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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第五章

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将来の王弟妃 アヴィナ -7-

 吸血鬼。

 それはかつて一国を滅ぼしたとも、世界を席巻しかけたとも言われる魔物だ。

 その特徴は「増える」こと。

 ゾンビやスケルトンなどにも見られる性質だが、そのたちの悪さは段違い。


「大元の吸血鬼──つまり祖は、人ならざる美貌を持ち、人を魅了すると言われている」


 その場にいた者の何割かが俺やアナスタシア、そしてテオドールを見た。


「神にしろ魔にしろ、その頂点に近づくということはそういうことなのだろう」

「そうですね。とはいえ、テオドール殿下の魔力は正の性質のもの。魔物の持つ負の魔力とは異なります」


 話を戻して。


「吸血鬼は魅了した人間を噛み、その血を吸う。血を吸われた人間は新たな吸血鬼──つまり、魔物と化す」


 吸血鬼化した人間は祖の忠実なしもべとなり、仲間を増やすべく活動を始める。

 子吸血鬼や孫吸血鬼、以下もろもろにも吸血鬼化の能力が備わっているため、あとはもう、ネズミ算式に増えていく。


「吸血鬼となった人間は身体能力が強化され、ある程度の傷ならば再生する。痛みに怯まず、血を流しても生命活動に支障が出ない」


 つまり、ただの一般人が凶悪な兵隊に早変わり。

 そしてその兵隊が個々に仲間を増やす能力を持っている。


「さらに言えば、これまでに現れた吸血鬼は例外なく『魔物の主』だ」


 辺境伯領に現れた邪悪なグリフォン。

 あれがそうだったように、祖となる吸血鬼は人の血を吸うのではなく、自分の魔力を費やすことでも吸血鬼を生み出すことができる。


「また、祖は吸血によって魔力を回復する。これがどういうことかわかるな?」

「魔力を費やして兵を増やし、人を捕らえて吸血する。それだけであっという間に吸血鬼の軍団が出来上がります。……本当に、最悪の相手ですね」


 そんなものが隣国を脅かしているのだ。


「本当に、とんでもない事をしでかしてくれたものだ」


 珍しく頭を抱えてため息をつくテオドール。


「希望的観測はするべきではない。隣国は都の内部で魔物生成実験を行い、現れた吸血鬼に敗北した──そう考えるしかない」

「都を封鎖したのは情報を遅らせるためと、せっかくの獲物を逃さないため……」

「ならば、もう既に都は」


 吸血鬼の都と化していると考えるべきだ。


「吸血鬼化した人間をもとに戻す方法はないのですか?」


 一人の質問に、国王が答える。


「強力な奇跡を用いれば、浄化によって人に戻す事は可能であろう。どうだ、アヴィナ、アナスタシア」

「可能だと思います」

「おお、ならば!」


 明るくなる会議室内。しかし国王は「だが」と続けて。


「我が国の人間に被害が及んだ場合は別とし、基本的には人への回帰は考慮に入れないものとする」

「何故ですか、陛下! それでは!」


 吸血鬼を殲滅しきっても国がひとつ亡びる。


「我々にはそれほどの余力がない。……聖女の域にある者が、各部隊に振り分けられるほど、そう、少なくとも10か20もいるのならば考えなくもないが」

「『大聖女』であるわたしが申し上げるのも心苦しいですが、たとえそれだけの人数を揃えられたとしても、吸血鬼をただ『魔物として葬る』のと『人に戻す』のでは消耗が段違いになるはずです」


