20話 何でここに?
≪蒼汰SIDE≫
3日で急いで倒しきる必要がないと分かった僕らは、一旦地上へと戻る事にした。
現在亮さんが道山と戦っているはずなので、亮さんと合流して倒しているであろう道山の印籠を受け取るのもその目的だ。
もっともそれには信長も一緒に連れて行かなければ意味が無いのだけど。
印籠の回収に加え、信長を創った安全地帯に放置していったらそこに居続けてくれるかも分からないので、連れて行くしかなかったのもある。
『すぴー』
「人一人抱えて歩くのって地味にキツイ……」
そんな今も寝ている信長を運ぶ事になっているのは当然僕なわけだけど。
「頑張ってください先輩。先輩しかその人を運ぶことが出来ないので」
「ソリとかに乗せてロープで引っ張っていく方法も、気力が無くなるせいで不可能だから仕方ないわよね」
「蒼汰君、もし疲れたら咲夜が蒼汰君を運ぶから」
咲夜の提案はなけなしの男のプライドから頷き難いけど、ちょっと心惹かれるものの、恐らくその方法でも信長を運ぶのは多分無理だと思う。
信長を運ぶためには信長以上に関心がいく何かを意識していない限り、接する事が不可能なのだから。
スマホの画面をジッと見ながら、時折なんでスマホの画面見てるんだっけ? と思いつつ必死に足を動かす。
アプリのアイコンを見てもこんなにも心が動かない事があったのか……。
「あ? 何でお前らまだこんな所にいるんだ?」
ちょっとせつない気分になりながら来た道を戻っていくと、亮さんと遭遇したので事情を説明する事になった。
「なるほどな。そいつがここの【魔女が紡ぐ物語】か。……聞いてた通り、攻撃する気がまるで起きないな」
刀に手を添えていたけれど、抜刀せずにその姿勢のまま頷いていた。
確かに“怠惰”とか言われても意味わからないし1回は試すよね。
亮さんも一旦戻る事に納得したので僕らは全員で地上へと再び戻り始めた。
このダンジョンに入った時には【魔女が紡ぐ物語】の討伐の糸口なんかなくて、とりあえず武将ぶっ倒すぞみたいな感じで挑んでいたせいか、本当にこれで討伐できるのか、といった雰囲気だったけれど、今はその答えが僕の背中に乗っかってるせいか全員の雰囲気がかなり明るい。
今までSランクダンジョンの【魔女が紡ぐ物語】の攻略は世界で誰も成しえていないだけに、その栄光を自分達が手に入れるのではないかと少しだけ浮足立ちながら、矢沢さん達が待機している場所へと戻ってきたのだが――
「なっ?!」
『ああ゛? 次から次へとワラワラ出て来やがって。ゴキブリかてめぇら?』
『信玄さん、口が悪いですよ。女性なんですからもう少しお淑やかにできないのですか?』
『はっ、雑魚に指図される謂れはねえな』
『はぁ。何故この人と一緒に来てしまったのか……』
矢沢さん達が陣地として展開していた広場は、ハッキリ言って阿鼻叫喚といった有様だった。
そこら中からうめき声が聞こえ、中にはすでに死んでいる人もいた。
そしてその中でもっとも目を引いてしまうのは、片腕が千切れ血まみれになっているにも拘わらず、矢沢さんのステージの前で立ち続けている片瀬さんの姿だった。
「片瀬さん!?」
『あん? てめえらこのしつこい奴の知り合いかよ』
そう言ってこちらを睨みつけてくるのは、短い髪をオールバックにしてパッと見男に見える信玄と呼ばれていた女性で、赤い鎧を身に纏っていた。
『別に知り合いでもなんでもいいのではないですか? あの方々も殺す事に変わりはないのでしょ?』
『違いねえな』
信玄にそう言った女性は、何というか黒い鎧を身に着けていなければどこにでもいるかのような見た目の人だった。
ゆったりしたショートボブで落ち着いた雰囲気、というか悪く言えば地味目な感じの女性である。
『鹿島君達! 戻って来てくれて良かった。見ての通りそこの2人に襲撃されて、ほとんど全滅してしまったんだ。
自分はこのステージを展開していて無事だったけど、自衛隊の人や片瀬さんは……』
矢沢さんがステージの上から何があったのかマイクを通して状況を説明してくれた。
やはり見たままの状況だったようだ。
『ん? よく見たら信長の野郎が一緒にいるじゃねえか。どういう事だ?』
『あの方の考える事は今も昔も分かりませんからね』
信玄ともう1人の女性が僕の背中にいる信長を見て首を傾げていた。
しかし悩んでいたのは一瞬だった。
『まっ、どうでもいいか。こいつらとっととぶっ殺すか』
『また1人でやるのですか?』
『てめえは初っ端からあのしつけえのに、変な結界に閉じ込められたくせに何言ってやがる』
『あ、あれは油断しただけです! 次はありません』
ゴキゴキと首を鳴らしながら信玄の方は巨大な軍配を、もう1人の女性は刀を抜いてこちらに視線を向けてきた。
「予想外の事態だがやる事は変わらない。全員戦闘態勢。Aチームは信玄、Bチームはあの女を倒すんだ」
『あ、そう言えば私まだ名乗ってな――』
『はっ、やってみろやゴキブリ共が。あたいの名は武田信玄! てめえら全員ぶっ潰してやんぜ!』
『ちょっ、私が名乗る時間くらい下さいよ!?』
亮さんの指示にすぐさま僕以外の全員が戦闘態勢に入り、信玄達と相対した。
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カクヨム様にて1話先行で投稿しています。




