38 奴隷のお仕事
「誰だ!」
「おい、奴隷だぞ!」
むさ苦しい、年のいった男たちが、友好的な雰囲気のかけらもなく迫ってくる様に、カルナリアは恐れおののいた。
これまであらゆる場で常に敬われてきた王女は、自分を敬わず、重視せず、ひとかけらの価値も認めない相手というものに、慣れることがまだできていない。
だが、その反応が、結果的には良かったのだろう。
「娘っ子がひとりか。ひとりだけか!? 主人は!?」
おびえて立ちつくす少女に対して男たちの警戒心は薄れ、柵のすぐ向こうに来た時には、カルナリアではなくその背後を警戒するようになっていた。
「……それ、どうした」
とはいえ当然ながら、ぶら下げている熊の掌は、ひどく注目される。
「ええと、その、ご主人さまが、途中で……」
「あれか」
村人たちは空を舞う鳥たちを見上げ、素早く理解した様子。
「熊を狩ったのか。何人で越えてきた!?」
「え、ええと、その、あの……」
頭を猛烈に回転させる。
何の指示もなかったが、これまで言われたことを思いだし、禁忌事項に触れないようにする。
フィン・シャンドレンという名前を言ってはいけない。
知っている相手がいた場合、とてつもなく面倒なことになるから。
女剣士がひとりだけ、と伝えるのもまずいだろう。
侮られるならまだましで、襲ってくる可能性すらある。あのランケンたちのように。
「わたしは、この村の、村長さまにだけ、お話するように、言われました。村長さまに、会わせてください」
結論。頭が弱く、主人に言われたことをそのままやることしかできない奴隷の子、という態度を取るのが一番よさそう。
前に、レントにもそうするように言われたことがあったのを思い出す。
「どうする?」
「騎士様の言ってたのが、本当だってことじゃねえか?」
「逃げてきたやつらか?」
「じゃあ、山の向こうはもう……?」
「おい、主人はどこだ!? お前のご主人様は!?」
「ひゃっ、あっ、あのっ、村長さまにっ! 他の人はっ、だめですっ! そう言われてますっ!」
「仕方ねえな。よし、娘っ子、お前だけなら通っていいぞ」
「せーのっ!」
左右、四人がかりで柵の『扉』を持ち上げる。
「ほら、来い!」
地面から杭のかたまりが持ち上がってできた隙間を、カルナリアはくぐった。
背後で重たい音と共に柵が下ろされた。
「……すげえな」
男たちは、熊の掌にしげしげと見入った。
「でけえ」
「これ……ミガルがやられたやつじゃねえか?」
「ヌシか? だけどよ……まさか……」
「おいお前、この熊、どんなのだった!?」
「す、すごく、大きかったです……」
「そらそうだろ! でもまあ、仕方ねえか」
「あいつを狩れるような連中が来てやがるってことだろ!? まずくねえか!?」
「おい。この娘っ子、ケラスんとこ連れてって、騎士様の指示もらってくれ。他は待機、ここを固める。いきなり飛び道具来るかもしれん、身をさらすなよ」
指示を出している最も年配の者には、なかなかの武の「色」が見えた。
何ひとつ見えない相手と一昼夜を共に過ごした後なので、「色」が見えることに感動すらおぼえた。
老齢の男たちは、それぞれ木や岩などの遮蔽物に身を隠しつつ、そこの警備につく。
兵士たちの接近に慌てふためいていたローツ村の住民たちとは動きがまるで違っていた。
これが、王国内の独立軍事国家と言ってもいい特殊な立ち位置にある、タランドン領の領民。
……警戒すべき対象がとっくに柵の中に入ってきている、と伝えたらどういう反応をするだろう。
ちなみに男たちの斜め後ろに、枯れ草の束のように立っている。
「ついてきな」
白いものがかなり混じった髪をした初老の男に言われた。
焦っているのか、かなりの早足で、カルナリアは小走りでないとついていけなかった。
ちょっと下ると、左右は山の木々ではなく、規則正しく同じ種類の木が生えた、人の手による場所となっていた。
