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42 ドルー城


「らっ、らいじょうぶっ、ぶじっ、れすかっ!?」


 カルナリアは草の上から、ぐしゃぐしゃの顔をあげた。


 鼻孔に血の臭いをかいでいた。


 死体からのものか、それともフィンが傷ついて……?


「あー、めんどくさいやつだな」


 引き起こされ、顔に水をぶっかけられた。


 布を渡される。拭く。おでこのこぶが痛い。鼻をかむ。


「お前の方こそ、怪我はないか。馬も大丈夫か」


「ひゃいっ……何ともないですっ……!」


「あいつらは何とか()()()()()()。こういう場所なら楽勝だ。戻ってくる前に、先を急ぐぞ」


「ご主人さま、ご無事なんですね!?」


「疲れたが、まあ無事だ」


 カルナリアは持ち上げられた。

 そのまま馬の(くら)に乗せられる。


 フィンもまたがってくるかと思ったが、死体の方へするすると移動した。


「な、何を!?」


「騎士ネレイドが持たせた手紙だ。それがないと、城へ行っても門前払い、話を通すまでにかなりめんどくさくなる。あの手の連中は馬と金と武器しか興味がない、まだあるはずだ…………あった」


 人の死体を探るという、カルナリアにはとてもできそうもないことを、ぼろぼろはやった。


 取り出した紙には、べったり、血がついていた。


「ありがたい、読める」

「そ、それは、良かった、です……」


 フィンはかがみこんでいたところから伸び上がり、恐らく頭を下げたのだろう動きをした。


「アシル、さらばだ」


 顔見知りの死者に祈りを捧げている。


 カルナリアも同じようにした。

 騎士ネレイドの従士アシルさん、あなたの魂が良き風に乗りますように。


「恐らく、道をやってくるあいつらに出くわして、道を開けろ、何者だと問うた直後に攻撃されたのだろう。山道を封鎖するために街から派遣された援軍と思ったのかもしれない。いずれにせよ、ほとんど戦いにはならず、一方的にやられて――それほど苦しみはしなかっただろう」


「……そうですか…………でも…………かわいそうです…………こんなところで……ひとりで……」


「やったやつらに、報いは必ず訪れる」


 フィンは淡々と言った。

 怒りや憎しみではなく、単なる事実のように、決まりごとのように、下手人たちの運命を決めつけた。


 カルナリアはまた、この円錐(えんすい)の人物からぞっとするものを感じた。


「……もっとも、それを言い出せば、私などどれだけの報いを受けることになるのか、ちょっと考えるだけでもめんどくさいのだがな」


 いつものけだるげな声音に戻って、フィンは馬に乗ってきた。


 今度は、ぼろ布の中は見えなかった。

 円錐形のままふわりと宙に浮いて鞍の上に位置取った。


「……」


 カルナリアは、横座りになって、その体に抱きついていく。

 今度は逃げ場も放り捨てる場所もなく、ぼろ布ごと、フィンの腰にしがみつくことができた。


「どうした」


「また……いなくなってしまうのかと……!」


「そうか。心配させたな」


 背中をさすられ、またカルナリアはぼろぼろ泣いた。







 馬をこれまでより早足で進ませると、ほどなくして森が切れて、畑が一面に広がる農村地帯となった。


 村があり、その向こうに城壁をそなえた城とそれに隣接する街が見えている。

 この辺りの村々をまとめた行政区分である「(ぐん)」、その中心、ドルー城およびドルーの街。


 あの傭兵団は、城から見えるあたりでは略奪を行わなかったようで、特に異変が起きた様子はなかった。


 道幅が広くなり、よそからも合流してきて、自分たちと同じようにドルーへ向かっているのだろう人々があらわれ始める。


 川にも、下っていく小舟が見えた。


「今日は、久しぶりに、まともなところで横になれるかもしれん」


 人が死んだ直後だというのに、フィンに言われた途端に、カルナリアの全身が寝台に横たわるという快楽を要求し始めて、自分のことを浅ましく思ってしまう。


「……ところで、ご主人さま……あの街へ行って、あの方の代わりに手紙を届けて……それから、どうなさるのです?」


「むう。そうだな。東は戦が起こりそうなのだったな。ではあの街で一休みしてから、西へ行くか。この領の中心はタランドンという街だったな。そこへ潜りこんで、護衛任務か何か、楽にできる仕事を探すか……この馬も返さねばならないだろうから……船に乗れると楽なんだが……」


