27話 相乗効果
『全軍、敵を半包囲しつつ殲滅しなさい!』
迷宮氾濫で見たようなスケルトン達が謙信の指示に従い、無言でその手に持つ槍をこちらに向けて近づいて来た。
「謙信さえ倒せばそれで終わりだ。少数精鋭で謙信を倒しに行く。
残りはすまないがスケルトン達を引き付けていて欲しい」
『ふふっ、いいでしょう。大将首を狙うは戦の定石。ですがこの首、易々取れるものと思わない事です』
亮さんの指示を聞いても余裕そうに謙信は微笑み、どこからでもかかってこいと言わんばかりにその場から動かず仁王立ちしていた。
「俺、一、浩、聡の4人で謙信を討つぞ!」
「「「おう!」」」
「分かったわ。なら私達があなた達の道を作ってみせるわよ!」
「「「はい!」」」
亮さん達4人が謙信を倒しに行くことになったので、残りの冒険者の大多数は亮さん達を守るように△の形で陣形をとり、スケルトン達に対して中央突破を試みるようだ。
スケルトンが鶴翼の陣なら、亮さん達は魚鱗の陣というやつだろうか?
その辺あまり詳しくないから合ってるか自信ないけど。
「残った俺達は仲間に攻撃を当てない様にしつつ、少しでも敵の数を減らすために遠距離から攻撃していこう」
信長がどこかに行かないか見張る為、数人が僕らの援護も兼ねてこの場に残ってくれていた。
基本的には遠距離攻撃が得意な人達で、長距離から亮さん達の援護も出来るようこの人選だった。
「遠距離攻撃なら私の出番ね。蒼汰」
「分かってるよ」
すでに信長を寝転がしているので、ただのスマホを仕舞ってスキルのスマホに持ち換えている。
「わたしと咲夜先輩はスケルトンが来たら先輩達の壁になりますから」
「倒せそうなら頑張って倒す。咲夜の〔紡がれた道しるべ〕が使えたならいざとなったら逃げるって選択肢もあったけど、転移で連れて来られたせいで使えない。ごめん」
「それは咲夜のせいじゃないから気にしないで」
元凶はいきなりこんな場所に連れて来た、今もゴロゴロと寝ている信長だ。
咲夜の〔紡がれた道しるべ〕はダンジョン入口で能力を使用しておくと、ダンジョンのどこにいてもそれを使用すれば入口まで一瞬で転移して戻ってこられる【典正装備】だけど、一度でも歩いて辿り着いた事がない場所では使用不可という制限もあった。
転移で知らない場所にきてしまった場合使えなくなってしまうけど、そんな事態そうそう起こりえないから気にならないデメリットだったのに今回はそのデメリットに引っかかってしまった。
まあ元から僕らだけ逃げるなんて選択肢はないのだけど。
いくら元々の仕事内容が安全地帯の設置で、追加された仕事が信長を運ぶこととはいえ、今まで一緒にダンジョンを潜ってきた人達を見捨てて自分達だけ逃げる様な薄情な行為は出来ない。
命がかかっているのなら別かもしれないけれど、生き返れるのだから尚更だ。
「早速行くわよ。〔業火を育む薪炭〕、〔溶けた雫は素肌を伝う〕」
冬乃は左手首に刻まれた入れ墨から取り出した、小さな木炭である〔業火を育む薪炭〕を呑み込み、火のついたロウソク、〔溶けた雫は素肌を伝う〕を空中で手放すと、それはそのまま斜め下向きで静止し蝋が地面へと垂れていった。
〔業火を育む薪炭〕は火を生み出す能力を使用時にその効果を倍加させ、〔溶けた雫は素肌を伝う〕は火に関するダメージを与えた時、そのダメージの10%相当の火傷を追加で与えるというもの。
その2つは派生スキル[狐火]を持つ冬乃とは大変相性がよく、冬乃に合致している【典正装備】と言っても過言ではないね。羨ましい。
「それじゃあ早速1発目。〈解放〉」
よく使う〔籠の中に囚われし焔〕をいつも通り構え、その先端から端の方にいるスケルトン達に向かって赤い炎が高速で射出された。
――ドガゴーン!!
「きゃっ!?」
「うわっ」
〔籠の中に囚われし焔〕に貯えられた炎は冬乃の派生スキル[複尾]と[野狐]を使用した状態の[狐火]だ。
言うなれば強力なバフを発動させている状態で、されに僕のスキルによる新人用巫女服(遠距離攻撃の威力を25%上昇)が乗算されている炎を3つの【典正装備】の力でさらに強化しているのだから、威力が有り得ないくらいに強力になるのは当たり前だろう。
とはいえここまで威力が強力だともう引くレベルなのだけど、残念ながら目の前のスケルトン達の数は思ったよりも減っていなかった。
「今の君の攻撃は凄い威力で俺達の本気の攻撃と同等以上だったが、あの陰陽師風のリッチに結界で防がれてしまったな」
そう言えばいたね。そんな和風骸骨シリーズが。
「じゃあ咲夜、これお願い。〈解放〉」
「ん、分かった」
僕がそう言って渡したのは[フレンドガチャ]で手に入れたエッフェル塔の文鎮。
……以前もこれ敵に向かって投げなかったかな?
「一体何を?」
今この場ではまとめ役である男性の疑問を無視して、咲夜は黒いモノが纏わりついたエッフェル塔の文鎮を、陰陽師風リッチに向かって投擲した。
「〈解放〉」
咲夜の投擲から少し遅れて冬乃は僕が再召喚した〔籠の中に囚われし焔〕から炎を放つ。
「あれをすぐに何度も撃てるのか?!」
驚愕の目でこちらを見る男性達はその後さらに驚愕する事になる。
――ドガゴゴーン!!
「「「なにーーーー!!?」」」
先ほどよりも強力な威力の炎がスケルトン達を襲い、その一撃は50体くらいはまとめて消し飛んだと思われる。
陰陽師風リッチが張る結界は僕の〔忌まわしき穢れは逃れられぬ定め〕で反転させ、逆に強力な爆弾になるのは以前の迷宮氾濫で経験済みだ。
これなら意外となんとかなるかな?
気に入っていただけたらブクマと☆の評価をお願いします。
カクヨム様にて1話先行で投稿しています。