何の木なのかはわからない。
さらに下ってそこを抜けると、村そのものの中に踏みこんでいた。
上から見た通り、屋根が鋭角で前後に長い家々が点在する、山の中の農村である。
ローツ村よりは戸数が少なく、畑も少なく、貧しい感じがしてしまう。
だが、雰囲気が鋭かった。
ローツ村の、子供たちが駆け回っていたり、ランケンと取り巻きがうろうろしているような――それが許される気配が、ない。
「お前、名前は」
「あっ、はい……ルナ、です」
「ルナか。それ、重くねえか」
「重いです。でも、一番えらい人に見せろ、他の人にはだめだって、ご主人さまから言われてます」
……粗野な平民と王女の自分が、立場を逆にして会話している、ということにいくらかの面白みをおぼえつつも、失言しないよう強く警戒してカルナリアは言葉をつむいだ。
フィンは――ついてきていると思うのだが、どうだろう。
見回すのは不自然だ。見つけてしまったらさらにまずい。
「ほれ、あそこだ」
村をある程度見回せる、少し高くなっているところに、村長の家だろう塀に囲まれた大きな家があった。
その門前には広場。
広場に面して大きめの建物がいくつか。住居ではなく集会場や取引場などだろう。
ローツ村と大体同じ。
村の立地や戸数が違っても、基本的な配置はあまり変わらないものらしい。
ローツ村と違っていたのは、その広場に、武装した若者たちが二十人ほど、整然と並んでいたことだ。
同じ長さの槍を持つ者、弓を持つ者。そろいの防具を身につけ背負い袋もしっかり背負って、気合いをみなぎらせて立っている。
周囲を家族らしい老若男女が取り巻いている。
居並ぶ若者たちの前には、磨き上げられた甲冑を身につけた、しっかりした体格の騎士が立って、腕を振り上げながら何やら語っていた。
明らかに、戦乱を前に、兵を徴集しに来た騎士と、徴集に積極的に応じた若者たちの、出征直前の光景だった。
柵のところに駆けつけてきたのが年長者ばかりだった理由もわかった。
「おい、ケラス」
初老の男は、騎士の斜め後ろに立つ、立ち位置と服装から見て村長だろう男に声をかけた。
「どうした、叔父さ――っ!」
村長は、カルナリアと熊の掌を見てぎょっとした。
初老の男は村長の叔父のようだ。だから呼び捨て。
ということは、柵のところで指示を出していた老人は村長の父親かもしれない。
「山から人が来た。ケラスにだけ事情を告げたいってことだが、キトン様にも聞いてもらう必要がありそうだ」
「山から!? ……わかった」
村長はすぐに騎士に耳打ちする。
その間に、カルナリアにその場の全員の視線が集中してきた。
圧迫感。
王女に拝謁できた光栄に目を潤ませる者たちならともかく、ぶしつけきわまりない、ジロジロと、探るような、にらむような、大勢の庶民の凝視を浴びるなど経験がない。
いちおう、先にローツ村で同じ目に遭ってはいる。
だがあの時は、心が死んでいたので何も感じなかった。
今はもう、どこぞの謎の人物のせいで、復活してしまっている。
もちろん、王女として振る舞うなら、そんなものは平然と受け流し、悠々かつ優雅に歩を運び、笑顔を振りまくことは簡単だが。
ここは、身を縮めて、おどおどと振る舞った。
多分うまくやれているだろう。
そのついでに、フードの隙間から周囲をうかがう。
いた。
ぼろぼろが――集う村人たちの、背後を静かに移動している。
さすがに、ほぼ全員に見られるカルナリアの傍らに立つ、というようなことはやらないようだ。集まっている中には子供もいる。
居場所を確認するだけで、見つめはしないように気をつけた。
村長から話を聞いた騎士が近づいてきた。
甲冑の音が接近し、止まり、熊の掌を見下ろされる。
「む。なるほど。……みな、休め! この場で少し待つように!」
騎士はきびすを返し、背後の村長の家に向かった。
下働きの老人が門を開く。
「ひゃっ!!」
