第八十話 八岐大蛇退治
大天狗邸を出ると驚いた!!
第八十話 八岐大蛇退治
「さぁ! 体も温まった事だし、そろそろ行こうか!」
門の方に行くと、八人衆と共に、大勢の使用人がズラリと並んでいた。
「うん?···こんなに使用人がいたのか?···あれ?」
よく見ると大天狗邸の使用人以外に、 百目の百汰や唐傘の甚平、それとろくろ首のお静さんまでいる。
そして、小鬼や小天狗だけでなく、見た事のない妖怪達がぬらりひょん邸の着物を着て並んでいた。
「彼等はぬらりひょんの使用人達なのか?」
「はい。 皆がどうしてもここまで来て見送りをしたいと言い張りましてのう···」
ぬらりひょんは長い頭を掻いた。
···ぬらりひょんも慕われているのだな···
全員揃った所で与作が代表して挨拶すると言う。
「私達は長い間、あの特殊な幽鬼に苦しめられてきました。 それも終わると思うとこの上なく幸せです。
ただ幽鬼を生み出している八岐大蛇は強大な妖怪だと聞き及んでおります。
万が一の事はないと信じておりますが、皆様の御無事のお戻りをお待ちしております」
「「「御武運を!!」」」
使用人たちが練習していたかのように声を合わせた。
···何だかコッパズカシイ···
「う···うん······行ってくる」
◇◇◇◇
門の結界ををくぐって表に出ると、これまた驚いた。
翔鬼達の姿を見るなり「「「わぁぁぁぁ~~っ!!」」」と、大歓声が起こったのだ。
そして、前回のように鬼達が門の外にズラリと並んでいて、今回もまた溢れるような野次馬の人員整理してくれている。
翔鬼達が出てきたのを見るなり風儀が寄ってきて、直立不動で話しかける。
「翔鬼殿! お頭! 皆様方! 俺達は信じています。 無事の御帰りをお待ちしております」
何だか畏まりすぎておかしい。
「うん、ありがとう」と風儀の肩をポンと叩くと「ありがとうございます!!」と御礼を言われた。
大天狗邸から出てきた慶臥も警護に混ざり、テキパキと鬼達を指示している。
堂刹が慶臥は仕事はちゃんと熟すと言っていた。 その通りに慶臥のキビキビとした指示がなかなか気持ちいい。
そんな慶臥を見て、心が傷んだ。
···八岐大蛇を倒した後、彼はどうなるのだろう···どうするのだろう···気になる···幸せになってほしい···
············
······しっかし···この野次馬······
「···なぁ、堂刹···俺達が出発する事を町中で宣伝したのか?」
「え?···あっ···いや···余達が留守にするので、その間の仕事を指示するためには化け物退治の話しをしない事には···すまん···」
しどろもどろになりながら、堂刹も頭を掻いた。
そうか。 よく考えると、堂刹の言い分は正しい。 堂刹もぬらりひょんも、この町の代表をしているのだから、仕方がない事だ。
···まぁいいか···
ちょっと挨拶のためにと思って野次馬達に向かって手を挙げると「「「キャァァァァ~~~!!」」」「「「わぁぁぁぁ~~~!!」」」と、大歓声が起こってしまった。
···おっと···アイドルってこんな感じなんだろうな···
周りからは「白狼様ぁ~」「宝蘭様ぁ~」などと八人衆を呼ぶ黄色い声援が飛んでくる。
もちろん翔鬼を呼ぶ声が一番多いのだが···
白狼は平然とした顔で我関せずと翔鬼の横を歩いているが、他の者達はちょっと嬉しそうだ。
お礼の言葉もあちらこちらから聞こえてきて、何とも照れ臭い。
···でも···八岐大蛇を倒してからにしてもらいたいな·········
翔鬼はもちろん負けるとは思っていないし、必ず勝つつもりでいるのだが、心から喜べないでいた。
◇◇◇◇
江の坂洞窟の前まで来た。
クレーターのようになっている所から飛んで降りていく。
翔鬼が一瞬止まって後ろを見上げると、崖一面に妖怪達が並んでいた。
鬼神達がその妖怪達の上に浮かんでこちらを見ている。
翔鬼はその中の慶臥に向かって頷くと、慶臥は空中で深くおじぎをした。
そのあと、翔鬼は見送りに来てくれた多くの妖怪達もう一度見回してから、洞窟の中に向かって飛んでいった。
◇◇◇◇◇
富士山に向かって飛んで行く。
まだ朝の季節になっていない。 明るい月と星が辺りを照らしているが、東の空は僅かに白みかけていた。
富士山に近づくと案の定、裾野に幽鬼の黒い影が広がっている。
「性懲りもなく幽鬼をよこしてきたな」
「いくら幽鬼がいても、余達の敵では無いことが、あのバカ達には分からないのか?」
「おい! 翔鬼、よく見ろ······幽鬼以外の妖怪がいる」
数千はいそうな幽鬼の手前に数百の妖怪達が並んでいるのが見えた。
「慶臥が言ってい奴等だ···やっぱり嫌だな、あいつらを殺すのは」
「気にせず一気にやってしまおうぜ」と言う堂刹をぬらりひょんが待って下されと止める。
「慶臥殿も言っておったじゃろう。 好き好んで奴の手先になっている訳ではない者も多いと思うのじゃ。 何とか猶予をやる事は出来ませんかのう?」
ぬらりひょんは翔鬼の顔を見て、他の者の顔を見回した。 堂刹以外の者達も頷いている。
翔鬼は彼等を無駄に殺さずに済ますにはどうすればいいか思案する。
「俺に任せろ···何とかしてみよう」
翔鬼は喉に手を当てて、前にいる妖怪達に思念を送る。(五本角になって新たにできるようになった術だ。 目標の大勢の相手に一度に話しかける事ができる)
『俺は類稀な【気】を持つ鬼神、翔鬼だ。 俺達は八岐大蛇を倒しに来たのだが、出来る事ならお前達まで殺したくはない』
前にいる妖怪達にプレッシャーをかけるために、翔鬼の合図で全員の【気】を妖怪達に向かって放ってみせる。
かなり遠くなのだが、強大な気を感じたのか、一瞬妖怪達が揺らめいて見えた。
彼等の心を視ると、全員が怯えているのが分かる。
『恐ろしいほどの【気】だ···俺達など相手にもならない』
『俺達を殺さないと言われても、あの御方に知れれば殺される』
『何を言っているのだ? 今逃げ出した途端に幽鬼に石にされてしまう』
『助けてくれ···何とか逃げ出す術があれば···』
何とかして逃げ出す機会を与えてやる必要がある。 この方法で出来るかどうかは分からないが···
『よく聞け。 今からお前らの後ろにいる幽鬼達を攻撃する。 俺達と戦う意思のない者はその隙に逃げろ。
俺の噂は聞いているな。 もし幽鬼に石にされても、後で戻してやる。
二回目の攻撃までに、まだそこに残っている者は容赦なく幽鬼諸共殺す。
今すぐ俺達に殺されるか、俺達が八岐大蛇を倒す事に掛けるか。 好きな方を選べ」
翔鬼は遠くに群れている妖怪達をゆっくりと見回す。 その中には金治の気配があった。
「行くぞ!」
とうとう戦いの火蓋が切られた!!
(|| ゜Д゜)