 西へ行く、という言葉を聞いてカルナリアは深く安堵した。


 どこかの山にこもると言い出されたらどうしようかと心配だった。

 その場合、自分はどうすればいいのかと。


「ただなあ……」


「何か?」


「さっきからどうも、いやな予感がしてならない。こういう時は大抵、めんどくさいことが起きる。のんびりできなくなりそうな……」


「怖いことをおっしゃらないでください」


「せめて、今夜ぐらいは、何も起きずにのんびり寝かせてほしいものだが」


「……今日はもう、大丈夫ですから」


 二日連続でフィンにしがみつき、泣きじゃくりながら寝ることになってしまったカルナリアは、反省しつつ言った。


 フィンの安眠を妨害したのは自分である。

 崖から転げおちてフィンを疲れさせたのも自分である。


「私は、大人になります。もう、甘えないようにしなければいけません」


「その気持ちは買うが、(あせ)るな。背伸びしようとして転ぶのもよくあることだからな」


 頭をなでられた。


 大人になりたいと言ったばかりなのに子供扱いされて、きわめて腹が立ったが、カルナリアの体も心も、そうされると気持ちよく(ゆる)むことを学習してしまっていて、結局()()()()()()から逃れられなかった。


(わたくし、マリエのように、この方には一生、かなわないことになってしまうのかもしれません……)


 成長したいが、このままでもいたい、二律背反(にりつはいはん)の感情をカルナリアは抱き続けた。




 ――ドルーは、これまで道沿いに流れていた川が、大河エラルモに注ぎこむ、その合流点にある。


 東から西へ流れるエラルモ河、それに南から流れてくる川が注いでできた、T字の地形。

 その西側に郡主の居館および軍営をそなえたドルー城。

 東側に広がるのがドルーの街である。両者は橋でつながっている。


 ドルーの少し前のところにも、川に橋がかかっており、城へ行くのか街へ行くのかはそこではっきり分けられた。


 城へ向かうのは、どこかの村から集められてきたのだろう数十人の若者たちの隊列や、集められた軍勢に食料を供給する農村の荷馬車ばかりである。


 そんな中で、単騎行の自分たちは目立っているなとカルナリアは警戒した。


 人が増えてくると、フィンはほとんど動かなくなり、しゃべることもなくなっていた。

 認識阻害のぼろ布のせいで、人々の目には、奴隷の女の子がひとりで馬に乗っているようにしか見えないだろう。

 ()()()者でも、後ろに馬の飼い葉か何かを積んで運んでゆくところと思うのではないだろうか。


「話は、お前にまかせる」


 またしても丸投げかと思ったが、今回は事情が違った。


「私が行くと、名前はもちろん素性も聞かれる。色々めんどくさいし、大人の、流れの剣士が騎士の手紙を持ってくるというのは怪しまれる。その点、子供で奴隷のお前が血染めの手紙を持っていく方が信用されやすい。手紙を受け取ってもらえたら、村へ戻りますと言って出てくるといい」


「わかりました」


 ネレイドの従士たちの役目を完遂(かんすい)させてあげたいと思う気持ちは、カルナリアも一緒だ。


「お前は、思っていたよりずっと、大人相手でもしっかりしゃべることもできるようだから、気楽でいられる。まかせたぞ」

「う……」


 城門近くで馬を下りた。


 血が乾いて茶褐色になっている手紙を渡され、おぞましく思いながらも自分の服の内側に入れる。


 フィンも馬を下り、街路沿いに生えている木の脇に馬を導いて、幹に背中を預けてうずくまってしまった。

 カルナリアが戻ってくるまで寝るのかもしれない。


「止まれ。ここは城だぞ、街じゃない」


 門番の兵士に止められた。


「あの、ワグル村に来た騎士さま、ネレイド・キトンさまからの、お手紙を、預かって参りました。大変なことが起きたので、お城の殿さまか、えらい人に、お渡ししろと」


「なにっ」


 兵士は仲間を呼び、その仲間が城内に入り、詰めていたらしい甲冑姿の騎士を連れてきた。


「騎士ネレイドの同僚の者だ。ネレイドが何だと」


「こちらを」


 血染めの手紙を差し出すと、騎士も兵士もぎょっとした。


 受け取って、乾いた血で貼りついた紙面をゆっくり開いた騎士は、たちまち青ざめて城内へ駆けこんでいった。


 詳しい話を聞かせろとカルナリアは城内へ連れこまれる。


(……それほど、殺気だってはおりませんね……)