いきなり吠えられた。
犬が二頭いた。
カルナリアに猛然と吠えかかる。熊の掌を持っているせいだろう。
「よしよし、よーし、よし、落ちつけ、大丈夫だ、あれはもう死んでいるぞ」
村長の叔父が急いでなだめた。
「悪いが、ちょっと来てくれ」
呼ばれたのでおずおずと近づくと、ものすごい勢いで吠え続けていた犬が、一声情けない声をあげてから、ごろりと腹を見せた。
もう一匹もすぐ同じようになった。
強すぎる熊のにおいに屈服したようだ。
「だらしねえが……猟犬じゃねえから仕方ねえなあ。ありがとよ。もういいぞ」
「あ、はい…………っ!」
悲鳴をかろうじてこらえる。
フィンが、一同に続いて門の中に入りこんできていた。
犬を封じることができたので好機と見たのだろう。
誰にも気づかれずにするすると母屋に近づいて、扉の傍らで動かなくなる。
(あれが刺客や盗賊だったら)
カルナリアは認識阻害魔法の威力と脅威をあらためて認識した。
村長が母屋の扉を開け、家の中に声をかけてから騎士とその従士たちを先に入らせる。
みな、すぐ横にいる円錐形のぼろ布にはまったく気づかない。
カルナリアは、少しだけ足踏みして、ためらってみせた。
「奴隷でも構わんよ。お前さんも、入りな」
「は、はい…………失礼します…………」
ためらっている間にできたその隙に、フィンが屋内へ滑りこんでいった。
無言、無音だが、ほめられたような気がした。
――家の中は、ローツ村のランダルの家と、広さも調度品も大差ない。
カルナリアからすれば粗末な小屋にすぎないが、この村では一番いい家で、憧れの暮らしですらあるだろう。
はっきりランダルの家と違うのは、壁の高い所にタランドン領の領旗と侯爵家の紋章が飾られていること。
「さて」
騎士がその領旗を背負う位置にある上席につき、三人の従士がその左右に控え、立ったままのカルナリアと向かい合った。
村長は横の椅子にかけ、叔父は村長とカルナリアの間に立つ。
必要ならカルナリアの面倒を見てくれるつもりのようで、その心遣いはありがたかった。
そして――カルナリア以外存在を認識できない人物が、カルナリアの背後の壁際にいる。
「ここはワグル村。そちらが村長のケラス。私は騎士ネレイド。ドルー郡主、ディライル・ファスタル・タランドン殿に仕える七位貴族、ネレイド・フォウサル・キトンだ」
ローツ村のランダルと同じ、最下級貴族である。
だがこの場では唯一の貴族。最も高位の人物。
カルナリアの見たところ、割と年配だが悪い人物ではない。武の才能は騎士としては平均的、つまり平民兵士よりは強く、その上で算術の色が強く見える。数字に長けた、後方担当としてはかなり優秀な人材だ。
村長は貴族には任命されておらず、貴族の館への出入りを許される平民、いわゆる上民という身分なのだろう。飛び抜けたものは特に見えない、きわめて無難な人物だ。
「娘。名を名乗ることを許す」
騎士ネレイドが言った。居丈高だが奴隷相手だから当然のこと。
「ルナ、と申します」
歩いてくる間に考えた結果、ここは態度を変えることにした。
騎士ネレイドに礼をする仕草を、丁寧に。
「主の名を申し上げる前に、失礼ではございますが、事の次第を先に語らせていただきたく存じます」
柵のところでの態度との違いに、村長の叔父が驚いている。
逆に騎士ネレイドは眉間を寄せた。
狙い通り、ただ者ではないと思ってくれたようだ。
「私とご主人さまは、山向こうのノーゼラン領より参りました。ノーゼラン侯爵さまは今なお城にて抵抗を続けておられるとのことですが、私どもが通過したビルヴァの街は、すでに反逆者ガルディスの軍勢に占領されており、郡主さまと町長さまが見せしめに……ひどい有様でさらされておりました」
場の全員がうなり声をあげた。
