えっちの伝道者 アヴィナ -10-
「セレスティナさまと神殿へご一緒するのは、なんだか久しぶりですね」
「なんですの。わたくしだって定期的に訪問していますわ。単に予定が合わないだけではありませんの。
……まあ、忙しいせいか、二週に一度になることもありますけれど」
たまたま二人の予定が合ったので、たまには一緒の馬車で神殿へ。
「アヴィナさまこそ、よくそんなに訪問できますわね? 王族教育も詰め込まれているはずですのに」
「わたしは王族入り予定と言っても王弟妃ですから。次期王妃もあり得るセレスティナさまとは許容範囲が異なります」
「それにしたって回数が多い気がしますけれど……」
それはまあ、いちばん大っぴらに露出できる場所でもあるし。
「今は特に、巫女たちへの指導に力を入れておきたいのです。もしかすると、辺境伯領の一件以上の事態が発生するかもしれません」
「ああ。……南の動向、ですわね?」
「ええ。ですから、わたしがいなくても都を防衛できる程度には、腕の良い巫女を揃えておきたいのです」
もっとも、人はそんなに簡単には育たない。
俺が大聖女に就任してから徐々に財政が安定、養える人数が増えてきたとはいえ、その頃以降に神殿入りしたメンバーが戦力になるのはまだ先だが。
今いる戦力を今以上の戦力に変える手段ならあるわけで。
◇ ◇ ◇
「アヴィナ様、セレスティナ様、ようこそいらっしゃいました」
「ええ、お久しぶりですわね、ラニス」
馬車が到着すると、神殿の入り口で巫女頭のラニスが出迎えてくれた。
相変わらず綺麗なサファイア色の瞳。
俺が幼児だった時代にもう一人前だったことを考えるとそこそこの年齢だというのに、その美貌は衰えるどころか輝きを増しているようにも見える。
そんな彼女にセレスティナは笑顔を返して、
「それにしても、あなた、なかなか度胸が据わっていますわね?」
薄い──薄すぎて透け透けの白い衣の下は、下着だけ。
素晴らしい装い(俺基準)をあらためて指摘されたラニスは「え、ええ」と苦笑して。
「もう慣れてしまいましたし、周りの者の目も変わりましたので」
いいことである。
えっちな巫女が当たり前になれば「なんだあれ」と視線を向ける者は減る。「うわ、えっろ」とこっそりガン見する人間はいるかもしれないが、害がない間は放っておけばいい。
「……いえ、前々から思っていましたけれど。単に仕方なく着ているにしては、衣装も変わっていますわよね?」
そうですわよね? とばかりにこっちを見られたので「そうですね」と頷く。
「わたしの提供した元の衣に比べるとスリットが深くなっていますし、丈を調節するための紐が増えたことで、上半身の密着度が上がっています。
さらに申し上げますと、中に身に着けている下着もとても素敵です」
「あ、アヴィナ様、あらためて指摘するのはおやめください!」
そうは言っても、白いレースのローレグショーツ&ブラは、衣の色とあんまり変わらないせいで一見なにもつけてないように見える。
どう見てもえっちだ。
「……そんなこと言って、ラニス。人に見られるのが癖になっているんでしょう?」
囁くように言うと、巫女は本気で恥ずかしそうに頬を染めながらも、こくん、と頷いた。
「はい。その、だんだんと。あ、アヴィナ様のせいですからね!? こんな、この衣でさえ、少々、物足りないと思うように……」
最後のほうは消え入りそうな声であったものの、確かに告げられた内容に、セレスティナは「これは重傷ですわね」と苦笑い、そして俺は満面の笑顔で彼女の手を握った。
「そんなラニスにいいものがあるわ」
「? いいもの、ですか?」
「ええ。わたしとセレスティナさまの合作、巫女頭に相応しい衣装よ」
◇ ◇ ◇
『大聖女』『聖女』『巫女頭』が揃って着替えに向かう光景を見た神殿の者たちは、すぐになにが起こるかおおよそ把握したようだった。
「あの、見学させていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
手の空いている巫女からの申し出は快く受ける。
ただし、便乗して「では私も」とか言ってくる神官はきっぱりと断った。
男女差別と言われようと、さすがに着替えはデリケートだ。
着替え終わった姿がほとんど裸と変わらないとしても、途中の姿は見せたくない、という心理はわりとある。
まあ、俺はあんまり気にしないけど。
そうして、10人以上の巫女をぞろぞろ連れて着替え用の部屋に到着。
「あ、あの、では私も別室で着替えを……」
「だめよ。というか、いい加減慣れなさい。メアリィ、カミーユを巫女の衣に着替えさせてあげてくれる?」
「お任せくださいませ、アヴィナ様!」
男子禁制の空間の完成である。
「……アヴィナ様? あの子がメイドをしているのはもう慣れましたけれど、一応、男性ですわよね?」
「少年ですけれど、カミーユは新しい聖女候補ですので」
というか、セレスティナでさえ「一応」とか言ってるのがもうそういうことだ。
巫女たちも、すでに何度も訪れているカミーユには慣れている。
もともと神殿ではスペース等の関係もあって、巫女が神官の着替えを目撃してしまうこともまあ、わりとある。
おまけに女子が優勢な場で、かつ相手が可愛い少年とくればむしろノリノリで、メアリィに「お手伝いします」と申し出る子までいた。
そうして、カミーユはここに来るたびに透け透けの衣を纏っている。
「さて。では、ラニスにはこちらを進呈しますわ」
「あ、有難く頂戴いたします……!」
いろんな意味で目上の相手から下賜された品、よほどのことがない限り丁重に受けとるのが礼儀。
とはいえ相手が相手なので、かなり緊張した様子で包みを解いたラニスは「これは……!?」と目を見開いた。
「もはや衣、ですらないのでは……?」
そう。
「ふふん。良いでしょう? わたくしとアヴィナ様の嗜好、その妥協点を探った末にたどり着いた衣装ですの」
「衣にこだわる必要はないのよ。つまり、神に仕えるのに最も相応しい衣装は美女の裸身そのもの。それをできる限り損なわないことこそが重要なの」
そのうえで、儀礼的な意味合いを持たせるため──という名目で、衣装的な華やかさを盛っている。
具体的に言うと、この衣装は「手袋+ロングブーツ+セパレートタイプのハイレグビキニ」だ。
色はすべて白。
手袋もブーツも末端に近づくほど密着するデザインで、逆に言うと胴体に近い側はかなりふわっと広がっている。
ビキニは下着っぽく見えないよう、光沢がありきめ細かい生地を採用。装飾用に上も下も紐をたくさん取り付けて気分的な豪華さを演出。
大事なところこそきっちり隠れているし、透け透け+下着よりもある意味破廉恥度は低いかもしれないが、ラニスの言った通り、これはもはや衣ではない。
「巫女頭という重要な役職には特別な衣装が必要ですわ。ラニス、これはあなたにこそ相応しいの」
「わ、私が、この衣装を……!」
これに聖印を加えれば、まさにえっちなファンタジー作品の女司祭といった具合。
さすがのラニスもごくりと息を呑み、震えながら衣装を手にして。
けれど、彼女の瞳は、期待と興奮によって、確かにきらきらと輝いていた。
「素敵です、ラニス様……!」
「私たちも、聖女様から特別な衣装をいただけるようになりたいです……!」
ちなみに、俺たちの活躍が広まるにつれて「自分たちも」という動きは巫女たちの間にも広がっており、今では自主的に透け透けの衣を希望する者が増えている。
えっちな巫女ときっちりした神官が当たり前のように同居する空間が誕生するのは、もうだいぶ近い未来である。