 非常事態、緊急事態の空気というものを、カルナリアはこれ以上なく知っている。

 ()()()の空気に比べると、ここはまだ、ぬるい。

 緊張感は漂っているが危機は訪れていない。


 次々と各村からの兵士が集まってきて担当者がおおわらわだったり、タランドン領へ逃げこむことのできた貴族が何人も城主に押しかけてきておりその扱いに苦労していると、交わされる会話やキレ気味の怒鳴り声から何となく伝わってきた。


 廊下から部屋へ入れられ、椅子は与えられずに立ったまま待たされる。


 ほどなくして、体格のいい騎士と秘書官たちがぞろぞろと入ってきた。騎士団長だという。なかなかいい「色」をしていた。


「ルナといいます。ワグル村の近くで、アシルという人が、兵隊さんたちに襲われて、殺されてしまいました。私は茂みの中にいて、すごく怖かったのですが、アシル様が、私は騎士ネレイドの従士だ、これをお城へと、そのお手紙を、そのまま亡くなってしまいまして、それで、届けに来ました」


 少し嘘が入っているが、このくらいは許されるだろう。


「ネレイドの従士の名は」


 騎士が秘書官に尋ねる。すぐ名簿が照合され、ディルイ、イルディン、アシルという三人の名が上がった。


「ぬう……アシルを襲った兵というのは」

「お城の兵隊さんじゃなかったです。みんなばらばらの格好をして、山の方へ行っちゃいました。ええと、二十五人くらいいました。馬に乗った人は、四人くらい」

「合致する傭兵団はいるか!?」

「『夕暮れ(ガーク)団』が、人数が合っています。素行は悪いとの評価が」

「すぐに所在を確認せよ。捕らえるための兵を出す、そのまま山の警備にもつかせる。一個大隊を出せ。そのような不逞(ふてい)()()()にうろつかれては、集まった兵士たちが役に立たなくなる。皆殺しにして、他の傭兵どもに対する見せしめとする」


 どうやら、アシル、イルディンの仇は取れるだろう。

 カルナリアは二人の冥福をあらためて祈った。


「そのような幼い身の奴隷でありながら、恐ろしいことに遭遇しながら逃げもせず、よくぞ手紙を届けてくれた。その心がけ、実にあっぱれである。ほうびを取らせる。望むものがあれば言え」

「…………」


(……あら? この状況って……)


 つい、奴隷として振る舞い続けてきたが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そうすればすぐにタランドン侯爵のところへ送り届けてくれるだろう。

 フィンにしても、今なら、自分を守ってくれた功労者ということで一緒に連れていってくれるのでは。


「……それでは、ひとつ、お願いがございます」


 カルナリアは口調をあらため、姿勢も奴隷っぽいかがんだものから、背筋を伸ばした堂々としたものに変えた。


 騎士団長はじめ場の面々がぎょっとする。

 ワグル村でもそうだったが、これは、かなり気持ちがいい。


「その手紙に書いてあると思いますが、山を越えてノーゼラン領より逃れてきた貴族というのは、()()()()とその護衛です。タランドン侯爵家の庇護をお願いいたしたく存じます」


「な…………!」


 全員が絶句し目をむいた。


「お前……いえ、()()()の名を……うかがっても、よろしいか?」


 騎士団長が――彼は第五位だが、相手がそれより上の可能性を考えて言葉を選んだ様が痛快だ。


 カルナリアはフードを取り、額と右面を指で示した。


「追っ手をごまかすために()()()()()醜く偽装いたしておりますが」


(おでこのこぶは違うのですけれどね)