「ご主人さまは、追われております。山を越える隠し道を、忠誠ある者より教えられて進んで参りましたが、追っ手はそちらにも踏みこんできました。山の向こう側、大きな崖の下のところに兵士たちが群がっているのを、この目で見ております」
「まずいな」
「はい」
騎士ネレイドとケラス村長が険しい顔で言い交わす。
「ご助力をいただきたいのですが、この村がどういう状況かわからないので、ご主人様はまず私を遣わしました。この熊のものは、ご助力をお願いするための手土産とお考えください」
カルナリアは熊の掌を両手で持ち上げ、差し出した。
叔父が受け取り、感触や手首の切り口に見入ってから、かたわらのテーブルに置く。
「……すげえ」
礼儀を忘れて漏らしたのは、まぎれもなく本音だろう。
「先ほど討ち果たしたものです。多くは運べませんでした。ご主人様は、残したものの権利を村に譲るとおおせです」
「叔父上!」
「おう!」
村長が即座に反応し、叔父が飛び出していった。
熊の、肉は美味くないそうだが村人の食料にはなるし、毛皮はいいものなら高く売れる。売れなくても防寒具、敷物などに利用できる。牙、爪、骨などもかなりの金になる。目の色を変えるのは当然だった。
だが騎士ネレイドは、目つきをますます鋭くした。
柵のところに来た男たちが言っていたように、大きな熊を狩ることのできる者たちがこの村のすぐ近くにいるということだからだ。
「事情は了解した。して、主のお名前は」
「……騎士様。その前にまず、醜いものをお目にかけることをお許しいただけますか」
「む…………許そう」
カルナリアは、背後の人物を信頼して、かぶっていたフードを外した。
(すぐ偽装と見抜かれたら、一生かけて馬鹿にしてやりますからね)
かぶせておいた前髪をかきわけ、顔面を見せつける。
「う……」
その場の全員が顔を引きつらせた。
鏡で見た時の自分とほぼ同じ反応。
それほどにひどい有様の、自分の顔。
「とある場所で、火事に巻きこまれ……このような面相となっております」
「……え」
騎士ネレイドが、騎士にあるまじき間の抜けた声を発する。
だが次の瞬間、すさまじく真剣な顔つきになった。
「火事………………まさか……?」
王宮が燃えた、ということは伝わっているのだろう。
耳にしているからこその今の反応。
だとすれば、カルナリアの目論見通り、何かを「予感」してくれたに違いない。
それにこの顔のかぶれは、ちゃんと火傷の痕と見えるらしい。
「近づくことをお許しいただけますか」
「……許そう」
「名は口にしないでいただきたいと、ご主人さまがおっしゃっておられましたので……」
カルナリアは、エリーレアの形見である身分証を差し出した。
(ごめんなさいね、エリー。使わせてもらいます)
フィンの名前を出すのは許されず、かといって主の名も告げずに村を通過させてくれと求めるのは無理すぎ、自分は王女なのですと名乗ったところでそれを証明する方法がここにはない……と色々考えた結果、こうすることにしたのだった。
これが主の名です、とはっきり言わないのが、忠実だったエリーレアの名を利用することへのせめてもの罪滅ぼし。
「…………!」
手の平で隠して他の者には見えないようにしたそれを見るなり、騎士ネレイドは顔色を変えた。
「よ、よろしいか」
奴隷の少女に対して敬語を使い、手を震わせて身分証を受け取る。
もちろん自分も手で隠して他の者には見えないようにしてくれる。
磨きあげられた小さな六角形の身分証。
表には大貴族の紋章。それだけでわかる者にはわかる。
手の平で包み隠しつつ、名前と身柄が刻んである裏面を確かめて、騎士ネレイドは蒼白になった。
エリーレア・センダル・ファウ・アルーラン。
このカラント王国の枢要を担う「十三侯家」のひとつ、アルーラン家の令嬢。
第四位貴族。
この七位の騎士ネレイドが、退役するまで忠実に勤め続けて、途中ですばらしい功績を上げる機会に恵まれて、それでようやく騎士人生の最後に六位に昇位を許されるかどうかだ。
