21話 いや、誰?
地味な方の女性を無視して信玄が亮さんに向かって攻撃を仕掛けてきた。
『やっぱり戦うのなら一番強え奴だぜ!』
「元から俺はお前と戦う予定だったから都合がいい」
信玄が振り下ろしてきた軍配を亮さんは易々とその手に持った刀で受け流していた。
って、亮さんがいつの間にか狐のお面と大きなネジを身に着けているな。
……ネジって頭に着けるものなの? ぶっ刺さってるけど痛くないんだろうか?
そんな風に思っていたら、沙彩さんがパーティーの仲間や他の人達が亮さんと信玄を取り囲むように移動しだした。
「私達は亮の援護をするわよ」
沙彩さんが亮さんと戦う信玄に対しなんらかのアクションをしようとした時だった。
『はっ、しゃらくせえ。〝人は城、人は石垣、人は堀〟!!』
沙彩さん達が信玄と亮さんを取り囲む前に、突然現れたスケルトン達が沙彩さん達が干渉できないように信玄と亮さんを取り囲み、沙彩さん達が中に入ってこれない様に沙彩さん達の方に武器を構えていた。
「くっ、先にこいつらから潰すわよ!」
沙彩さん達がスケルトン達を倒そうと武器を振るうけれど、道中余裕で倒していた時と比べて中々倒すのに苦戦していた。
「なんで?! 同じスケルトンのはずなのにこいつら強い!」
『当たり前じゃねえか。その辺の雑兵共とあたいの兵を一緒にするなよ』
〝人は城、人は石垣、人は堀〟で召喚したスケルトンは元々特別製なのか、それとも強化されて召喚されるのかは分からないけれど、少なくともこれまで戦ってきたスケルトンとは別格なのだろう。
『はぁ。信玄さんが戦い始めてしまったし、私も戦うかな』
信玄に気を取られていたら地味目な方がこちらに刀を構えてきた。
『向こうの人達には名乗れなかったけど、あなた達には名乗っておきます。
私は姉小路頼綱と申します。お見知り置きを』
……いや、誰?
「姉小路頼綱って誰? どんな人か知ってる?」
「え、いやちょっと分からないです……」
「私の選択科目世界史なのよね」
「さあ?」
乃亜達に聞いてみたけれど、3人共首を傾げていた。
現役の学生でありながら歴史の人物を知らないのはマズイ気がするけれど、本当に誰か分からない。
「姉小路頼綱ってなんかどこかで聞いた事がある気がするんだよな」
「そうなのか? ワシにはサッパリ見当もつかんぞ」
「確か何かのゲームでいい笑顔とか言われていたはずですが、それ以上は知りませんね」
浩さん、一さん、聡さんも具体的には誰か分からず、他の人達も何者なのか見当がついていないようだった。
『ちょっ、私ですよ! 飛騨国の大名で信長様の妻、帰蝶様と姉妹関係にある女性を正室に迎えた姉小路中納言ですよ!』
どうやら信長と縁も所縁もある人物のようなんだけど、ここまで言われても全然分からない。
「あ、どこかで聞いた事あるな。大納言と名乗らずに信長に日和って中途半端に中納言を名乗ってる武将がいるって」
誰かがそんな失礼な覚え方で辛うじて覚えていると発言する人がいたけど、それ逆に怒らせないかな?
『うっ、ううぅ……!』
泣きそうな顔で凄いこちらを睨んできていた。
いや、そんな顔されましても。
「って言うか、確認されている武将は上杉謙信、武田信玄、斎藤道三、長宗我部元親、浅井長政の5人で、そいつらが口々に噂していたから織田信長がいるのは分かってたが、他にも武将いたんだな」
『私は信長様がいる場所の近くを離れなかっただけよ! 地上に行けるからってホイホイ向かったその5人と一緒にしないで!』
浩さんのセリフに頼綱が強く抗議しだした。
「へー。じゃあお前みたいな信長の傍にいた武将が他にもいるんだな」
『ふん。いませんよそんな人。戦う事ばかりが頭にある5人と違って、私だけがキチンと信長様の傍にいたの。わ・た・し・だ・け・が!!』
今の頼綱のセリフで武将は6人である事が確定した訳だけど、なんだか他の5人にお守りを任されて好き勝手されてる人みたいで苦労人な印象を受けるなぁ。
「じゃあ何で今はこんな所にいるんだよ?」
『信長様が突然いなくなったから探し回ったに決まってるじゃない!』
半泣きになりながら頼綱がそう訴えてくるけど、頼綱達がここにいるのは背中の信長のせいなのかよ。
『こうなったら実力で私を認識させてやる。〝栄光の道〟!』
頼綱の身体が輝きこちらに向かって駆けてきた。
どんな能力かは分からないけど、頼綱自身の身体が光っているところを見るにバフ系か何かかな?
「別にこいつの低い知名度なんかどうでもいい。敵は敵だ。ぶっ潰すぞ!」
『誰が影が薄くて存在したかも怪しい存在だーーー!!』
「いやそこまで言ってねえよ!?」
頼綱の振るう刀を浩さんが手に持つ槍で受けようと試みるが、まるですり抜けるかのようにその刀を槍が受け止める事なく、浩さんの身体を切り裂いた。
「ぐあっ、何でだ!?」
『肉体強化と予知している私に生半可な防御が通用すると思わないで』
肉体強化と予知は〝栄光の道〟の効果かな?
見た目といい知名度といい影の薄いキャラだけど、【魔女が紡ぐ物語】の名は伊達ではないということか。
『まず1人』
「ちっ、[テレポート]!」
浩さんのユニークスキル[テレポート]は短距離転移であり、連発はできないけど緊急回避や奇襲をするのには便利なスキルだ。
「すまん、治してくれ」
「分かりました。それまでの間守りは任せましたよ、一」
「おう。他の奴らと一緒にそっちに行かないよう、食い止めてやるわい」
負傷した浩さんが聡さんに頼ったのは何らかの治療する手段があるのだろう。
ポーションに頼らなかったのは傷が思ったよりも深いからかな?
『みんな、私の歌を聞いて! [鋼の意思と肉体で]!』
矢沢さんは長時間スキルを使用した弊害か、ついに一人称が《私》になってしまっているけどそんな事をツッコんでいる場合じゃないか。
まずは[鋼の意思と肉体で]を使用して肉体の防御力の強化と精神力の強化をすることで、徐々に他のバフを与えられる心構えをしてもらおうと言ったところかな。
僕も戦いに参加するべきなのかもしれないけど、一先ず背中の信長をどこかに降ろさないと、スキルじゃないスマホが手放せなくて援護が出来ないんだよね。
あ、しまっ、信長に意識を向けすぎて力が――ガチャし――危うく抜けそうになったよ。
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カクヨム様にて1話先行で投稿しています。




