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Veil lady ~転生美少女は、異世界にえっちな衣装を広めたい~  作者: 緑茶わいん
第四章(仮)

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【閑話】婚約者同士の逢瀬

 寒い北の公爵領から、何日もかけて住み慣れた都へと戻ってきて。


「戻ったか。どうやら収穫はあったようだな、セレスティナ」

「ええ。ただいま戻りましたわ、ランベール様」


 セレスティナ・アーバーグは婚約者である第一王子の胸に飛び込んだ。

 婚前の身としては、できるのは抱擁がせいぜい。

 しかし、こうして彼に抱き留められると「ああ、帰ってきた」という実感が強く湧いてくる。


「積もる話がたくさんありますの。聞いていただけますか?」

「もちろん。お前のためならいくらでも時間を割こう」

「まあ。そんな調子のいいことを仰って」


 本当のところは少しでも多く情報が欲しい──というのが大きいだろうが、それはそれで構わない。

 到着した日の翌日、セレスティナは城にあるランベールの部屋に招かれた。

 閨のためではないが、ゆっくり話をするとなるとどうしてもこの時間が好都合。

 互いの使用人もついているし、寝室ではなく私室でのやりとりなのでいやらしい意味合いは全くない。

 が。


「おい。……なんだ、その衣装は。まさか俺を誘っているのか?」

「あら。殿下ったら、わたくしはほとんど露出しておりませんのに。まさか、いやらしい気分になられたのですか?」


 セレスティナが外套を脱ぐなり目をみはるランベール。

 そんな彼を見て、してやったりと笑みを浮かべる。

 確かに、魔道具の燭台による明かりに照らされた夜の部屋に、この装いは独特の雰囲気を醸し出しているが。

 ごほん、と、強引に話の流れを打ち切った王子は「で?」と半眼を向けてきて。


「なんだ、それは。またあの大聖女の仕業か?」

「正解ですわ。……と、言いたいところですけれど、正確にはアヴィナ様とアナスタシア様の共謀ですわね」

「まさか、『北の聖女』まで噛んでいるのか?」

「ええ。こちらは仮に『聖女の修行着』と呼ぶことにいたしましょうか」


 赤い光沢を放ち、身じろぎするだけできゅっきゅっと小さな音を立てる衣装。

 手足と胴体を切り離し、背の切れ込みに紐を通して締めあげられるように改良してある。


「聖女の修行着、か。……俺は今すぐお前をベッドに連れ込みたくて仕方ないが」

「結婚までお待ちくださいませ。こちらは言うだけのことはありますわよ? なにしろ、相当な技術がなければ作ることもできず、また、着用し続けるにはなんらかの手段で『暑さ』に耐えなければなりません」

