていたメイド服は乃亜との力量の差のせいか1撃で服としての機能が果たせているのか怪しいほどボロボロになり、弾き飛ばされたオリヴィアさんは横たわったまま意識を失っていた。
「まず1人です。次は……冬乃先輩の手助けを先にした方が良さそうですね」
乃亜は防戦一方の咲夜とギリギリ互角の戦いをしている冬乃を見比べ、先に手早くソフィアさんを片付けて全員でオルガを止めるつもりのようだ。
『………』
「……強い」
咲夜は苦悶の表情を浮かべているけれど角も生やしておらず[鬼神]を全力で使っていないし、耐えるだけならまだいけそうなので乃亜の判断に賛成だ。
「[獣化]も[複尾]も[気狐]も使っているのに、押し切れないなんて……!」
『中々チャーミングな姿じゃないか。奇怪という点ならワタシも人の事は言えないけどね』
冬乃はあまり人前で見せたがらない[獣化]を使用して人型の狐のような姿になっており、ソフィアさんはカティンカと戦ったと時と同じように顔以外がサイボーグ化状態になる[フルボディオーダー]を使用していた。
「[幻惑]」
『おっと。毒々しい色の煙だけど、名前から察するに幻でも見せるスキルかな?』
先ほどから冬乃は接近戦で苦しくなってきたら距離を取るために[狐火]や[幻惑]を使用して、ソフィアさんの方から距離を取らせるように仕向けていた。
本来であれば[狐火]や[幻惑]が当たればいいのだろうけど、異常なまでに回避するのが上手く当てられていない。
おそらく回避や予知系のスキルをいくつか持っているのだろう。
『[フォースギア]』
「まずっ!?」
ソフィアさんは自身を強化したためさらに動きが速くなり、冬乃が一瞬対応が遅れて一撃受けそうになった。
「させません!」
『おっと、やるね』
ギリギリのタイミングで乃亜が間に入り、ソフィアさんの拳を大楯で受け止めていた。
『二対一か。やっぱりオリヴィアじゃダメだったみたいだね』
「雑談する気はありません。早くソフィア先輩を無力化して、咲夜先輩の元に駆けつけないといけませんから」
『二対一ならワタシに勝てるって? 甘く見過ぎだよ。[エクスターナルデバイス]展開!』
四肢に機械の鎧、背に6本の機械の翼が展開された。
今まで見た限りではソフィアさんの全力形態と思っていいはず。
「冬乃先輩、わたしが前に出ます」
「分かったわ」
『はあっ!』
機械の翼の加速装置がソフィアさんを高速で移動させ、手に持つレーザーブレードが乃亜の大楯に振るわれる。
「くっ!」
『おや? これで斬れないなんて凄い武具だね』
「特注品です!」
【典正装備】を特注品と言っていいんだろうか?
「そっちがそれを使ってくるなら、多少の火傷は勘弁しなさいよね。〈解放〉」
『よっと』
〔籠の中に囚われし焔〕から放たれた炎の弾丸をソフィアさんは軽々と避けてしまう。
やはりソフィアさんのあのスキルは機動力が有り得ないほど凄い。
「くっ、動きが速いわ。これじゃあ攻撃が当てられないわね」
冬乃が悔し気にソフィアさんを見ていた。
そんな冬乃に乃亜が少し顔を近づけ、こっそり何かを呟き出す。
「冬乃先輩――」
「えっ、正気なの?!」
「あの機動力ではまともに攻撃は当たりません。それにあまり時間はかけられませんし」
乃亜が近くにいた冬乃にしか聞こえない声で何かを告げると、冬乃は驚愕していた。
一体何を話しているんだ?
『作戦会議は終わりかな? もっともこれ以上させる気もないけどね!』
勢いよく乃亜達に向かって飛んでいくソフィアさんに対し、覚悟を決めた様子の2人。
何をする気なんだ?
「任せましたよ。冬乃先輩」
「やりたくないけど仕方ないわね」
高速で迫ってくるソフィアさんに対し、先ほどと同じように乃亜が大楯を構えてその攻撃を受け止めた。
「今です」
「〈解放〉」
『えっ?』
後ろから乃亜に〔籠の中に囚われし焔〕をぶっ放した!?
回避や予知系のスキルがあっても乃亜の背中で炎が見えなければ気づかれないとはいえ、なんて無茶苦茶な!?
――ドゴンッ!
――パンッ!
「ぐっ!?」
『きゃあっ!?』
乃亜に着弾した炎がさく裂し、乃亜と一緒にソフィアさんは巻き込まれる形で炎に包まれる。
「まだです。〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕」
『くっ、この程度の拘束……!』
炎に包まれながら乃亜は〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕を外して、ソフィアさんを視認していた。
もっとも、先ほど身に着け直したばかりの〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕では、身に着けた時間に比例して効果が上がるから少し動きを鈍らせただけだ。
しかしそれで充分だった。
「はああっ!」
『しまっ、[金剛]!?』
「〈解放〉!」
――バンッ!
普段拳銃みたいに撃ってる〔籠の中に囚われし焔〕だけど、剣の形状をしているそれが振るわれたのを見るのはこれが初めてかもしれない。
ソフィアさんの胴体にそれが当たった瞬間、〔籠の中に囚われし焔〕を発動させ剣の一撃に炎がさく裂した衝撃が合わさった。
ソフィアさんに悲鳴すら上げさず吹き飛ばし、壁に叩きつけられたソフィアさんは着ていたチャイナ服がダメージを肩代わりしきれなかったせいか、素足がさらけ出された状態でそのまま動かなくなった。
「倒せたわね。それにしても無茶するわ乃亜さん。乃亜さんごと〔籠の中に囚われし焔〕を撃てだなんて」
「そうでもして隙を作らなきゃ〔閉ざされた視界・開かれた性癖〕で視認すら難しそうでしたから。
それに冬乃先輩だってゼロ距離で〔籠の中に囚われし焔〕を叩きつけながら放つなんて無茶しますね」
「しょうがないわ。[金剛]で防御力を上げられたから、このくらいしなきゃ気絶させることもできなさそうだったもの」
「[損傷衣転]で被害は服だけだと分かってるからこそできることですよね」
「お互いにね。さて咲夜さんの方に向かいましょ」
「はい!」
ソフィアさんを倒した乃亜達は咲夜の元へと向かって行く。
「……僕に出来る事は服を直すくらいか」
『ご主人さまもワタシも戦力になれませんからね。出来る事をしていくしかありませんよ』
ちょっと悲しいと思うのは、まあいつもの事か。
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