エピローグ1
≪蒼汰母:筒野瀬乙葉SIDE≫
「はぁ……」
「ため息なんてついてどうしたんですか筒野瀬係長?」
仕事の休憩時間にパソコンのメールの報告書を見ながらため息をついていたら、コーヒー片手にくつろいでいた部下の子に声をかけられたからそっちに顔を向ける。
「ため息もつきたくなるわよ。なんで安全地帯を設置するだけの安全な仕事をするだけのはずが、【魔女が紡ぐ物語】そのものを倒してるのよ。しかもSランクダンジョンの」
「あの少年、そう言えば筒野瀬係長の息子さんでしたね」
Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語】討伐作戦に参加するという話を聞いた時は正直言って止めなさいと言いたかったけれど、残念ながらその話を聞いたのは討伐作戦が開始する当日だったのよね。
でもやることは安全地帯を設置するだけでベテラン冒険者達に守られながらの移動のうえ、確かあの咲夜って子が転移系の【典正装備】を持ってて矢沢恵の蘇生スキルがあるからそう心配はしていなかったのに、報告を聞いて心臓が止まるかと思ったわよ。
「でも息子さん英雄じゃないですか。やりましたね」
「誇らしい気持ちが無い訳じゃないけど、それを上回る胃痛が襲ってるわよ」
「半分優しさのやつ飲みます?」
「あれ頭痛だけじゃなかったのねって、薬の話は今はいいのよ」
……はぁ、まったく。
英雄なんて聞こえはいいけど、そのせいで更に面倒ごとに巻き込まれるんじゃないかと気が気じゃないのよ。
幸い蒼汰は悪目立ちしたくないからと、自分が【魔女が紡ぐ物語】を倒した事を広めないで欲しいと言っていたのと当人が未成年な事も相まって、報道では討伐作戦に参加した人と一緒に名前が出ている程度だった。
だけど冒険者組合には正確な情報は伝わっているし、日本に入り込んでいる各国のスパイもその情報を掴んでいるだろうから、誰が何をしたのかなんて知られているでしょうけど。
「日本はSランクダンジョンを占拠していた【魔女が紡ぐ物語】がいなくなったからいいけど、他の国がなんて言うか……」
「少なくとも男の娘の方はあらゆる国に引っ張りダコじゃないですかね?」
死なないなら参加してもいい、むしろローリスクで【魔女が紡ぐ物語】討伐できるなら参加させてくれって人が大勢いるでしょうから間違いないでしょうね。
「その娘や英雄君がデメリットスキル保持者だったことから、各国はデメリットスキル保持者の育成に取り組もうとしている噂がもう出てますよね」
「レベル差があるとレベルの低い方には経験値が入らない問題はどうするのかしらね?
まあ色々手が無い訳じゃないから、下手すれば1年くらいである程度使える人材に育成できるでしょうけど」
「でも筒野瀬係長の息子さんって冒険者になって半年ぐらいじゃありませんでしたっけ?」
「本来ならありえない成長速度だわ。普通の人が同じ速度で成長しようと思ったら死に急ぐという言葉じゃ足りないくらいよ」
あの子のガチャへの執念を甘く見過ぎたかしら……。
[無課金]スキルがパーティー支援特化になっただけ、まだマシなのかもしれないけど。
さすがに[無課金]のスキルを得るように調整したと言っても、そのスキルが成長してどんな派生スキルが身につくかまでは私にも分からないから、支援系になったのは幸いだったわ。
直接戦えるスキルだったら、レベルを上げるために考えなしにモンスターハウスに突っ込んでそうだもの。
「お願いだからこれ以上危ない事をしないで欲しいわ」
「少年本人が望む望まないに拘わらず難しいと思いますよ。なんせ今回の討伐で手に入れているものがものですから」
部下の言葉に頭まで痛くなってくる。
あまり母親に不要な心配をかけさせないでくれないかしらね?
◆
≪???SIDE≫
「ワタシが日本にですか?」
「ああ、君以外適任者がいなくてね」
ワタシは意外な人事に目を丸くしてしまう。
「大丈夫なんですか?」
「何年も前のことだし、あの頃とは容姿もだいぶ変わってるから問題ないさ。それに万が一襲われても君なら対処できるだろ?」
ワタシは言外にあることを尋ねると、上司はなんでもないだろと笑ってきた。
「それはもちろんです」
「なら頼んだ。他の国に後れを取るわけにはいかないからね」
「確かにそれはそうですが……」
Sランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語】討伐を成した立役者の確保が今回の指令だ。
我々の故郷であるアメリカにもSランクダンジョンがあり、そこに【魔女が紡ぐ物語】が存在するので、先日の【魔女が紡ぐ物語】討伐した時のように討伐に参加してもらうためなのは間違いない。
「ですが一言言わせていただいてもいいですか?」
「何かね?」
「ワタシ、ハニートラップの訓練なんて受けた事ないですよ?」
「そこはほら、君の魅力的な身体を使って上手く取り入りたまえ」
だからその訓練を受けていないのだが。どうやって接すればいいの?
「対象《スマホ》はハーレム築いてるんですよね? そんな相手に適当な感じで通じるのでしょうか?」
「ははっ。冗談だから安心したまえ。上が一番に望んでいるのは《アイドル》だが、そちらは別の者が手配される。
《スマホ》程度の持つ力ならある程度友好的になるだけで十分だし、そもそも一番頼みたいのは他の国にとられないようにすることだけだからな」
アメリカは日本と密接な関係にあるから、他の国より協力を要請した場合の優先順位が高いのは間違いないし、上司の言った通り《スマホ》の能力ならそこまで必死に取り込みに行く必要はないということか。
「了解しました。《スマホ》とは友好的な関係を築きつつ、他国のハニートラップを防いでいきます」
「よろしく頼んだよ」
それにしても《スマホ》、ね。
どんな男なんだか。
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カクヨム様にて1話先行で投稿しています。




