えっちの伝道者 アヴィナ -7-
ひょんなことからうちのメイドになることになったカミーユ少年。
いつから来られるか? と尋ねると「今すぐでも構いません」と言うので、もし必要なものがあれば後から運ばせる、ということで連れていくことにした。
「母上、お世話になりました」
「ええ。……その、身体に気を付けて」
「はい。母上もどうかお元気で」
母子の別れは、少しあっさりしすぎだろうか?
しかし、貴族の親子関係というのは複雑だ。
離れでの生活だったのであまり堅苦しくはなかっただろうが、息子は「男爵の子」で母は「元メイド」。
こういう場合、立場は母親よりカミーユが上になるため、ぎこちないかかわり方になってしまうこともあったりする。
ある意味、母にとっても肩の荷が下りた結果かもしれない。
別に、どちらかがたまに顔を合わせに行くくらいなら制限するつもりもないし。
さて。
そんなわけで、俺たちと一緒に馬車に乗ったカミーユ少年なのだが。
なんだか落ち着かない様子できょろきょろと車内を見渡している。
「公爵家の馬車だから、魔道具もあれこれ付いているわ。壊さないようにね?」
「は、はい。それは気を付けますが……」
真っ赤になって俯く彼。ははあ、目のやり場がない的なあれか。
俺のお付きは護衛に至るまで基本、全員女だ。
なにしろ、男を傍につけると襲い掛かられかねない。
年若い少年にはいろいろと毒かもしれないが、
「女性に囲まれるのには慣れてもらわないとね。あなたはこれからメイドになるんだから」
「う。え、ええと……」
しどろもどろで視線を彷徨わせる少年を見て、俺の中の女性面がきゅん、と母性を発揮する。
自信満々な奴かスマートな奴が多い貴族社会にあってこういうタイプは貴重である。
元・婚活娘であるメアリィもなにか感じるところがあったのか、にっこり、というか「にんまり」と笑みを浮かべて。
「そうですね。専属メイドともなれば、アヴィナ様の入浴のお手伝いもしてもらわなければ」
「に、入浴……!?」
目を丸くしてぽかんと口を開けた姿はもう、パニックで気絶しないかと心配になるくらいで。
「……カミーユは母性をくすぐるのが上手い子ですね」
ぽつりと呟いたコレットに、エレナがそっと「悔しいですが、正直、理解できました」と同意を示した。
◇ ◇ ◇
屋敷に戻ったらとりあえず風呂と着替え。
これはエレナたちに任せることにして、俺は紅茶を飲みながらのんびり。
しばらく──小一時間くらい? 経って戻ってきたカミーユは、肌をしっとりさせ、男の子にしては長めの髪を丁寧に整えられた状態で、子供用のメイド服を纏っていた。
「あら、素敵ね。とてもよく似合っているわ、カミーユ」
微笑みかけると、少年はまたしても真っ赤になりながら「ありがとうございます」と答える。
「でも、これ、なんだかすごく……」
「? フェニリード家のメイド服は特に過激なつくりではないはずだけれど」
むしろ温かみを備えたシックなデザインで万人受けしやすい。
「そういえば、アヴィナ様は特にメイド服へは手を加えられていませんよね?」
「ええ。メイドの衣装は肌を露出するようなものではないもの」
「当主の趣向によっては、短いスカートの衣装を採用することもあると聞きますけれど……」
「安易にスカートを短くすればいい、と考えるのは邪道よ」
専属メイド数名から「お前が言うか」的な視線が飛んでくるが、俺だってなんでもかんでも露出度を上げているわけじゃない。
メイド服は、そもそも用途も理念もチャイナドレスや水着とは違う。
いや、チャイナドレスも中華後宮的なところで用いる場合はメイド服に準ずるだろうが……要は、きちんとした仕事着は実用性も大事という話。
加えて、主に仕える者としての慎ましさ、清楚さをそのロングスカートに感じるからこそ、メイド服は「えっち」なのである。
