第八十一話 強力な結界
幽鬼の攻撃は無駄だという事がわからないのか?
第八十一話 強力な結界
翔鬼は手を挙げた。
堂刹は【気】を練り、手元で黒い火花がバチバチと弾けている。 他の者達も【気】を集中して翔鬼の合図を待っている。
翔鬼が幽鬼に向かって手を振り下ろした途端、砲弾のような黒雷が飛んでいって幽鬼達の中で大爆発した。
宝蘭はバリバリと雷を、ぬらりひょんは爆炎を幽鬼達の中で爆発させ、他の者達も飛び道具で幽鬼達に集中攻撃する。
手前にいた妖怪達は一瞬にして蜘蛛の子を散らすように逃げていったのだった。
しかし幽鬼達も黙ってはいない。 一斉に攻撃に向かってくる。
妖怪達が逃げたのを確認してから第二弾の攻撃を加え、それを追うように翔鬼からはギンが飛び出し、翔鬼達も刀を抜き放って幽鬼の群れに向かって飛んでいった。
翔鬼は初めの頃、翔斬刀が戦う時は、自分の意識が邪魔にならないように体の力を抜いていたのだが、五本角になった頃には二人の意識が一つになっていた。
翔斬刀であるが翔鬼でもあり、どちらの意志でもなくシンクロしているのである。
鎌鼬の次男といえば妖界で一二を争う刀の使い手なのだが、それに五本角の身体能力と動体視力が備わり、凄まじい刀の使い手となっていた。
鬼神程度の強さの幽鬼は赤子の手を捻るより簡単だ。 一振りで4~5体の幽鬼を消さることができる。
他の者達の強さも飛躍的に高まった事を八岐大蛇は知っているのだろうか?
程なく幽鬼を全て排除し終わった。
「さぁ! 行くぞ」
八岐大蛇のいる場所へ向かう。 堂刹が知っていると言うので後に続いた。
てっきり富士山の頂上から火口に降りるのかと思っていたのだが、中腹辺りに大きな洞窟があり、そこの中を進んでいく。
富士の火口の奥底に広い洞窟があり、化け物はその中にいるという、
◇◇◇◇◇
しかし八岐大蛇がいるはずなのに、一向に気配がしない。
本当にここにいるのか?と思った時、洞窟の通路の先に何かが見えてきた。
それは、初めは只の岩かと思った。
しかし僅かに波打つように動いている。 よく見ると足の形をしていた。
八岐大蛇の地面に縫い付いているという巨大な足だった。
奥の広い場所に近づくにつれ、常識外れの太い胴体が見えてきて、クネクネ動く幾つもの首が動いている。
堂刹が言っていた通りの広い空間を半分以上も占めている八岐大蛇の全貌が見えてきた。
全長は30m以上はあるだろう。 思った以上に巨大だ。
八つの頭が翔鬼達を見ようと蠢く。
それぞれが色の違う目を持ち、それぞれの属性が見て取れる頭部をしていた。 それらが上に下に移動しながら翔鬼達を見ようとしている。
そう···八岐大蛇は強力な結界の中にいたのだ。
気配がなかったのではなく、強力な結界のせいで気配を感じる事が出来なかったのだ。 これだけの大きな妖怪の妖気を完全に抑える結界を張っているという事だけでも妖力の強さが計り知れる。
翔鬼はゴクリと生唾を飲んだ。
「バカな奴等がやってきた」
地の底から響いてくるような声が聞こえてきた。
「我等に勝てると思っているのか」
「それ以前に我等の結界を破れる訳がない」
「もう少ししたら結界を解いてやるから、そこでゆっくり休んでいけばいい」
「軍隊はないのか? お前達だけで我々に勝てると思っているのか?」
「勝てるのではないかという希望を持つという事はいい事だ」
「直ぐに思い知るだろうがな」
「おい、裏切り者がいるぞ」
口元から水を垂らしている青い目の頭が堂刹に向かって言い放つ。 しかし堂刹も負けていなかった。
「元々お前等に付いた事が無いのだから、裏切ったと言われる覚えもない!
