第98話訓練の日々④
今日は航空隊です
「発艦訓練を行う。航空隊は集合せよ。」
艦長の放送による命令が響く。
「よっし行くぞ!」
生野中尉が言った。
それと同時に、航空隊の面々が走り出した。もちろん小走りである。
「久しぶりに、飛びますね。 」
副長が言った。
「確かに修理をしていたからな。最近は飛ばして無かったな。」
「昨日発動機の始動試験をして、うまくいったみたいですから、今日も上手くいくと思いますよ。」
「だが、勘が鈍っているのは確実だからな、ヘマをしなければ良いが。」
「ですが、優秀者達ですから大丈夫だと思いますよ?」
「そうだな。」
彼らが話をしているのは、艦橋横の甲板である。
「お待たせしました!」
ちょうどその時、生野中尉の声がした。
「来たかっ。」
艦長が言った。
航空隊の6人全員集合である。
今は、晴嵐が2機しかないので各ペア2回ずつの計6回、つまり3交代で訓練を行う。
まだ晴嵐は組み立てを始めたばかりである。
晴嵐とともに久しぶりに稼働する装置が、晴嵐を伊400から発艦させる四式一号一〇型射出機である。
この射出機は圧縮空気によって作動する、珍しいタイプである 。
この時代は、火薬式や油圧式が一般的であった。
だが、日本海軍が実用化していたのは、火薬式と圧縮空気型だけであった。
おそらく、海中に潜ってるのが基本な潜水艦のため、火薬が暴発する危険を無くすためと推測するが、確証は持てない。
とにかく、四式一号一〇型射出機は性能的には戦艦大和に搭載された火薬式の物よりも良いため、それが理由で搭載されたとも考えられる。
単に消耗品が無いから、とも言えるだろうがなんとも言えない。
「どうですか?」
生野中尉が、鷹野整備長に聞いた。
「ああ、ちゃんと直したんで問題はありません。取り敢えず飛べばわかると思います。」
「そうか。まあ、どのみち飛ぶから問題は無いがな。」
「言ってしまえばそうですね。」
鷹野整備長が陽気な声で言った。
そんな事を話しながらだが、手は止まっていないのは流石だろう。
そうしてる間にも、主翼を展開すればいいところまで来ていた。
「手伝ってください!」
鷹野整備長が言った。
そう、主翼の展開には人出が必要なのだ。
それにまだ、1機しか組み立ては終わってないのだ。
あと10分は少なくてもかかるだろう。
「いっせーのっせ!」
鷹野整備長の声に合わせて、翼を回転させ定位置につける。
そして、ピンをはめて主翼を固定する。
これであとは、暖機運転をすればすぐに飛び立てる。
「次入るぞ!」
鷹野整備長はそう言って、2機目に取り掛かった。
「やはり、いいですねえ晴嵐。」
吉川飛行兵曹が言った。
「そうだな。やっぱり久しぶりだと緊張するな。」
「そうですね・・・しっかし綺麗になりましたね。」
「 確かに塗装が塗り直されたからな、そう感じるだろう。」
生野中尉が言った。
塗装をし直したために機体が輝いて見えた。
それが感想だろう。
そうして見入ってる間に2機目の組み立てが終わっていた。
「終わりましたよ。」
鷹野整備長が言った。
「発動機を発動させよ!」
生野中尉が力強よく言った。
「行きます。」
整備員の一人が言って、イナーシャスターターを回し始める。
暫くしてから発動機が始動したのだろう。ブロロという力強い音を奏でながらプロペラが回り始める。
それを10分ほど続ける事で、発動機をあっためるのだ。俗に言う暖機運転である。
「もういいだろう。暖機運転終わり!」
鷹野整備長の声とともに、1番機の発動機が止められる。
それと同時に射出機に乗せるために運ばれていく。
「よっし、ここでいいぞ。」
そう言ってから彼は2番機の発動機の暖機運転に取り掛かった。
今は訓練の為ゆっくりとこなしているが、実践ならば30分で3機発進させるのだ。
やはり訓練は必要不可欠だということが、よく分かる。
「2番機の暖機運転が終わったら、1番機から順に発艦せよ。今日もぽん6手当は貰えるぞ。」
艦長が言った。
ぽん6手当とは、射出機で飛ばされるたびに貰える手当である。
ぽんと飛んで6円貰えるためにそう呼ばれている。
「まあ、射出機発艦の時は必ず貰える決まりになってますからね。」
吉川飛行兵曹が陽気に言った。
「だが、とちれないぞ?」
「久しぶりですけど、中尉の事は信頼してますんで大丈夫ですよ。」
「そうだろうな。こっちは久しぶりだから緊張してるってのに好い気なもんだな。」
「別にそんな気で言ったわけではないですよ。」
そう言いながら、出番が来るのを待ってると、鷹野整備長の声がした。
「もう行けます!」
それを聞いて2人は頷きあってから、言った。
「分かりました!」
そして2人は晴嵐に乗り込んだ。
「発動機を始動します。」
整備員の声が聞こえたとともに、イナーシャスターターを回し発動機を始動させ始める。
この当たるの動きは、素早い。
「始動!」
生野中尉の声と共に、電源が入れられる。
すると、イナーシャスターターを回していた整備員が機体から離れた。
それと同時に、発動機が動き始める。
何度やっても緊張する瞬間である。
「安定してきたな。」
生野中尉が言った。
「いつでもいけます!」
吉川飛行兵曹が合わせて言った。
第98話完
と言うわけで、まだ続きます
と言うか、ストック含めて100話超えました
と言うことは・・まだ終わりません
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