「その光沢、防水の加工を施した品のものだろう? 確かに通気性は悪いが……」

「その加工を両面に施し、そのうえ、それで全身を覆うのです」

「待て。それは蒸し風呂だろう」

「ですから、奇跡なりを用いて熱に対処しなければ着用できないのです」


 セレスティナはひとまず、衣装を小分けにすることで熱を逃がせるようにし、さらに本体に家にあった魔道具を取り付けている。

 鎧用の魔道具は形状が大きめのため、取り付け部分だけ膨らんでしまうものの──これを胸の谷間に置くことで違和感を減少。

 ついでに魔道具の存在によって生まれた隙間に、魔道具による微風が通って体温を下げられる。


「そこまでして着る必要が……ああ、だからこその修行着か。それにしても、お前が『あれ』の提案したものを嬉々として着るとはな?」

「うふふ。わたくし、新しい扉が開かれた気分なのですわ」

「っ」


 ランベールが急に立ち上がった。きょとん、と見つめ返せば「ああもう」とでも言いたげに腰を下ろして。


「お前の事だ、特に他意はないんだろうな」

「ええ、もちろん。アヴィナ様が『脱ぐ』過激さだけでなく『着る』過激さを教えてくださったことで、わたくしにも理解できるようになったのです」

「確かに、お前は全身を覆ったり、スカートを重ねるのが好きだったからな」

「ええ。着る方向でしたらむしろ賛同いたしますわ。……それに、殿方の視線というものは、存外、悪くありませんもの」


 ほう、と息を吐きながら言えば、王子の目に怒りが生まれて。


「まさか、誰か他の男に見せたのか?」

「ええ。例えば、フラムヴェイル様やテオドール殿下に」

「……ほう。叔父上はともかくあいつにまで見せたのか。仕方ない、フラムヴェイルに決闘を申し込もう」

「あら、殿下。これは下着ではなくれっきとした服なのですから。なにも問題はないのですけれど」

「俺の主観では、防水を施すのは靴や手袋、もしくは下着だ」


 加工費用がかかるため多くは流通しないものの、遠征時などに重宝するため騎士や、戦いに参加することのある貴族などはそうした装備を用意することがあるらしい。


「色は赤ではなく黒だがな。叔父上が色の変更方法を編み出したのか?」

「いえ、これはアヴィナ様の奇跡による産物ですわ」

「なるほどな。なら、さぞかし対抗意識を燃やしていることだろう」

「ええ。アヴィナ様とテオドール殿下はとても相性がいいですわね」


 公爵領でも、事あるごとに独占欲をむき出しにしていた。

 アヴィナはアヴィナで、なんの警戒心もないような笑顔を浮かべ「お慕い申し上げております」などと口にするのだから……それはもう、良いものを見させてもらった。


「わたくしも独自に研究を進め、安価に製造する方法を探るつもりですけれど──当面は、聖女の奇跡によって生み出し、着用にも奇跡が必要な品、ということになるでしょう」

「聖女と、それを目指す者がこぞって着用するわけか。……いい時代が来るな」

「ランベール様? 鼻の下が伸びていらっしゃいますわよ」

「馬鹿を言うな。俺はただ、防水の装備を奇跡で量産できるのであれば、軍備の在り方が変わるやもしれぬと」

「それですけれど、『北の聖女』様はわたくしが聖女となることに反対のご様子で」

「……ほう?」


 詳しく説明すると、ランベールは「なるほどな」と息を吐いた。


「お前が聖女を諦めるか、俺が王位を諦めるか、妥協点を探るにしてもお前の子を後継にしないと誓うなり、お前が早々に隠居するなりの対策が要る、か。なかなかの無茶を言ってくれる」

「ええ。聖女の精神性がわたくしたちとは大きくかけ離れていることをあらためて実感しましたわ」

「何らかの対処を考えねばならんな。……しかし、どうせ諦めるつもりはないのだろう?」


 その問いに、セレスティナはふっと笑って答えた。


「もちろん。負けっぱなしで終わるのは癪ですもの」

「負け? 前は『置いて行かれたくない』とか言っていなかったか?」

「それもありますけれど、今は対抗意識のほうが強いですわ。上に仰いだまま、なにもしないでいるなんて性に合いません」


 なにがなんでも食らいついてやる。

 自分とアヴィナ、アナスタシアとの差をまざまざと見せつけられてより強くそう思った。

 少なくとも、今よりもできることを増やして彼女らをあっと言わせたい。


「強い想いは成長のカギになるようですので、ちょうどいいのではないかと」

「なるほど。……ならば、俺も強い野心を抱けば可能性があるのか?」


 冗談めかして言う婚約者に、セレスティナはくすくすと笑いながら答えた。


「殿下は神とは似ても似つきませんので、さすがに不可能かと」

「なんだと。この美貌を前にして失礼なことを言う奴だ」

「ええ。わたくしはあなた様の婚約者ですので」


 ランベールがテオドールやフラムヴェイルとは違うところにいる以上、セレスティナには違った対応が求められる。

 だとしても、よほどのことがない限り、この婚約者と別れるつもりはない。


「これも運命と思ってお付き合いくださいませ、ランベール様」

「はっ。誰にものを言っている」


 二人は不敵に笑いあい、たっぷりと情報共有と、これからの作戦会議を続けた。

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