第67話連合艦隊の終焉11
榛名の死闘です
「敵機接近!」
見張りの声が響く。
だが榛名が、回避運動を行うことは無い。何故か、停泊状態にあり、燃料もないからである。
「対空戦闘用意。」
吉村艦長の冷静な声が、艦橋内に響き伝声管を伝って艦内各所に広がっている。
榛名は今までに、ロケット弾2発と500キロ爆弾1発を食らっており、25ミリ3連装機銃3基と15、2センチ砲3門が破壊されていた。
そして、機関室と舵機室に若干の浸水があったが、停泊しているため沈没の危険はない。
「敵もしつこいな。」
射撃指揮官が愚痴るように言う。
「確かに、散発的に来られるのが一番神経に効きますからね。」
機銃長が言った。
そんな彼らに再び、敵機が襲いかかろうとしている。
「もう少し進んだら、降下に移るぞ。」
「了解。」
俺らの機は、一番敵の抵抗が弱まった時に突っ込むことにしていた。
だから、目の前で友軍が攻撃を成功させたから、もうやられないだろう。しかも場所によっては、撃沈出来るかもしれない。
かなり美味しい状況だと言える。
「いいか、敵をできる限り引き付けるんだ。敵を油断させるためにな。」
「どこまで引きつければいいでしょうか?」
「目安としては、1500-1000ぐらいだな。」
「なるほど・・そんなもんですね。」
こうして、榛名艦上では襲い来る敵機を向かい打つ準備が進んでいた。
「艦長。浸水は早めにくいとめないと正確な射撃が、出来なくなってしまいますが、どうします?」
「大丈夫だ、もう敵の攻撃は下火になってる。ここは耐えるときだ。」
「分かりました。」
しかしその判断が、報われることはなかった。
「降下開始!」
俺はその叫び声とともに、機体を前に倒し、降下させていく。
「撃方始め!」
急降下に移り、敵機の高度が1600程度になったのを見た射撃指揮官が叫んだ。
それと同時に、榛名の左舷が今までのように真っ赤に染まる。
凄まじい轟音が、艦上を駆け巡る。
「何!」
俺は思わずそう叫んでいた。
まさかこいつにここまでの力が、残っていたとは。想像もしていなかった。
しかし、ここで辞めるわけにはいかない。男のプライドが許さない。むしろ、ここから生還すれば英雄扱いになるだろう。
いや、そこまで甘くないな。さっきのやつも生還してたし。
まだ機を狙ってる奴もいるからな。
あいつを撃沈出来ればいいが、出来なかったら、他の奴が引導を渡すことになるんだろうな。
だが、奴に一撃を見舞ったという事実に変わりはない。
今は、彼奴に爆弾を当てることだけを考えるんだ。
「ちぃい!」
高角砲弾の炸裂で機体が振るえる。
その為、照準がずれる。
「いいぞ!もっと撃ちまくれ!」
「分かってらあ!」
射撃指揮官が叫び、機銃長が機銃員を激励する。
「いいか、ここが踏ん張りどころだ!」
吉村艦長が、総員に対し叫ぶ。
榛名がこの攻撃を切り抜けるには、ここで耐えなければいかん。
ここさえ耐えられれば、浮いていられる。その判断があった
「あいつを落とせ!」
乗員から、機銃員に対し檄が飛ぶ。今までだって、落としてきたんだという思いがあった。
「あいつはあいつでうまいな。」
吉村艦長が、絶妙に機体を操っている、相手を感嘆したように言った。
「もう少しで、たどり着けるぞ!」
「いい感じです。」
俺は、敵の火網に絡めとられないように、機体を少しずつロールさせていた。
もちろん、攻撃に支障が出ない範囲で。
「900」
「500で落とします!」
「低くないか?」
「確実に当てるには、そのくらい行かないと、無理です!」
「わかった!」
敵に接近するほどやられ易くなるが、確実に当てるためなら仕方ない。
要は、ギリギリまで近づく。ただこれだけのことである。
「敵をよく狙え!当たってないぞ!」
射撃指揮官が、なかなか目標を捉えられない部下に対し、苛立ちと不甲斐なさが混在するような、感情と声音で言った。
「分かってますけど!中央部がやられちまったから、どうしても弱くなっちまうんですよ!」
「それをどうにかしろと言っているんだ!」
それをどうにかする為に、機銃座がより中央寄りに旋回する。
「やばいな。」
敵の射撃の密度が高くなってきた。
これだといつやられても、おかしくない。
だが、もう後100も降れば爆撃し離脱するんだ。逃げ切れるだろう。
「500。」
「投下!」
500キロもの重量物が投下され、機体が軽くなり浮き上がろうとする。
「敵、投下!」
見張り員の叫びが、艦橋へ伝声管を伝って届けられる。
「衝撃に備えろ。」
艦長の口から、再びこの言葉が出た。
「また当たるか!」
射撃指揮官が忌々しげに、叫んだ。
しばらく、時間が静止したように感じた。
「いったか!」
思わず叫んでいた。
今まで耐えてた甲斐があったものだぜ!
「やりましたよ!」
その刹那、榛名を激しい衝撃が襲った。
「あいつを逃がすな!」
砲撃長の怒りのこもった、声が響き渡る。
その声を起点に、まだ攻撃を受けていなかった、右舷側高角砲、機銃群が一斉に撃ち始めた。
今までの鬱憤を一気に晴らすように撃ちまくっていく。
第67話完
まだまだ続く呉空襲編!
だんだん追い詰められていく、榛名の運命やいかに!
感想&勝手にランキング投票お待ちしています