つまり、この場合は隠れていたほうがえっちだと言える。
「まあ、そうね。例えば着たまま、胸だけを露出できる仕様にするとかはありかもしれないけれど」
「……授乳には便利そうではありますが、用途が限られ過ぎでは?」
俺がエレナたちにそういう奉仕をさせることはないのでその通りだが、そういう用途に使える、ということ自体が大事なのである。
……って、話が逸れた。
「例えば、悪徳貴族が他人の妻を奪って娶るとして、奪われた妻は貞淑で清楚なほうがきっと興奮するでしょう? そういう話よ」
「ああ、それはわかります。清楚を装うのも恋の駆け引きの一つですから」
「さすが、男をとっかえひっかえしていた女は言うことが違うわね」
「うるさいわよエレナ」
話が逸れまくっている。
「こほん。……カミーユにとっても、手足が隠れているほうが女の子らしく見せやすくて好都合でしょう?」
喉、手、腕、腰、尻などは男女で違いが出やすい。
女装するのであればそのあたりはできるだけ隠すと見栄えがよくなる。
そして、どうせならパンツルックなどよりも女の子らしいスカートのほうが「男の子がこれを着ている」という事実がいい栄養を出してくれる。
「それとも、やっぱり執事のほうがいいかしら?」
すると少年は意外にも「いえ、スカートのほうが、その……憧れだったので」と恥ずかしそうに、けれどはっきりと答えて。
「ただ、その。……押さえつけられるみたいで苦しくて」
「? スカートは開放的じゃ……ああ、そういうこと」
入浴に付き添ったメイドたちもなにやら意味ありげな笑みを浮かべている。
風呂と言ってもただ身体を洗っただけじゃない。
公爵令嬢に付きそうためにぴかぴかに磨き上げる必要があるし、その過程で「ムダ毛の処理」なども行う。
どことは言わないがつるつるに仕上げられただろうし──また、風呂上がりにとある処置を施してもらった。
カミーユ少年はむしろ気後れするタイプだろうが、女ばかりのメイドの中に男が入るにあたって、彼が暴走した時のために「おいたができないように」しておいたのだ。
もうちょっとだけ詳しく言うと、危険な部位に物理的な封印を施した。
「そのほうがスカートを穿きやすくていいでしょう? ……そのうち、そっちのほうがいいってくらい癖になっちゃうかも」
「そ、そんなこと……」
言いながらも、スカートのひらひらや各所に配置されたフリルにまんざらでもなさそうなあたり……この少年、女の子の才能がありすぎである。
神様はこんな子を男子として生まれさせるとは、なかなか酷なことをする。
にこにこと少年を見守る俺を、コレットがくすりと見やって、
「ウィルフレッド殿下と婚約なさらなかったのは、アヴィナ様にとってとても良い選択だったようですね」
「あら。結婚する頃には殿下もお年頃よ。立派に成長なさっているに違いないわ」
だから少年をエロい意味で可愛がるのは難しい……って、なんかそれだと残念がっているみたいなので「もちろん、そんな不敬をするつもりはなかったけれど」と付け加えて。
「カミーユにはこれから、わたしの専属メイドとして働いてもらいます。……といっても、しばらくの間は研修を受けたり、わたしたちの後をただ付いてくるのが主になるかしら」
「は、はい、精一杯務めさせていただきます!」
覚えることはたくさんある。やる気があるのはいいことである。
『聖女』としての俺のファンという意味でも、メイドとして新人という意味でもシルヴェーヌにとっては後輩になる。
彼女は「格好悪いところは見せられませんね」と張り切っており、
「年下の男の子、ね。……手取り足取り教えてあげて、いろいろな意味で親密になるのもいいかしら」
「メアリィは本当に相変わらずね」
メイドである彼女にとって、完全に同じ職場で働ける旦那なんてそうそう手に入らないので、そういう意味でもカミーユは優良物件……か?




