やっぱり最後は、めでたしめでたし(1/1)
その後のわたしも、これまでと変わりない日々を送っている。
毎日三食、揚げ物もパンも好きなだけ食べて、本を読んだり妄想したり。唯一変わったのは、髪や肌のお手入れをそこそこ頑張ることくらい。といっても、何とかアドバイザーさんに任せきりだけど。
華やかな集まり出向くことも全くなかった。やっぱりわたしはインドア派なのである。日中は、貸金庫から持ってきたコレクションで散らかり放題の居心地のいい自室でのんびりと過ごしてばかりだ。
もちろん、ラングドシャ卿とマダム・ミルフィーユはいつでもわたしの部屋にいてくれた。二人とも仲良く、愛すべきこの自堕落な生活を見守ってくれている。
でも、夜だけは別。ラングドシャ卿もマダム・ミルフィーユも、もうわたしの添い寝係は務めない。だって毎晩フローランさんに「素敵なもの」を贈ってるのに、ギャラリーがいたらやりにくくて仕方ないでしょう?
相変わらず、わたしはフローランさんに記憶が戻ったことを言っていない。
というよりも、一生教えるつもりはなかった。
最悪の五年間を忘れ、また記憶を取り戻したわたしは、生まれ変わったように全てがはっきりと見えるようになっていた。
そう、本当の意味で目が覚めたんだ。フローランさんもまた苦しんでいたのだと理解したのである。
わたしはフローランさんの愛情を疑い、心を痛めていた。そんな妻の苦悩に彼が気付かなかったはずがない。
でも、フローランさんはわたしの悩みを別方向に解釈していた。マルグリットは自分を愛していない。だから思い悩んでいるんだ。そう感じてしまっていたのだろう。
わたしが愛の言葉を口にする度、彼の顔に影が走ったのはそういうわけだったのだ。無理しなくていい、マルグリット。僕のことなんか好きでも何でもないと正直に言ってくれ……そんな風に考えていたに違いない。
彼が苦しんでいたのはわたしを愛するがゆえ。
そこまでわたしを好いてくれる人に、あなたの愛情を一度でも疑ったことがあるなどと言うのはあまりにも残酷だ。フローランさんに自分の愛情の注ぎ方が足りなかったのだと思わせてしまいかねない。
夫の心に新たな心痛の種をまくのは避けたかった。だから、わたしはこれからも十七歳のマルグリットで居続ける。自分のためだけではなく、フローランさんのためにも、これが最良の方法なのだ。
やっぱりわたしは二枚舌の悪い女だ。でも、この隠匿は罪にはならないだろう。
相手を思いやりながらも、ついに心を通わせることのできなかった夫婦を守るためにする隠し事なら、きっと許されるはずだから。
それに、わたしの結婚生活が嘘の上に成り立っているからといって、全てが偽物っていうわけでもない。
「フローランさん、愛しています」
たとえば一日に何度も口にするこの言葉には、偽りなんて少しも含まれていないもの。
「僕も愛してるよ、マルグリット」
もちろん、フローランさんのこの返事にもね。
わたしのお気に入りの小説みたいに、全てが丸く収まるハッピーエンドってわけにはいかなかったかもしれない。わたしは悪女で、後ろ暗いところのあるくせ者だから。
だけどこんなエンディングも、案外いいものでしょう?
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