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ああ、課金してぇーー!!!~課金できないから現代ダンジョンでレベルを上げる~  作者: 甘井雨玉
7章

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35話 ガ、チャ……

 

 何も、したくなかった。


 思考することすら嫌で、何かが燃える焦げ臭い匂いをただぼんやりと感じていた。


 ………。



 ………………。



 ………………………渇いた。


 真っ白な思考の中、飢えを、渇きを感じた。


 ナニかが足りない。

 何もしたくない、何もしなくていいと思っているはずなのに、何かがしたくて喉から手が出るような不思議な感じがした。


 まるで長年つるんだ親友が俺を忘れるなと言っているような。そんな、なにか。


 分からなくていい。今感じている疲労に抗わずに眠ってしまえばいい。

 そう思う反面、何故か忘れてはいけない何かがある。そんな気がした。


 ………。



 ………………。













 ……ああ、そうだ。







 今日の無料ガチャ、まだ回してないや。


 ピクリと動かす気が全くしなかった指が動いた。腕が動いた。


 思考する必要などなく、身体の条件反射で自然とポケットにあるスマホに手が伸びていた。


『やっぱり、君か……』


 頭上から何か音がした気がしたけど、今はどうでもいい。


「ガ、チャ……」


 何があっても忘れられない。

 仕方がないで諦められるほど、物分かりなんてよくない。


 寂しくてどうしようもなかった時、唯一僕の心を支えてくれたもの。


 夢と希望を見せてくれ、興奮と期待を持たせてくれた。

 落ち込んでいてもコレがあれば前を向けた。

 死にかけていた感情を湧きあがらせてくれた。


 そんな存在を忘れてただ眠る?

 ありえない。


 これだけはやらなければ僕はその日を終われない。

 たった1度の奇跡、今ここで引き当ててみせる!


 スマホのスイッチをいれ画面を見て、絶望した。


 あ、ここ電波ないから2日間ガチャ引けてなかったわ。


「ぐふっ!」


 強烈な悲しい感情が僕を襲ったことで、ようやく今の状況が理解できてきた。


「た、“怠惰”か……!」

『凄いね。ボクの“怠惰”を実感しているはずなのに喋れるなんて』


 仁王立ちしている信長(ローリー)が感心した声を出していた。


『聞き逃してるだろうからもう一度簡単に説明してあげると、焼け死ぬ前にその刀でボクを斬れば試練達成。理解した?』

「……な、なる、ほど。この、気だるさに、耐えながら、ってことね」

『がんばれ~』


 信長(ローリー)を運んでいた時はスマホの画面を見ていれば“怠惰”に抗えた。

 だけど今はスマホを見続けても、意識を保つのが精一杯で体を動かせる気力が欠片も湧かなかった。


 徐々に燃え広がる火を目の当たりにして、急がなければいけないと分かっているのに心が追い付かず動けない。


 まるで学校に行くのが嫌でずる休みでもしたくなる気持ちを何十倍にでもしたかのような、心に重い枷がかけられてる気分だ。

 動かないとダメだ、そう思ってるのに動けない。


 マズイと分かってるはずなのに心が全くついてきてくれない……!


『君も他の子達と同じように寝てしまえば楽になれる。次がある、次があるって思っちゃえば楽だよね』


 甘く囁くようにかけられた声は今の状況では猛毒だ。

 その甘言に乗せられてしまいたくなる衝動に駆られそうだ。


「ぐっ、クリア、して欲しいんじゃないの……?」


 少しでもその甘言から逃れたくてなんとか話を逸らしたいのと、先ほどまでの発言とは違い、まるでクリアして欲しくないかのような言動に疑問を持ったので問いかけることにした。


『別にどっちでも構わない。ボクはね、“怠惰”によって人間への恨みを心の奥底へと静めてきたけれど、やっぱり憎いって気持ちは捨てきれないんだよね。

 だから“怠惰”らしく他人にそれを委ねる事にした。

 ボクを打ち倒せるならそれでよし。倒せずボクが創り出した【織田信長】という話が人間に被害を与えるのならそれもそれでよしというわけ』

「なんて、はた迷惑な……」

『今は“怠惰”が君達に移ってるから“憤怒”の影響でそんな考えになるんだけどね。普段ならそんな事考えるのも面倒に思うだろうし。

 そう思うとえっちゃんは凄いよね。

 エッチな事考えてるだけで人間への怒りを抑え込んじゃうんだから』


 えっちゃんってエバノラの事だったっけ。

 ……あっ。


 僕はたった1つの閃きにすがった。

 いやそれ以外考えるのが面倒だっただけなのかもしれない。


 でもそのお陰か動くのも億劫で何もしたくない気持ちに心を支配されている中で、たった1つ、この単純な動作だけとりあえずしようと思い行動することはできた。


『……ああ、やっぱりえっちゃんは凄いな』

「はあはあ」


 息はどんどん荒くなり頭の中がある事に支配されかけ、()()()()()の姿勢となってしまう。

 そう、先ほどまで寝たままの姿勢だったのが、なんとか体を起こせそうなところまで体勢を変えることが出来たんだ。


 くそ。想像以上に活躍するじゃないか〔緊縛こそ(ノーボンデージ)我が人生(ノーライフ)〕。


 自分の腕に巻き付けた紐を見ながら若干微妙な気持ちになるも、心にやる気(エロ)が灯り行動しようという気になってきた。

 エバノラの事を思い出せたからなんとかこの【典正装備】を使おうという気になれたよ。


『スキルはともかく【典正装備】は“怠惰”で封じれなかったから仕方ないね。

 だけどその様子じゃまだ無理そうだ。どうする? 諦める?』

「諦める、わけないだろ……!」

『え、それっ……!』


 これが最後だ。

 これでダメなら起き上がれる気がしない。

 頼むよ〔忌まわしき穢れは(ブラック)逃れられぬ定め(イロウシェン)〕!


気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。


カクヨム様にて1話先行で投稿しています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 寂しくてどうしようもなかったときに出会ったのがガチャなのか。それはどうしようもないな。やはり両親の離婚がガチャの魔女を作っているな。 [気になる点] まあ、そうなることを予想できなかったと…
[良い点] >あ、ここ電波ないから2日間ガチャ引けてなかったわ。 知ってたw そこで良く心折れんかったなw
[一言] やはり、最後に頼れるのは、墨さん! これは泉の女神もにっこり(違
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