「わたくしは、カルナリア・セプタル・フォウ・レム・カランタラ」


 その名乗りは、雷鳴となって大人たちを打ち据えた。


 カラント王家の姓であるカランタラ。

 王位継承権を示すレムの称。

 すなわち国王の第七子、第四王女。


 このタランドン領の領主たる侯爵の位階、第三位よりさらに上の、この国の最上位、第一位貴族。


「失礼いたしました!」


 騎士団長たちが即座に膝をつき礼をとる。

 その際に秘書官の手から名簿が転がり落ちる。


 カルナリアは、騎士ネレイドがフィンを疑った時のことを思いだし、疑念を抱かれないようにエリーレアの身分証を差し出した。


「これを。途中で命を落としてしまいましたが、わたくしに従ってくれた侍女のものです」


 第四位貴族の身分証を見た騎士団長の目から、完全に疑念が消えた。


「い、いかにして……王女殿下が……このような……」


「親衛騎士たちがわたくしを王宮より逃し、自分たちは西へ走り追っ手の目を引きつけ、わたくしはわずかな従者のみで別方向へ逃れました。到る所で貴族狩りが発生していたため、わたくしは()()()()()姿に偽装し、平民たちの目を逃れてノーゼラン領まで入りこみました。街道は封鎖されていたために山を越える道を探し、きわめて険しいところをどうにか乗り越えて、先ほど下山し、ワグル村に入り、たまたま訪れていた騎士ネレイドの知己(ちき)を得て、ようやくこちらに参った次第です」


 王女を奴隷の格好に「させた」ということで非難の口実を与えてはならないので、すべて自分がやらせたという言い方にするのは、発言ひとつが容易に他者の運命を変える王族の必須教養だ。


「それは……何という……おいたわしや……」


「先触れとして派遣した騎士ネレイドの従士が、傭兵どもに殺されていたのは事実です。護衛の者が守ってくれて切り抜けた後で、倒れていたその者を見つけ、手紙を受け取りました。最後まで任務を果たそうとした彼のことを責めないでやってくださいね」


「ははっ! すぐに我が主にお伝えいたします! 王女殿下におかれましては、ただちにお召し替えを!」


「いえ、その前に、外にいるわたくしの護衛を呼んでおきたいと思います。きわめて用心深く、使いの者だけを差し向けても信じてはくれず、わたくしが捕らえられたと勘違いして暴れ出しかねません。そういう人物だからこそ、ここまでわたくしを守り通すことができたのです。わたくしがこの顔この姿のまま出向き、連れてくるしかありません。偽装を解くのはその後で。――熱い湯を用意しておいてくださいまし」


 騎士団長は怪訝(けげん)そうだったが――。


「腕の立つ、とても美しい女剣士なのです。用心深さはそのせいもあります」


 カルナリアが告げると大いに納得した。


 男性はなんだか汚いなとカルナリアはちらりと思った。




 物々しく見えないように、騎士団長の従士を二人、平服でつけてもらい、その者たちを引き連れて城門へ。


 ワグル村では天頂にあった太陽が、かなり西側に傾いている。

 だがここは山がないので、まだまだ日照は続くだろう。


「…………?」


 城門の外で、わいわいと騒ぐ声がしていた。

 馬をつないでいたあの木のところに、兵士たちが集まっている。


(からまれてる!?)


 近づくと、兵士たちはカルナリアの背後の二人を見て直立不動になった。


 彼らが事情を聞き、伝えてくれる。


「……鞍を乗せた(から)馬がおり、近づいた兵士が、蹴られたわけでもないのに倒れ、それが二人続いたので、大勢で出たところ、馬が逃げ出し――怪我人の介抱と、周囲の探索に人を出すかどうかを検討していたところだったようです」


(兵隊さんたちに、あのひとは見えないけど馬は見えるから……馬を取られまいとして叩いて倒した……大勢出てきたので逃げてしまった……)


 事情は容易に想像できた。


 となると、問題は、フィンがどこへ行ってしまったかということと――。


 この状況をどう考えるだろうということだ。


(あのひとは、わたくしが王女だとは知らず、追っ手も自分を狙っていると勘違いしていて……わたくしを、自分の所有物と思っていますから……)


 兵士に取り囲まれ、役人らしい者に連れられている自分を遠くから見て。


(捕らえられていると思って……取り返しに来る!?)