六位になれたとしても、それではまだ、王宮に入ることは許されるが、内宮には入れない。
王女に謁見するにしても、内宮の最も外側の広間で、それ以上進んではならない線の手前でひざまずくだけである。
四位貴族はその線の向こう側の存在。
謁見どころか、国王その人と言葉をかわすことも許される、雲の上の者。
先ほど耳にしたネレイドの主は、貴族位階は口にしなかったものの、名乗り方からすると五位貴族、このような田舎だと六位の可能性も高い。
自らの主よりも位階の高い、四位の貴族令嬢たる「エリーレア」にどう対応するべきか。
「しっ、失礼いたしました!」
これが正解である。
椅子から飛び出し、床に膝をついて上位の貴族への礼をした。
この人物がきちんと教育されているという、何よりの証。
王宮が襲撃され国王が討たれ、王宮も炎上したという情報。
火傷を負った、相当に礼儀作法を教育されている少女が差し出す、高位貴族の令嬢の証。
これで、山を越えて逃げてきた者が、王宮から逃れてきた高位の貴族令嬢ではないと判断する方が無理な話である。
従士たちは、仰天したが、すぐ主にならった。
村長もまたあわてて従った。
「私はご主人様ではありません。お顔をお上げください」
そうは言ったものの、少し、いやかなりいい気分になったカルナリアである。
いつぞやのエリーレアをとがめられないと、反省もした。
「で、ではっ、主さまはっ、みなさま方は、今も山の中に!? いかん、すぐお迎えに上がります! ケラス、お休みいただく支度を!」
騎士ネレイドは、高位貴族の令嬢が屈強な護衛たちに伴われて山を越えてきたと思いこんだようだ。
新鮮な熊の一部と、山中に乱舞する猛禽を見れば、そう思うのは当然だろう。
いま、実はエリーレアはもっと尊い方を守っておられます、その方こそこのわたくし、第一位貴族、第四王女、カルナリア・セプタル・フォウ・レム・カランタラなのですと告げたらどうなるだろう。
……やってみたい誘惑は強いが、危険すぎた。
証明する方法がないのはもちろん、このような田舎では、疑われるどころか馬鹿にされていると受け止められ、捕らえられてしまう可能性がある。自分の見た目も、今はとても王女らしくない。
何よりも、背後の人物に自分の正体を知られることが、どういう結果につながるか。
このぐうたら者が、王女と知って、なおしっかりと護衛し続けてくれるだろうか。
(まだ、隠しておいた方がいいでしょうね……)
カルナリアはそう判断して、慌てる騎士ネレイドに言った。
「…………いえ、ご主人様は、一刻も早い侯爵閣下へのお目通りを願っております。この村の通過をお許しいただき、またドルーの街およびその先へ赴く便宜をはかっていただければと」
これはカルナリアの独断だった。
何もかも自分にやらせた怠惰なご主人さまへの、意趣返し。
山行の間はあんなにあれこれ命令してきたのに、ここで突然全部お前にまかせたと丸投げするなど、いくら奴隷と思っている相手にであっても、許されることではない。
いきなり平民の大人たちの相手をさせられ、慣れないことを必死に考え、緊張し続けたのだ。
仕返しさせてもらう。
この村でのんびりなどさせてやらない。
「それは……なるほど……いえ、当然でありましょう。わかりました、私にはこの村での任務がありますゆえ、我が従者をつけて案内させます。紹介状もただちに用意いたします」
「感謝する」
――突然、カルナリアではない女性の声が流れた。
「案内なしの入室を詫びる。この者の主である」
カツンと、床を靴で叩く高い音が鳴り、認識阻害が破れ。
室内に正体不明の塊が出現した。
どういうつもりか。楽するためなら何でもするこの人物は、なぜ自ら動いた。次回、第39話「美しさという武器」。最初は「美しさは罪」というタイトルだったがさすがに変更。わかる人にはわかるネタ。




