第95話訓練の日々
なんか、訓練の話が長引いてます
「今日から、慣熟訓練を行う。各員抜け目なく訓練に励むように!」
伊400艦長日下中佐が、修理成った伊400の艦橋から、総員に号令をかける。
まだ、伊400はドックから引き出されたばかりである。だからと言って、明日から訓練を始めるという、悠長な事はとてもでは無いが出来ない。
なんせ、2週間も艦を動かして無いのである。勘が鈍っていても当然だろう。
その勘を早く取り戻さなければ、ろくに潜ることも出来ないだろう。
だから、艦長は出渠した直後から、訓練を行うことにしたのである。
予定の訓練期間は、8月10日までの5日間しかない。
と言うより、最低でも11日には出港したいのである。
短期間で勘を取り戻すには、早く訓練を始める必要があるのである。
訓練すればそれだけ腕は上がる。それが常識である。
だからと言って、訓練で手を抜くつもりは毛頭ない。むしろ、今までよりも厳しい訓練に、なるだろう。
それは、誰もが分かっていた。だから気合の入れ方は、いつもよりも強かった。
ただ、勘が鈍ってるのを取り戻すのが目的な為、新人教育のような教える、のでは無く動きをみがくもしくは、思い出すと言うことに重点が置かれている。
これも全て、最短期日で終わらせるためなのである。
まずは、艦内の地理を思い出すところから、始まる。
当然、二週間近く艦を離れていた者が多いため、それらの者が問題なく艦内を移動できるようにするためである。
もっとも、潜水艦は戦艦のように入り組んだ構造はしてない為、迷うようなことはあまり無い。
だが、伊400はこの大きさからもわかるように、すこし複雑な作りをしていた。
そのため潜水艦としては珍しく、迷う恐れがある艦になっていたのだ。
「開始!」
艦長の号令のもと、兵員たちが走り出す。
今行われているのは、艦内旅行であり帰着が20番目までの兵員にはサイダーが振舞われるのである。
そのため、かなりガチなことになる。
だから、怪我をするものも珍しく無かった。
ケガ人が出るのを前提に、衛生兵も一応待機している。
「どけ!」
「ちぃい!」
ドタドタと、兵員が走り抜ける音が付近に響く。
「またやってるか。」
そう呟いたのは、飛行長の生野中尉である。
確かに飛行隊の面々も、吉川、中瀬、江草各飛行兵曹が参加していた。
すこし危険な、この競技だが艦全体をくまなく回るため、大体の兵員が行きたい場所にすぐ行けるようになるのだ。
「急げ!サイダー飲めなくなっちまうぞ!」
そう叫んだのは、吉川飛行兵曹である。
「分かってるよ!たんに体力を温存してるだけだ!」
そう言い返したのは、中瀬飛行兵曹である。
「とにかく、行くぞ!」
息を荒くしながら言ったのは、江草飛行兵曹である。
飛行隊の3人は、いつも通りのテンションで走っていく。
この競技は他にも、体力増強と言う目的もある。
たんに、艦内旅行と言っても、それなりに奥が深いのである。
中には、違う経路に導く為フェイントを描けるものもいるが、得てしてこういうものは足が速くないため、意味は無いことが多かった。
第1、足の速いものはそのまま駆け抜けていけばいいだけだからである。
「全く、こんな時だってのに盛り上がってるな。」
苦笑い気味に言ったのは、水雷長の横川大尉である。
ただし、部下の野島兵長も参加していることから、反対ではないということが分かる。
そうこうしながら、やはり先頭集団や、少し遅れた集団が出来る。
今のトップは、水雷科の弥生一等水兵である。
やはり、重い魚雷を扱っているだけあって、体力も高かったのだ。
飛行隊の3人組は、サイダーが貰えるか貰えないか、ギリギリなところにいる。
なんだかんだ言って、まあまあな位置にいることから、飛行隊は体力がいる事が分かるだろう。
「一気に行きましたね。」
副長の渡辺大尉が感嘆したように言った。
「あれだけの反応を、実戦でもしてくれるのを期待すれば良いだろう。」
「そうとは言いますけど、艦長。やはり、サイダー目当てなのでは無いでしょうか?」
「別に問題はないだろう。
まあ、潜水艦の艦内は狭いから、ほとんど抜いたり出来ないけどな。」
そう、潜水艦は艦体が大きくないこともあって、通路が狭いのである。
そんな中を全力で走るのが、いかに危険かは分かるだろう。それでもやるのが、軍人根性?である。
「しっかし、この熱気も凄いですね。」
「ああ、皆サイダーが欲しいのだろうな。」
そう2人が呑気に話してる頃、先頭集団では、トップを巡っての死闘?が起こっていた。
先頭を行くのは、弥生一等水兵だが、その後ろを大輪整備上等兵が追走していたのだ。
今や、1位を取るのはその2人のどちらかに絞られていた。
「しつこいですよっ!」
弥生一等水兵が、全力で逃げ切りを計りながら叫んだ。
一応、相手の方が階級は上なので敬語を使うことは忘れてはいない?
「そう簡単に引き下がれるとでも思ってるのか!」
そう、大輪整備上等兵が叫ぶ。
2人の戦いはますます、デットヒートしていくのである。
第95話完
100話行きます!
まだまだ終わらないです
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