 それでは、戦いになってしまう。


 早々にフィンを見つけ、自分が話して、城で世話になれば楽ができますよと説得しなければ。

 さもなければこのままお別れだ。

 騎士団長が護衛して王女をタランドン侯爵の元へ連れて行くだろう。流浪の剣士を近づけることなどあるまい。


(それは、とても……とても困ります! あんなに()()してもらったのに、わたくしがひどい恩知らずということになってしまうではありませんか!)


 カルナリアは周囲に目をこらした。


 外に出てきた自分の姿を、どこかで見ているだろう。


 カルナリアが城へ戻っては、「自分のもの」を取り返すことができない。

 忍びこむだけなら簡単だろうが、王女として(ぐう)されている自分をかかえて逃れることは無理だ。認識阻害は、閉ざされた城門をすり抜けられるわけではない。『流星』は目立ちすぎてその後ずっと追われ続ける。


 となると、この機会を逃さず、近づいてきている可能性が高い。


(……一切気づかず、どこかで()()()()いるかもしれませんが……)


 そんなふざけた真似をされた場合、どうしてくれようか。

 王女としての立場を取り戻した後、使える限りの権力を駆使して、剣聖と呼ばれる女剣士フィン・シャンドレンを捕まえ、二度と姿を隠すことができないように…………二度と自分から離れることができないように……。


(……もしかして、あのひとを追っている者たちって、こういう理由で……!?)


 いや、自分は女だからと否定した。

 魅了された男たちが自分の妻にしようと追いかけるのとは違う。これはそういう色恋沙汰の問題ではない。()()()()


「…………あれは?」


 城に近づいてくる騎馬の一団があった。

 一、二、三…………七騎。

 みなマントを身に巻きつけフードをかぶっている。女性や子供らしい者が混じっているのが遠目にもわかる。

 疾駆とまではいかないが、かなりの速度で馬を走らせていた。


「傭兵でしょう。普段はバルカニアとの国境城塞付近にいるのですが、戦が起きているということで、こちら側へ毎日のようにやってきます。家族かもしれません。そういう者たちもいるのです」


 一家で傭兵をやっているということか。世の中には色々な者がいる。


 それにしてもあれは、いかにもフィンがまぎれこみそうな一団で――後ろにくっついていたりしないかカルナリアは凝視した。


「!!!」


 総毛立った。


 その七騎、全員が――。


 馬に乗っているにしては、存在が希薄だった。


 馬がいるからわかるが、一度目を離すと、馬に人がまたがっていると確信が持てなくなる。


 そういうものを、カルナリアは()()知っていた。


()()()()()()……!)


 そして、馬上の七人、すべてが――子供らしい小柄な姿まで――。


 とてつもなく「悪い色」をしていた。


 フィンのようにすべて隠しているわけではなく、フードの中の顔はそれぞれ見えている。

 だから「見」えた。


 七人、それぞれ様々な、まばゆいほどの才能持ち――そして「悪い色」。


 その「色」と才能の輝きに、カルナリアは見覚えがあった。


 七騎の中に、ひどく姿勢の悪い――猫背の者がいた。


(ローツ村の……ランダル村長と話していた……彼を引き倒して、縛り上げた、犬を連れた悪い人たちの長……!)


 カルナリアは反射的に、樹木の陰に飛びこんだ。


「あれは敵です!」


 告げた声が聞こえたかのように、七騎の中から一騎、飛び出してきた。


 猫背の者ではない、小柄な――子供。


 馬に猛烈に鞭をくれ、突っこんでくる。


「止まれ!」


 兵士たちが槍を構えた。


 騎馬を止めるための、穂先をそろえた槍衾(やりぶすま)


 馬は構わず突進してきて、そのまま槍に貫かれた。


 馬上の人影が飛んだ。

 馬を捨てて、兵士たちの頭上を飛び越えて。


「死ね、貴族!」


 子供の、甲高い声と共に銀光がほとばしって。


 騎士団長の従士たち、二人の首が、まとめて飛んだ。




ついに追いつかれた。しかも七人。恐るべき敵の出現。次回、第43話「追う者たち」。残酷な描写あり。視点変更あり。

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