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航空機搭載潜水艦伊400最後の出撃  作者: 飛龍 信濃
潜水艦隊の意地 重巡インディアナポリスとの戦い
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第91話潜水艦隊の意地15

漸くここまで来ました

伊58の潜望鏡越しでも、インディアナポリスの命脈が尽きようとしていることは、よく分かった。

いや、もう尽きていると言ってもいいだろう。

もはや、インディアナポリスの傾斜は健全な艦ならあり得ない角度にまでなっていた。

それは、巨大な生物がゆっくりと倒れていくのにも似ていた。

むしろ、酸素魚雷を潜水艦型の威力が少ないもの、だったとしても3発それも右舷に集中して、喰らってまだ海上に姿を残しているインディアナポリスはまるで、マクベイ大佐の根性が艦に乗り移った様でもあった。

だが、それももはや長くないであろう事は、その艦の惨状を直視すれば嫌でも分かる事だった。

「まだ沈まんか!」

伊58艦長橋本中佐は、歯軋りするように言った。

彼としては、もう総員退艦の令が下っていたとしてもおかしくないのでは、と思うほどの被害なのだがまだ敵艦の艦長は、諦める気は毛頭無いようであった。

「暫くすれば、沈みますよ。」

副長が、宥めるように言った。

だが、本心では彼もまた、何故沈まないんだと言いたい気でいた。

だがそれよりも、艦長に変に興奮されるよりはましである。

「浸水は弱まってるみたいだが・・・・何故だ?」

艦長がそう思うのも当然であった。

この短期間であれだけの傾斜をおこした被雷孔を、塞げるとはとても思えなかった。

それもそうだろう。あれだけ傾斜していれば、その作業自体困難になるからである。

だがそれは、マクベイ大佐の英断によって、なされたことにある。

そう、被雷孔をふさぐのでは無く被雷孔ができた所の、区画を閉鎖したのである。

たったこれだけだが、浸水を食い止めるのには以外と効果があるのである。

確かに、浸水量は増加してしまうが、何もせずに手をこまねいているのとは、全然違う行動であった。

そしてその判断が、艦をここまで海上に止めていたのではないだろうか。

「それにしても、当たりどころは悪くないのに粘りますね。」

副長がぼそりと言った。

そう、いくら威力の強い酸素魚雷であっても、当たりどころによっては、敵艦を沈めることができなかったりするのだが、今回は割といいところに当たったのであるが、まだ沈んでいないのである。

実際にも、日本の駆逐艦が魚雷を2発喰らったが、艦首と艦尾を同時に吹き飛ばされたために、沈まなかったということもあった。

実際に艦を沈められるかどうかは、魚雷自身の威力と当たりどころによるのである。

その事を忘れてはならない。たとえどれだけ炸薬を増加し威力を増したとしても、例えば艦首に当たれば、そこを吹き飛ばすだけで、沈めるには至らないのだから。

いや、それは言い過ぎかもしれない。

だがとにかく、当たりどころが肝心なのは本当である。

ましてや、重巡クラスの艦が魚雷を3発喰らって無事なはずがない。よっぽど悪運が強いか、ダメコン班の腕が高いかのどちらかによって、インディアナポリスは浮かんでいるのである。

ともかく、インディアナポリスは浮かんでいる。それが事実であるのだ。

「だが、いつかは沈む。それは間違いない。

第1、浮かんでいるのが精一杯の様子ではないか。その状況から帰還することは、できんだろう。

すでに、態勢を立て直すために相当無理をしている事は、目に見えているしな。

今ここで、苛立ちを覚える必要はない。」

「別に苛立ちは覚えてませんが。確かに、早く沈めとは思ってました。」

副長が静かに言った。


「もっと排水急げ!」

艦長が、ダメコン班の班長に向けて言った。

被雷したインディアナポリスを、なんとしてでも帰還させようとしている艦長だが、流石に限界に達している事は分かっていた。

それでもそうして、叱咤激励して居るのは少しでも艦の命脈を永らえさせるためだった。

「艦長、もう諦めましょう。」

副長が言った。

もう総員退艦の指示を出してください。そう顔に書いてあった。

「だが、今は小両状態を保っているではないか。」

確かに今インディアナポリスの傾斜の増大は、少しの間止まっている。

だが、それが束の間のことであることは、みんな分かっている。

だからこそ、艦の傾斜が止まっている今のうちに、退艦してしまおうと考えているのである。

「ですが、もう限界に艦が達していることは明白です。ここは諦めてください。」

副長が静かに、さっきと変わらない調子で言った。だが、雰囲気には殺気が混ざっているようにも思えた。

それほどまでに、乗員について憂いている証拠だろう。

ガコン

その音ともに再び艦の傾斜が、増加し始める。

「もう退艦しましょう!」

副長が切羽詰まった声で叫んだ。

だが、マクベイ大佐は決めかねていた。

ここまできておいて、艦を見捨ていいのだろうかと。

「艦長!」

もう一度副長が叫んだ。

艦長は、周囲を見回して全員がそう思っていることを確認してから言った。

「・・分かった・・・総員退艦せよ。」

ただそれだけだったが、この一言によってインディアナポリスの巨体は永遠に、海の底に沈む運命を迎えたのである。

第91話完

ここまで続くとは思ってませんでした

ということで、潜水艦隊の意地編もそろそろ終わります

全体の話も佳境に入ってます

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