それにお前等などは俺達だけで充分だ。 弱い妖怪の後ろに隠れているくせに、偉そうな事を言うな!」
堂刹が大声で答えた。
結界の手前に来た翔鬼は、八岐大蛇の大きさにこそ気圧されたが、恐怖はない。
それに、既に腹はくくってある。
「堂刹、ぬらりひょん、 やるぞ!」
「おう!」「承知!」
三人で八岐大蛇の防御結界に向かって両手を出す。
「三! 二! 一!」「「「結破っ!」」」
三人から見えない【気】が放たれ、結界を揺らす。 しかし破る事は出来ない。
「もう一度行くぞ!! 三! 二! 一!」「「「結破っ!」」」
しかし、結界が解ける気配がなかった。
「くそう! ここまで来て!!」
地団太を踏む翔鬼達を見て八岐大蛇の頭達が大笑いする。
「「「ハ~ッハハハッハハハハ!!」」」
「バカめ! お前らごときにこの結界が破れる訳が無いのだよ」
「だから言っただろう? もう少ししたら俺様が自ら解いてやるから、それまでゆっくりと休んでおけと。 ハハハッハハハ!」
八岐大蛇は実のところ、結界を破られるのではないかと内心穏やかではなかったのだが、出来ないと分かって胸を撫でおろしていた。
堂刹やぬらりひょんと一緒にしてもダメだった。 これ以上は何度しても【気】の無駄使いだろう。
···何とか結界を破る方法はないのか···
その時翔鬼は思い出した。
···俺の結界に穴を開けてギンが出てきた···俺の結界を破って攻撃してくる白狼の水攻撃···これなら可能かもしれない···
「白狼、結界に水で攻撃してみろ」
「わかった」
白狼は水の刃で結界を攻撃する。 しかし、ただ跳ね返されるばかりだった。
「ハハハハハ! 何をするのかと思えば水遊びか?」
「俺様も手伝ってやろうか? ハハハハハ!」
口から水を垂らした青い頭が嘲るように笑う。
「ダメか···じゃあ、角で刺してみろ」
白狼は少し離れて助走をつけて結界に突進した。 しかし角が結界に突き刺さることはなかった。
「ハ~~~ッハハハハハ! 角で刺せるなら、腰にぶら下がっている大層な刀で刺したほうがいいのではないか?」
「角で刺してくるとは、お笑いだな!! ハハハッハハハ!!」
八岐大蛇はヤジを飛ばして馬鹿にしているように見えるが、翔鬼達が何かする度に、不安そうな顔で覗き込んでいた。
「くそう! ダメか···そうだ白狼、少し配気してみるから、もう一度突き刺してみろ!」
「わかった」
翔鬼は白狼の角にある勾玉を触り、配気を試みる。 僅かに白狼の体が光ったように見えた。
「よし! 頼む」
白狼は八岐大蛇の防御結界に突進して、ドスッと角を突き立てると結界に食い込んだ。
「刺さった!! よし! 抜け!」
翔鬼が白狼が空けた小さな穴に手を当てて「結破!!」と唱えると、ブオン!と結界が震え始めた。 そしてシャボン玉がゆっくり弾けるように結界が消えていった。
「なんだとぉ~~っ!!」
「そんなバカなぁ~~っ!!」
「小癪なぁ!! 小癪なぁーーっ!!」
一斉に攻撃してくるので、翔鬼達は散らばって逃げた。
その攻撃の中で、毒を持つ紫頭が口からブオォ~!と煙を吐いてきた。 広い洞窟の中に薄い紫色の煙が充満してゆく。
それを見て敬之丞が叫ぶ。
『毒だ!! みんな息を止めろ、チビ達!!』
紫頭が毒を吐いてきたのだ。 ほぼ密閉されたこの空間では、逃げる場所もない。
それぞれに付いているチビチビ敬達が体の中で精製した解毒剤を、お尻の針からみんなの体に注入していった。
おかげで事無きを得ることができたのだった。
バカデカい八岐大蛇との直接対決が始まる!!
(;゜0゜)