 1人1人を元に戻すのにそんな労力を払っている暇はない。


「……くっ。一つの国が丸ごとなくなるのを見過ごすしかないとは」

「奴らの自業自得、そう考えるしかあるまい。我々がすべきはまず、吸血鬼を自国に入りこませない事だ」


 全員があらためて表情を引き締めた。

 なにしろ、最悪1匹が入りこんだだけで倍々ゲームで増えていく相手だ。


「既に辺境伯領には、国境を完全に封鎖するように指示を出した」

「吸血鬼から逃げてくる者も国内には入れない……ということですな」

「仕方あるまい。避難民のフリをした吸血鬼が紛れていないとも限らぬ」


 入国を諦めるならよし、そうでないなら拘束するか、その場で葬ることも可。


「『南』と接する他の国にも急ぎ連絡を取っている。どこか1国でも失態を犯せば、それで世界が終わるやもしれん」


 1日でも早く対処しなければ、人と魔の全面戦争になる。


「討伐軍は可能な限りの兵力をもって編成する。指揮を取るのは第一王子のランベールだ」


 聖女でもあるセレスティナがそれに帯同し、辺境伯領との顔つなぎ役としてフラウ・ヴァルグリーフが同行。


「アヴィナ。神殿にもできうる限りの協力を要請したい」

「かしこまりました。神殿の巫女たちにも、こういう時こそ腕を振るってもらいましょう」


 さらに、アナスタシアから北の教国に連絡が行き、教国軍のほかに教国の巫女たちも応援に来てくれることになった。

 とはいえ、連絡がついたのもまだ会議より少し先のこと。

 応援の到着はさらにその先になるのだから──やはり、この国の人間でできる限りのことはしなくてはならない。




    ◇    ◇    ◇




「そんな強い魔物が相手だなんて……アヴィナ様やアナスタシア様ならともかく、私たちに務まるでしょうか」

「大丈夫です。普段の魔物討伐と行うことは変わりません。こうした事態のために、魔物の浄化を訓練してきたのではありませんか」


 さすがに吸血鬼相手となると巫女たちもしり込みしたものの、そこで巫女頭のラニスが彼女らを激励してくれた。

 ラニスが言った通り、巫女たちもたびたび魔物討伐に同行、魔物を葬るための奇跡を練習して使えるようになっている。

 俺みたいにばんばん使うことはできなくても、複数人で協力すれば群れの相手だってできる。


「怖いのはわたしも同じよ。でも、これはこの国の人々を守るために必要な戦いなの。それに、騎士や兵士たちがちゃんと守ってくれるもの」

「アヴィナ様がそう仰るのでしたら」

「私たちも精いっぱい頑張ります」

「ありがとう。一人でも多くの人を救えるように頑張りましょう」


 国は本当にできる限りの手を打つことにしたようで、今回の作戦には冒険者たちも大量に加わることになった。

 仕事が減っていたところに期せずして大口の稼ぎ口登場である。

 みんなこぞって参加を表明し、普段から魔物と戦い慣れている彼らの協力によって戦力は大幅に向上した。

 が、


「足りないな」


 テオドールはそれでも不足だと考えているらしい。


「宮廷魔術師も総動員で討伐にあたるのですよね?」

「ああ。各貴族家からも私兵が提供されるし、自主的に参加を表明してきた貴族も多い。が、まだそれでも不足している」


 国境と言ってもライン全てに壁が築かれているわけでも、すべて関所で監視できているわけでもない。

 一人も通さないためには10や20の部隊を作って各所に配置しなければならず、そのうえで各部隊が吸血鬼の群れに対処できなければならない。

 こちらは人間である以上、休憩や交代も必要だ。

 となると人手はいくらあっても足りない。


「……まさか、フェニックス様に協力を乞うつもりではありませんよね?」

「それはさすがに最後の手段だ。国境線を越えられ、公爵領が脅かされでもしない限りは頼るわけにはいかないだろう」


 それならいい。これは今を生きる人の問題、フェニックスの力を借りるのは本当にどうしようもなくなった時だけだ。

 そして、そうならないように俺のような人間が尽力しなければならない。


「であれば、他のやり方を検討されているのですよね? ……わたしにもひとつ、思い当たるものがあるのですが」

「ほう。それを教えてもらえるか、アヴィナ」

「はい。……聞けば、かつて何人もの凄腕の宮廷魔術師が政治闘争によって職を追われ、今は貴族夫人の座に収まっているとか」

「奇遇だな。私も彼女らに力を借りられないかと考えていた。

 夫人が打って出るとなれば、引退した男達も引っ張り出せるだろう。

 ……だが、彼女らには王家への不信がある。そのような境遇の者たちの、筆頭のような存在に話を通せればまだ、話の持って行きようはあるだろうが」


 奇遇なことに、俺はかつて宮廷魔術師の座を奪われた名うての魔女、かの『雷鳴』の妹である。

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