第八十五話 目覚め
気を失っていた翔鬼が目覚めた。
第八十五話 目覚め
翔鬼はゆっくりと目を開けた。
その気配に気づいた白狼が起き上がり、翔鬼の顔を覗き込む。
「やっと気が付いたか」
「また気を失っていたのか?」
「そうだ」
「八岐大蛇は?」
「見ていただろう? 石になって固まっている。 みんながあの洞窟の入り口を塞いで誰も入れないようにしたからもう安心だ」
翔鬼は起き上がって布団の上で胡坐をかいて、大きく息を吐く。
「終わったんだな······あっ! 今何時だ?」
翔鬼は八岐大蛇との戦いで携帯を壊すと困ると思って、白狼用の魂手箱に入れていた。
それを取り出して電源を入れる。
携帯の時間は[9:23]になっている。
「良かった、お母さんが戻るまでには充分時間があるな」
「みんなが待っている。 知らせてやれ」
「そうだな」『みんな、起きたぞ。 待たせたな』
『『『『『あ······』』』』』
また一斉に話しかけてくると思ったが『あ』で、終わった?
1拍置いて、ぬらりひょんが話しかけてきた。
『翔鬼殿、お目覚めですか。 体の調子はいかがですかな?』
『大丈夫だ。 心配かけたな』
『それはようございました』
『翔鬼殿、今、鬼達を向かわせている。 余の屋敷に来てくれ。 約束だからな』
堂刹だ。 戦いに行く前の約束を覚えていたんだ。
しかし鬼達を向かわせているとはどういうことだと思ったが······まぁいいか。
『わかった』
なぜか他の者達が話しをしてこない···と思ったら「翔鬼様ぁ!」と、敬之丞が部屋に入ってきて飛びついてきた。 続いて清宗坊と抗牟、後ろから悠然と宝蘭も部屋に入ってきた。
「お目覚めですか」
清宗坊の問いに翔鬼は敬之丞の頭を撫でながら頷いて口の端で笑って見せた。
今度は湯飲みを持った与作が入ってきた。
「翔鬼様、飲み物をどうぞ」
「ありがとう」と湯飲みを受け取り、飲み物を口に含む。
···いつもは金治がこうして飲み物を運んでくれていたのに···
ちょっと胸が痛んだ。
そう言えば誰かが足りない。
「······そういえば、白鈴は?」
「白鈴様は一時的に領地にお戻りです」
清宗坊が答えてくれた。
「領地?」
「東の国の西側が白虎様の領地だそうで、翔鬼様がお目覚めになり次第戻ると仰っていました」
「もしかして、白虎に戻れたのか?」
「はい。 石魂刀を八岐大蛇に刺した時、泥の前に噴出した物は、無理やりかき集めた【気】だったようです。
それで【神気】も取り戻せたと仰っていました。 同じく【妖気】も戻り、石にされた者達も元に戻ったそうです」
「凄いな、すべて元通りになったのか」
「ついでに言えば【生気】も戻ったので、枯れ木まで元に戻ったぞ」
敬之丞が胸から見上げながら教えてくれた。
「じゃぁ、森の枯れ木の道とかはなくなっているのか?」
「まだ新芽が生えてきた程度だから、意識して見ればわかるが、直ぐにわからくなるだろうな」
「石にされた者も戻ったのか。 俺の知らないところで石にされていた者も多いだろうと思っていたが、これで一安心だな」
「本当に良かったです」
滅多に笑わない清宗坊がにっこりと笑った。
「じゃあ、俺のアブラカダブラサッカーバドミントンは、無駄だったわけか」
「「「とんでもない!!」」」
みんなが声を上げるので、ちょっとビックリ。
狒々の姿をした抗牟が翔鬼の前に座り、見上げる。
「そんな事はありません翔鬼殿。 みんながどれだけ感謝しておりますことでしょう。
目の前で仲間が石にされた時の絶望感を考えると、感謝に堪えません。 私も、私の村の者達も」
「そ···そうか···よかった···」
あの苦労は無駄じゃなかったのが分かって、少しほっとした。
その時「お迎えが来られました」と呼びに来た。
立ち上がると翔斬刀が翔鬼の腰に巻き付いた。 石魂刀の鞘も付いたままだ。
◇◇◇◇
門のところに行くと風儀が待っていた。
「翔鬼様、皆様。 八岐大蛇を退治してくださってありがとうございます。 妖怪を代表してお礼を申し上げます」
風儀は深く頭を下げた。
「わざわざ迎えに来てくれたということは···?···」
「はい···外は大変な騒ぎでして···」
風儀は頭を掻く。
「俺はついさっきまで寝ていたのに···」
「まぁまぁ···俺達が護衛いたしますので安心してください。 どうぞ!」
結界を潜った途端「「わぁ~~!!」」「「きゃ~~!!」」と、すごい声援だ。
「実は······」と、清宗坊が話してくれた。
町に戻った時、抗牟の背中で気を失っている翔鬼を目にした町の住人達で、大騒ぎになったそうだ。
いくら大丈夫だと言っても大天狗邸の前から住人達が離れない。
そこで、翔鬼が目覚め次第、必ずみんなに知らせると約束したのだそうだ。
「「「ありがとうございます!!」」」と、あちらこちらから聞こえてくる。 あの時以上の盛り上がりだ。
以前、石になった者を戻した時は自分のせいだと思っていたし、戦いに行くときは「負ける可能性もあるのに」と思っていたので、どちらも素直に喜ぶことができなかった。
しかし今回は心から喜べる。
感謝を述べる者には頷き、手を振る者には手を振り返した。
みんながみんな笑顔で、人間から見ると恐ろしい妖怪がこんなに明るく幸せそうに笑っていることが少し不思議でとても嬉しい。
いつものように鬼神が指示し、鬼達が道を作る。
···あれ?···慶臥がいない···
チラッとそう思ったが、見えない場所にいるのだろうと思い、深く考えなかった。
◇◇◇◇
酒呑童子邸に入ると、堂刹とぬらりひょん、そして白鈴が待っていた。
「白鈴! 元に戻ったのじゃなかったのかよ」
「フフフ、まあね。 今はこの姿が気に入っているから猫娘でいるのよ。 ところでもういいの?」
「おう! 全快した」
「そんな所で立ち話をしていないで、中に入るぞ」
堂刹が追い立てるように中に案内した。
広い会場に通され、初めて来た時のように沢山の鬼達が既に座って待っている中を通っていく。
「「「うおぉぉぉぉ~~」」」
「「翔鬼様ぁ~~!」」
「「おめでとうございますぅ~~」」
「「ありがとうございましたぁ~~!!」」
いろんな言葉が飛び交う。
ズラリと八人衆と翔鬼が並んで席に着き、堂刹が立ち上がる。
「翔鬼殿が八岐大蛇を倒してくれ、妖界の脅威を取り除いてくれた! 僅かながら俺達八人衆も活躍した事も忘れるな!」
「「「ハハハハハ!」」」
鬼達から笑いが起きる。
「待たせたな!! 飲め!!食え!! 無礼講だ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉ~~~っ!!」」」」
みんな待ちわびたように飲み始めた。
次回が最終章になります( ;∀;)
最後までお楽しみいただけると幸いです
(*^_^*)




