第63話連合艦隊の終焉⑦
63話抜かしてましたので、割り込ませます
榛名の左舷側の12、7センチ高角砲、25ミリ機銃が、たった今ロケット弾を撃ち込んできた、F6Fヘルキャットに対し、容赦のない集中砲火を浴びせる。
少しずつだが、翼から白い霧のようなものが流れ出ているのが散見出来る。燃料タンクに命中したのだろう。
アメリカ機には生ゴムを使った自動防漏装置が備え付けられており、なかなか燃料が漏れず引火しないのである。
やばいな、これ以上進むと燃料に引火するな。そんな事を考えながら、機を旋回させて機銃弾から逃げようと操縦桿を右に倒し補助翼を動かそうとした。そう、艦尾側に逃げるためだ。
しかしここで彼の機は、何時もよりも旋回が怠慢になっていた。
「なんでこれしか回らないんだ!」
彼の絶叫が機内に響く。
あれ?ふと思って右翼の補助翼を見ることにする。
やはり無い。
補助翼が殆ど吹き飛ばされて存在していなかったのだ。でも、機体が回らないわけではなかった。左翼の補助翼は無傷で残っていたからだ。
でももう母艦に帰ることは出来ないな。
そう諦めの感情が頭を支配した時だった。
彼の機の右翼が吹き飛んだのだ。
「なんだ。!」
彼は叫び声をあげた。
「いいぞ!撃ちまくれ!確実に当たってるぞ!」
艦尾側の射撃指揮官が叫ぶ。
「分かってらあ。照準はあってるぞ!」
機銃長が、旋回手と仰角手に言った。
「はい!」
彼らはそう返すと、また機銃の操作に全神経を当て始めた。
「 この調子なら、今日の空襲も乗り越えられるか?」
吉村艦長は、榛名の左舷対空に集中砲火を受けている敵機を見ながら、つぶやく。ここまで4機の敵機が攻撃を仕掛けてきた。
その内、攻撃に成功し榛名に損害を与えることに成功したのは、たった今右翼を吹き飛ばされたF6Fヘルキャットのみであった。
この機は、2発のロケット弾を榛名に命中させた。
しかし、榛名の70ミリの厚さを誇る水平装甲を突き破ることは無かった。
榛名の水平装甲は、戦艦の物としては薄い部類にはいるだろう。
例えば、比べるのが愚かしく思うが帝国海軍最後にして最大の戦艦大和など210ミリもの水平装甲を持っていたのだ。
しかし、自重が21キロしか無いロケット弾を貫通させるほど脆いものではなかった。それだけのことである。
確かに、甲板に貼られた木材はボロボロになっており、痛々しく見えるが人間でいえば蚊に刺された程度の損害であり、燃料さえあれば30ノットの高速で、紺碧の海を走り回ることが出来るのである。
「もう終わったか。」
もうだめだ。右翼を吹き飛ばされてしまったのだ。生きてはもう帰れないな。
その時だった。
彼の乗機が炎に包まれながら、呉の海へ機首を下げ
そのまま突っ込んでいき、着水とともに爆発したのは。
あいつまでやられちまった。でもあいつは、うまく敵の対空砲火に穴を開けてくれた。
でもまだ、突っ込まないほうがいいな。敵艦の対空射撃はまだ、強力だからな。
穴を開けてくれたのはいいけど、そこまで大きな穴でもないんだよな。彼には失礼かもしれないけど。
まだ、今突っ込んでも奴の対空砲火で落とされるのは目に見えてるからな。
もう少し削ってくれれば良いんだけど、流石に無理だろうな。
また、突っ込んでいきやがった。
あいつをやらねば、気が済まねえ。
もうあいつの手で、3機もの僚機が落とされてんだ。我慢できないだろう?
だから、俺は危険を承知で突っ込んで行くことにしたんだ。
第一友軍がやられてるのに、助けに行かないとかゆう薄情な奴にはなりたくないしな。
それに、奴の対空砲火さえ潰せれば、あとはなぶり殺しに出来るからな。
でも、少しは様子を見るか。友軍が、どの位戦果を上げているのか気になるしな。
「機長、早く行きましょうよ〜」
どこか間の抜けた声で言ったのは、俺の機の爆撃手だ。
ただこいつ極度の面倒くさがりやで、何事もさっさと終われせようとするんだ。こんなんでよく訓練を乗り切れたもんだといつも思う。
でも、爆撃はとてもうまい。と言うより、投下のタイミングか。
どっちにしろ、こいつとのペアを解消する気は無いってことだ。
「まだ待ってろ。様子をもっと見る。」
「なんでですか〜さっさとやって帰りましょうよ〜〜」
「焦って死にたくはないだろう?だったら我慢しろ!」
「分かりましたよ。」
憮然としない言い方だが、一応は賛成してくれたか。
「伊勢がやられてるな。」
榛名艦橋で右前方を見ていた吉村艦長が、ぽつりと呟いた。
でも、加勢に行くことは出来ない。
恐らく、エンガノ岬での雪辱を挑んでいるんだろう。
エンガノ岬沖海戦で、伊勢と日向コンビは、ハルゼー大将率いる第38任務部隊からの熾烈な空襲を無傷で切り抜けていたのだ。
多分、艦後方が平らになっているという特異な外見だから、すぐに分かったのだろう。
日向は、敵の急降下爆撃によって数発の爆弾を食らっており、すで機銃群からの反撃が弱々しくなっていた。
だから、今でも激しく抵抗し続ける伊勢を集中的に襲っているのだろう。
だが、エンガノ岬沖海戦で、第38任務部隊の攻撃を無傷で切り抜けた、対空射撃はいまだ健在であり、いまだに榛名と共に米軍攻撃隊との死闘を繰り広げていたのだ。
第63話完
すいません、話飛びました
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