第88話潜水艦隊の意地12
ついに・・
インディアナポリスと、伊58の相手が見えない戦いは、佳境に入っていた。
そう、インディアナポリスが逃げきるのが速いか、伊58が回頭を終え雷撃するのが速いか、であったのだ。
そう、一連の動作をいち早く終えた方が勝つのだ。
戦術単位の戦いでは、先手をとる者が勝つのだ。
さらに言えば、動作をいかに滑らかに終えるかが肝心であるのだ。
そう、いかに先に攻撃を始めたとしても、先に攻撃を当てなければ、意味がないのだ。
さらに言えば、見つけたそれが敵かどうか、特に夜間ではその判断が勝敗が決まると言ってもいいのだ。
例えば、第一次ソロモン沖海戦では、アメリカの哨戒駆逐艦が、日本軍の水上偵察機の音を聞きながらも、味方と勘違いし日本海軍に勝利を贈呈してしまった。
さらに今度は、日本海軍側が誤認により大敗をきしてしまった。其れが、サボ島沖海戦である。
この時、日本艦隊は敵艦を発見していたが、指揮官の後藤存知少将が、味方の輸送部隊と誤認し、われ青葉との発光信号を送ってしまう。
そして、掌航海長が敵艦ですと叫び艦長が総員戦闘用意を発令するが、手遅れになってしまった。
このように、いくら敵を先に発見しても、それを活かせなければ意味がないのだ。
そして、今はどちらも敵を認識しており、目的の相違から互角の仙境であると言えるだろう。
互いに油断という言葉はない。
逆に、あったらおかしいだろう。
「39度!」
「もう少しだ!踏ん張れ!」
「敵潜、回頭中。艦首をこちらに向けているらしいです。」
「なんだと!まさか・・・」
マクベイ大佐は、ある一つの可能性に到達していた。それも、自分が相手の掌で踊らせれていたのではないかという、可能性であり呆然と立ち尽くしてしまっていた。
「どうしました?」
副長に聞かれて、ようやく我に帰った艦長は言った。
「もしかして、我々は敵に動きを誘導されていたのではないだろうか。」
その言葉を聞いた瞬間、副長は自分の顔が引きつったものになっているだろうと思いながら、言った。
「うそ・・・ですよね・・・奴らは、ただの猿ではなかったのですか?」
「副長は、今でもそう思ってるのか?」
「もちろんですよ。世界の統治者は白人であり、他の人種は奴隷になるべきなんですよ!」
もうわかったと思うが、この副長はかなりの白人優越主義者であり、アジア人いや、アメリカに戦争を仕掛けてきた、日本人のことを少し頭のいいただの猿だと言って、憚らなかった。
流石に周囲もそれは言い過ぎだと、言っていたが彼は自分の考えを改めようとしていなかった。
それには、自分が直接会ったことがなかったという事もあるだろう。
だから、今の艦長の言葉で彼は、アイデンティティーをぶち壊されたと思っていたのではないだろうか?
それは、本人にしか分からないが、彼は自分の考えを改める必要に迫られていた。
「発射用意。」
艦長の静かだが、有無を言わさない声が響く。
この一撃で、決めるとの意思が感じられた。
「角度40度。」
その声と同時に、艦長の渾身の命令が艦内を突き抜けた。
「1番から3番発射管、発射!」
「1番から3番発射管、発射!」
水雷長の、復唱と共に3発の九五式魚雷が放たれる。
バシュバシュバシュ
3発の魚雷が放たれる音を聞いたのは。、当然聴音種であった。
「魚雷発射音3右舷30度!」
「何!このまま回頭を続けろ!」
「魚雷走行音きます!」
「見張り、なんとしてでも見つけ出すんだ!」
「見えません!」
見張り員の悲痛な叫びが、艦橋内を貫く。
しかし、いくら叫んだと言っても、殆ど見えない物が見えるようになるわけではない。
彼らが魚雷を発見できないでいる間にも、まず放たれた3発の魚雷は接近を続けている。
「頃合い良しだな。4番から6番まで発射!」
「4番から6番まで発射!」
再び副長の復唱と共に、3発の魚雷が放たれる。
彼らにとっては、頼り甲斐のある兵器が敵の艦腹を食い破る為、突き進んでいく。
これはまさに、死神が放つ槍のようであった。
「敵潜、再び発射しました。」
再び、聴音手より悲痛な報告が入る。
彼も、生き残るため必死なのだ。
この頃副長は、あまりに恐怖からか艦橋の端っこにうずくまっていた。
多分、今回が初めての実戦なのだろうか?そう艦長は思った。
「やったぞ!」
その頃伊58艦内では、やってやったという思いが、爆発していたのはいうまでもないだろう。
「航海長、やりましたよ。」
「そうだな。逃げ切りたいものだな。」
「その通りですよ。」
「敵魚雷らしきもの、1視認!」
ようやく、見張り員が発見したが、すでにいや発射されたときからわかっていたが、やはり、見つかるか。そんな態度であった。
もう魚雷と、インディアナポリスの距離は200メートルぐらいしかなかった。
見張り員の声にも、絶望の感情がこもっていた。
もう終わりだ、諦めるしかない。彼はそう達観していた。だから騒がず、静かにその時を待った。
いや、もう諦めの感情が彼を支配していたのだろう。
第88話完
撃ちまし結果は次回です
この調子だと100話行きます
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