29話 毘沙門天
≪亮SIDE≫
「くそっ、道三とはけた違いの強さだ!」
『当然ですよ。そもそも印籠を取り込む前ですら私は道三よりも強いのですから、武将2人分の力を取り込んだ私が弱い道理などありません』
〔つぎはぎだらけの優れた肉体〕で速さ特化の肉体に改造している上にスキルで身体能力を底上げしているにも拘わらず、謙信に攻撃がカスリもしない。
仮に道三の時みたいに一撃に全てをかけて攻撃したところで、こいつには致命傷を与える事は出来そうにないという確信がある。
ちっ、信長はこの後が本番だと言っていたし、できれば切り札は温存しておきたいが、謙信相手にそんな事していられるだろうか?
しかし俺の5つの【典正装備】はすでに使用した状態でこれなのだから、今のままでは到底勝ち目が見えない。
〔未来永劫満たされぬ餌袋〕による消化促進。
〔つぎはぎだらけの優れた肉体〕による肉体改造。
〔届かないぶどうは気にしない〕による精神妨害無効。
〔柳は幽霊の住処〕による行動阻害。
そして〔止まる事の知らない踊手〕による疲労無効。
〔止まる事の知らない踊手〕は赤い靴であり、履いている間疲れずに動き続けられるというもので、俺がいつまでも戦い続けられるのは[貯蔵庫]と〔未来永劫満たされぬ餌袋〕とこいつがあってこそだ。
いくら[貯蔵庫]のスキルでエネルギーや水分を保管しておけるとはいえ、動き続けていれば疲労はする。
それをカバーしてくれるのだが、残念ながら攻撃性能はない。
5つある【典正装備】どれもが直接攻撃に有効なものではなく、必殺技とまでいかなくてもいいから敵を警戒させるような強力な攻撃ができる【典正装備】が手に入っていれば良かったんだがな。
『意外と粘りますね。これほどまでの強敵達と戦えるのは心躍りますよ』
「そう言う割には全然苦しそうな顔1つしやがらねえな!」
『ええ、まだまだ余裕がありますからね。ほら、あなた方ももっと全力を出さねば死んでしまいますよ?』
浩が悪態をつきながら槍を振るうが、謙信はその手に持つ槍で易々と受け止めていた。
『ではまず1人』
「される訳なかろうて!」
浩に攻撃しようとした謙信の槍を一が自分の身体ほどもある巨大な楯で受け止めていた。
ドワーフの小柄な身体でありながら、自分の身長とほぼ同じ楯を自在に使いこなせるのはいつ見ても凄いと思うし、その膂力も凄いと思うが相手が悪かった。
「ぬっ!?」
『軽いですね。もう少し体重を増やしてみたらどうです?』
謙信の振るった槍はそのまま一を吹き飛ばしてしまい、スケルトンの群れへと突っ込んで行ってしまった。
『一々防がれるのも面倒ですし、あちらから始末しましょうか?』
「そうはいきませんよ! 〝ウォーターランス〟」
聡が[水魔法]により、30近い水の槍を生み出して謙信に放つ。
[水魔法]は〝球〟〝盾〟〝鎖〟〝衣〟の4種類の効果の内、〝球〟の放出系の魔法を不得手としているが、あいつはそれを克服し複数の槍を射出できるように努力した。
普通であれば射出前に生み出した水同士がくっついてしまい、1つのまとまったただの水の塊になり槍の形を保てなくなってしまうからな。
『水遊びですか? 少々火照った体には丁度いいですね』
謙信に当たった水の槍は残念ながら一の元に謙信を行かせないよう押しとどめただけでダメージはなさそうだが、目的はそれじゃない。
「ならばもっと濡れさせてあげますよ。〝ウォーターバインド〟」
『むっ』
地面に広範囲に広がった水がまるで大蛇のごとく謙信へと絡みつき拘束していく。
「隙アリだ。[テレポート]!」
「今だ!」
俺と浩が前後を挟むように攻撃を仕掛ける。
『拘束にしては少しばかり動きにくい程度でしかないですね』
「「「なっ!?」」」
がっちりと拘束していた水は、以前巨大なゴーレムすらも動きを抑えていた代物だったはずなのに、謙信は少し眉をひそめた程度で俺の刀を槍の刃で受け止めた後、流れるように浩の槍を石突付近で打ち払っていた。
くそっ、化け物か。
『さて、あなた方の実力も大体分かりましたし、そろそろ本気でいきましょうか。神の姿を刮目なさい。〝毘沙門天〟』
謙信の背後に甲冑に身を固めて左手には三叉戟を持つ、寺なんかでよく見るような灰色の像が現れた。
『■■■■■』
『ふふっ、ありがとうございます』
その像が口から聞き取れない何かを発したと思ったら、謙信に絡みついている水があっさりと外れてしまった。
『毘沙門天の加護を前に、私を拘束などできると思わないことですね』
「拘束無効の能力か……!」
『それだけではありませんよ』
『■■』
「しまっ!?」
再び毘沙門天の像が何か音を発したと思った次の瞬間には、俺の身体を拘束するように白い縄が全身に絡みつくようにして動きを封じられてしまった。
いや、俺だけじゃない。
謙信に挑みかかっていた浩と聡も拘束されている。
『さすが2人分の印籠を取り込んだだけあって、毘沙門天を顕現させられましたね。
いつもであれば蜃気楼のごとく朧気に現れるのですが、まさか実体化させられるとは』
謙信が満足そうに毘沙門天の方を見て頷いているが、すぐに身動きが出来ない俺達の方に顔を向けてきた。
『さて、あっけない幕切れでしたがそこそこ楽しめましたよ』
やばい。この状況、どうにも出来そうにないな。
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて1話先行で投稿しています。




