えっちの伝道者 アヴィナ -9-
新たな流行のためにまずやったことは、モノの確保。
試作品から細かなブラッシュアップを行い、俺の分だけではなく使用人や護衛役のぶんも生産。
こうして出来上がった絵面が──馬車から下りるなり、ずらり、と並ぶ「動物耳をつけた美少女・美女の群れ」。
いつもと違って特に露出がないし胸を強調したりもしないので、メイドたちは嬉々として協力してくれて。
「まあ、なんですのあれは? 動物の耳が頭から生えていますわ」
「わかりませんけれど、なんだか可愛らしいですわね」
主に女子生徒を中心に、話題があっという間に広まっていく。
「アヴィナ様、そちらは新作ですの?」
「ええ。ご覧の通り、動物の耳を模した髪飾りです。とても愛らしいでしょう?」
「ええ、みなさまで並ぶと統一感もありますわね」
今回は、最初ということで耳の定番、王道中の王道である「ネコミミ」を選択した。
俺の分は白いネコミミで、メイドや護衛たちの分は黒いネコミミ。
カチューシャ部分の色はそれぞれの髪に合わせてある。
「つくりも丁寧で……これはまるで本物の耳のようですわ」
「本物の動物の毛を使っていますので、質感も近いものがあると思います」
小さい子供にも喜ばれるだろうし、誰かが言っていた通り統一感があるので制服としても利用可能。
屋敷のメイドが全員でつけたら、来客は「よくわからないけどなんかすごいな!?」という気分になるに違いない。
「あの、アヴィナ様……私たちも試してみたいのですけれど」
「そう仰ると思って、いくつか用意してあります」
「さすがはアヴィナ様!」
一般用なので髪色に合わせたりはできていないものの、もちろんこだわって作ったちゃんとした品。
早い者勝ちということで渡したカチューシャはあっという間に売り切れ、令嬢たちがきゃあきゃあと試し始める。
いいなこれ、いつになく素直に俺のファッションが受け入れられている。
これがえっちな衣装ならもっと良かったのだが。
ちなみに、テオドールと同様に、
「ううん、確かに愛らしいとは思うが」
「少々愛らしすぎるというか……もう少し低い年齢層向けなのではないか?」
このように男子たちにはあまり評判が良くない。
一部の可愛いもの好き、動物好きの男子には好評だが、その手の趣味はえてして同性受けが良くないもの。
うちの義兄が女性用ファッションデザイナーへの憧れを隠していたように肩身が狭い。
そこでもう一つのアイテムの出番である。
「実は、さらに尻尾も用意しておりまして」
ドレスに固定できるように仕上げたそれをそれぞれに取りつけると、細く丸みを帯びた猫尻尾がスカートに生える。
尻尾はだらん、と垂れ下がってしまわないように硬めの芯を入れてある。
ある程度なら形を変えることも可能で。
当然のように、女性陣からきゃあああ、とさらに歓声が起こった。
「あまりにも可愛らしすぎます!」
「ちなみにもちろん、こちらのカミーユのように殿方がつけても構いません」
「と、殿方が……!?」
「そちらのメイドが男性というのも驚きですけれど、それは、あまりにも背徳的な……」
「ですが、知ってしまった以上は試してみたくなりますわ……!」
この動きに婚約者のいる男性陣は「なにをさせられるんだ……!?」と戦々恐々。
が、
「だが、この尻尾は……案外悪くないかもしれないな」
「ああ……。なかなか趣がある」
野郎ども、お前らもか。
貴族だけになるべく隠してはいるものの、スカート、というか尻に視線が向いているのがバレバレである。
ちなみにこの尻尾、スカートに取りつけているので当然、ふわりとしたデザインのスカートだと浮いた感じになってしまう。
背部にスリットの入ったスカートをデザインして、下着やアンスコのような見せ下着から生やすようにすればさらに見栄えがよくなるだろう。もちろんその場合はえっちさもアップ。
そして、護衛として付いている騎士や兵士のパンツルックにもこの尻尾はマッチする。
女性の丸みのある尻のラインがよりわかりやすいので、お尻から生えているように見えやすいのだ。
動きの多い人物の場合、尻尾がある程度しなったほうがいいのか、それとも固定していないと邪魔になるか、など研究のしがいがある。
「しかし、アヴィナ様……我々騎士にこのような華美な装飾は不要かと」
と、このように女性騎士にもネコミミ、ネコしっぽはあまり好評ではなかったりするが。
「その意見もわかるけれど、こうして飾っておけば、場の雰囲気を和ませることにも繋がるんじゃないかしら」
騎士の護衛はなにも厳かな場だけではない。
むしろ、華やかなパーティやお茶会に同行するほうが多いくらいなのだから、怖い顔で威圧感を出されるよりは可愛くしているほうがもちろん受けがいい。
実際、武骨な騎士よりは女性や、スマートなイケメンのほうがその手の席には呼ばれやすいし。
「いえ、我々はあくまでも警護が目的。場を和ませるためとはいえ、あまり舐められては支障をきたします」
「力量を見誤らせることで相手に隙を作らせる、という考え方もあるわ。可愛い猫が腕の立つ護衛だとは思いにくいもの」
「なるほど……。一概に不利益とは言えない、ということですね。
とはいえこの猫の尻尾はやはり邪魔に思えますが」
「それはそうかもしれないわね。うさぎとか、短めの尻尾のほうが騎士には向いているかも」
ここで再び、周囲の生徒たちに激震。
そうか、なにもネコミミだけに限定しなくていいのだ、と、気づいた彼女ら、彼らはその幅の広がりに驚愕する。
カチューシャの色、耳の色だけでもバリエーションがあるのに、そもそも耳や尻尾の形を変えられるのならば無限にアレンジができる。
適当に「尻尾を見せるためにパンツルックが流行るかも」とか言ったら男どもも「なるほど」と神妙な顔になり。
「あの、アヴィナ様……こちらは真似をしてもよろしいのでしょうか?」
「もちろんです。工夫次第で安価に作ることも可能でしょうから、広く楽しんでいただけるのではないかと」
「そうですね。髪飾りですし、気分に合わせて着用しても良いですし」
「あ、でも、帽子と一緒だと邪魔になってしまいますわね……?」
「耳を柔らかい素材で作れば、そのまま帽子もかぶれると思います。あるいは帽子に耳をつけるという手もあるかもしれませんね」
そもそも、メイドに日傘を持たせられる令嬢なら帽子を被らないという選択もある。
「ああ、これは、夢が広がりますわ……!」
こうして、学園内を中心としてにわかに動物耳ブームが巻き起こった。
主に令嬢たちがそれぞれ思い思いの耳を作らせ、装着して楽しみはじめたのだ。
おかげで一時、学園内はケモミミ娘が大集合したような有様に。
学園運営側からの反応も当初は「まあ、このくらいなら」といったもので、我ながらうまいこと広められたと思っていたのだが……あんまり広まるものだから、そのうちいくつかのルールが制定された。
「授業中は基本的に帽子同様、頭から外すこと」
「長い尻尾は邪魔になるため、長さを規定以下とすること」etc.
しばらくするとブームは下火になり、気が向いた時だけ身に着けたり、特に好む生徒だけがよく身に着ける感じになったものの……その頃には逆に、成人世代や親世代にも広まりを見せ始めて、後に、実際に屋敷のメイドのお仕着せとして採用するケースも生まれた。
『瑠璃宮』のお姉様方にもまとまった数をおすそ分けしたところ、一部の客から大好評だったそうである。




