幕間 赤ちゃん編(2)
なんとか精神的に復活してきた僕は、横たわらせていた体を起こして、胡坐をかくように座る。
「あ、起きた」
「大丈夫ですか?」
『大丈夫じゃないけど大丈夫』
精神的に辛かったけど、課金が出来なくなったあの日よりマシだし。
「私達はもうご飯を食べたけど、蒼汰はどうするの?」
冬乃に言われ、そこで自分がおなかの空いていることに気付く。
僕が横たわっていた時間が思ったより長かったらしい。
3人がすでに食事を済ませているほど時間が経っていたとか、自分が思った以上に精神的ダメージを受けていたんだな。
『そうだね。それじゃあこれでお願い』
僕は[フレンドガチャ]から粉ミルクと哺乳瓶を目の前に出す。
「蒼汰のスキルのガチャのラインナップが不明すぎるわ」
『僕もそう思うけど、今は助かってるよ』
飲み物や食べ物、雑貨とかで様々な種類の物が出てきていることを思えば、その中の1つにこれらが混ざっているのは不思議じゃないんだけどね。
実際、哺乳瓶はこれ1つだけだし、粉ミルクも数点だけだったかな?
「それじゃあ早速用意するわね」
『お願い』
冬乃が台所へと行ったので、今の姿勢のまま大人しく待っていると、しばらくして夏希と呼ばれていた女の子が僕の所へやってきた。
「ねえねえ」
『ん、何?』
「あなた色々なの出してたけど、他にも何か出せたりしないの?」
「あ、こら夏希。そんな会ったばかりの人にそんな気安くしすぎだよ」
「え~いいじゃん。お姉ちゃんの友達なんだし、悪い人じゃないんだからさ」
「年上の人なんだから節度を保ってって言いたいの」
「ぷぷっ。お兄ちゃん、赤ちゃん相手に気にし過ぎだよ」
「そりゃ今は赤ちゃんかもしれないけどさ~」
なんだか妹に振り回される兄って感じで苦労してそうな子だな。
まあお世話になるわけだし、ここは1つ何かプレゼントしてあげよう。
『食後だし、デザート食べたくない?』
「食べる!」
「だから少しは遠慮してよ……」
『気にしなくていいよ秋斗君。元に戻るまでとはいえ、ここで世話になるんだしこのくらいは全然大したことじゃないんだから。はい、これ』
僕は[フレンドガチャ]から様々な種類のカップアイスを4つ取り出した。
『確か4人家族だったよね? 1つは冷凍庫にしまって、あとは3人で食べるといいよ』
「わーい、ありがとう!」
「どうもすみません。ありがとうございます」
『いいよいいよ』
夏希ちゃんは喜びながらアイスを持っていき、秋斗君は苦笑しながらそれに着いて行く。
「何やってるのよ蒼汰」
それと入れ替わりで冬乃が哺乳瓶を持って戻ってきた。
『ん? いや、お世話になるし、このくらいはって思って。迷惑だった?』
「いいえ。うちじゃ最近まであまりおやつとか買ってあげられなかったから。夏希は見ての通りだし、秋斗も内心じゃ喜んでるから、蒼汰の負担にならないなら問題ないわ」
『なら良かった』
「さて、じゃあ蒼汰も食事をしないとね」
冬乃はそう言って僕を横抱きして哺乳瓶を口元まで持ってくる。
『いや、ここまでしてもらわなくても1人で飲めるよ?』
お尻とかには手が届かなくても、哺乳瓶を口に持っていくくらいはなんとか出来るよ。
「でも飲ませてもらう方が楽でしょ? 遠慮しなくていいわよ」
……そうして僕は哺乳瓶でミルクを与えられてしまった。
親切を無下にすることなんて出来ないとはいえ、リアル赤ちゃんプレイを同級生の女の子とすることになるとは思いもしなかったな。
なんかもう、人としての尊厳が今日1日でかなり削られたよ……。
色々一杯一杯に思っていたのだけど、まだまだ尊厳を削るイベントは残っていた。
ゲップまでさせてもらった僕は今度はお風呂へと連れていかれ、丸洗いされてしまう。
もう、好きにしなよ……。
「この赤ちゃん、なんだかどんどん遠い目をしてきてない?」
「中身は高校生なことを考えると、お姉ちゃんにお世話されるのが恥ずかしいんだろうね」
しみじみ解説しないで……。
「ほら、あんた達。もう9時なんだからそろそろ寝なさい」
「はーい」
「分かったよ」
冬乃に促されて2人は布団を敷き始める。
2人分だけでなく3つ敷いてるところを見るに、兄弟は全員同じ場所で寝ているんだろう。
「その赤ちゃんはどこで寝るの?」
「少なくとも夏希の傍には置かないわよ」
「えー赤ちゃんと並んで寝たかったなー」
「えーって、夏希寝相悪いから並んで寝たら赤ちゃんが危ないよ」
ブーブー言ってる夏希ちゃんだけど、なんだかんだで言う事は聞くようで、大人しく1人布団に入って寝始め、秋斗君も同様に横になった。
そんな2人を見届けた冬乃は僕を連れてダイニングへと移動し、椅子に座ると隣の椅子に僕を座らせた。
「私は今から宿題をやるけど蒼汰はどうする?」
「ばぶっ(スマホでもいじってるよ)」
僕はスマホを掲げて見せることで意思表示をする。
秋斗君も夏希ちゃんも寝るから指輪を外させて、思念が伝わらないようにしたから、今は身振り手振りで伝えるしかないんだよね。
さて、冬乃は宿題をやり始めた訳で、本来なら僕も宿題を終わらせないといけないのだけど、何も持ってきてない上に、キチンとペンが持てなくて字が書けないから無理。
明日は冬乃に学校に連れていってもらって先生に報告する事になるんだろうけど、さすがに宿題は免除されないだろうな~。
冬乃達に伝えてもらうだけでもいいかもしれないけど、実際に赤ん坊になったのを見てもらわないと信じてもらえないから仕方がない。
まあメインは挨拶で溜まるポイントなんだけど。
スキルで使用するメダルがほぼ枯渇しちゃったから、なんとかして稼がないと。
――ガチャ
そんな事を考えていたら玄関の扉が開いた。
「ただいまー」
「あ、おかえり。今日はいつもより遅かったね」
「ちょっと色々調べててね」
冬乃の母親、千春さんが帰ってきたけど、冬乃の言う通り随分遅かったね。
もう10時近いし、お仕事が忙しいんだろうか?
「あら、その子は? 産んだにしては、冬乃のお腹は大きくなってなかったし……」
「産んだわけないでしょうが!?」
あれ? 前に会った時はしっかりしているイメージだったけど、ちょっと天然な人なのか?
少し意外に思いつつ、僕は仲のいい親子のやり取りを見守った。
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やべえ。この赤ちゃん編いつ終わるんだ?
ちょっと色々急ぎ足なのに、まだ1日が終わらねえぞ。
3章12話の頃から全然日付が変わらないんだが!?
あと食事とお風呂シーンを期待した人はゴメンな。
冬乃が一緒にお風呂に入るパターンは冬乃の性格的に有り得ないと思ったので。
(乃亜だったら入ってたな)
いつか混浴させてやりたいですね~




