第七十八話 珀の意村
魂手箱は見つかるのでしょうか?
第七十八話 珀の意村
「お待ちいただいている間に食事でも召し上がってください」
その言葉を待っていたかのように膳が並べられていき、豪華な食事が並べられていった。
妖界とはなかなかグルメだ。
陸の食事は勿論だが、海の食事もなかなかのものだ。 刺身まである。 周りは魚だらけだから食材には苦労しなさそうだ。
···仲間のお魚を殺して殺人罪とかにはならないのかな···
翔鬼はそんなつまらない事を考えていた。
食べ始めると何人もの魚人が翔鬼に酒を勧めに来る。 あの一回り大きな魚人が先頭で酒を差し出してきた。
「先ほどはありがとうございました。 オイラは律宜です。 お見知りおきを」
後ろからも次々に割り込んできて酒を勧めてきた。
「オラは掠尊です」
「オイラは浜仰です」
「オラの名前は······」「オイラは······」
···絶対覚えられない···
この後、八岐大蛇を倒しにいかないといけないのでと酒を断ると、今度は珍しい食べ物を次々に運んできてくれて、翔鬼の膳は食べ物でいっぱいになってしまった。
魚人族は皆同じ顔に見えて分からなかったのだが、後ろから割り込んできた者達は、どうやら翔鬼が海妖から助け出した者達らしい。
それにしても海の中だというのに八岐大蛇の事はみんなが知っていて、脅威に感じていると言う。
よく考えてみると、こうやって翔鬼も普通に海の中で過ごせるという事は、八岐大蛇が海の中まで進出しようと思えば問題なく攻撃してくる可能性があるという事だ。
それで魚人族の者達からも「必ず八岐大蛇を倒してください。 応援しています」と、何人にも励まされた。
◇◇◇◇
その時、敬之丞が思念通話で話しかけてきた。
『翔鬼様ぁ~~! どこにいるのですかぁ?』
『今、海の中だ』
『えぇぇぇぇぇ~~っ!! 俺も行きたかった!!』
『すまんな、急いでいたから』
『石魂刀は見つかったのですか?』
『残念ながらまだだ。 今、魚人族の町にお邪魔して食事を食べている。 お前らも飯を食べておけよ』
『えぇぇぇぇぇ~~っ!! 魚人族の町?! 俺も見てみたかった···』
『悪いな···もう少し待っていてくれ』
『·········わかった···』
ちょっと拗ねたっぽいが仕方がない。
『あ···清宗坊さんからの伝言だ『やはり金治の仕業のようでござります。 彼が魂手箱を運んでいるところを何人かに見られており申した』だってよ』
少し清宗坊の声音を真似ているのだか、似ていて可笑しい。
『そうか。 ありがとう』
その時、一人の魚人が魂手箱を運んできた。
しかし明らかに違っていたので、残念そうに再び運び出されていった。
「やっぱりあの場所に行った方が早そうだな」
「そのようでござりますな。 参りましょうか」
「そうね、魚人族の礼には十分応えた事だし行きましょう」
白狼も早々に立ち上がった。
魂手箱の軌跡がある場所に向かうと告げると、数人の魚人達を道案内に付けてくれた。
「またいつでもお越しください。 この[磯の碕町]の者は貴方方をいつでもお待ちしています」
魁皇はわざわざ立ち上がり、膝を付いて頭を下げる。
「ありがとうございます。 もし八岐大蛇を倒す事ができたなら、仲間を連れてお邪魔してもよろしいでしょうか?」」
そう答えたのは翔鬼だ。 ぬらりひょんは勿論白鈴と白狼まで驚いた顔で翔鬼を見た。
「勿論でございます! 必ずお越しください。 楽しみにしてお待ちしております」
「ありがとうございます。 必ず······」
翔鬼は手を出して魁皇と握手をした。 その様子を三人は驚いた顔で見ている。
『···なんだよ』
『貴方···敬語を知っているの?』
『当たり前だろ?』
『てっきり知らないのかと思っていたわ』
『ほっとけ!』
町を出て魚人族に会った所まできた。 もちろんそう簡単に軌跡が見つかるわけがない。
目に【気】を入れて探す。 この辺りを転がっていった線があったはずだ。
そうだここを海妖が岩壁ごと削り取った場所だ。 糸と違って揺れたり障害物で切れたりしないはずだ。
顔を近づけて探していると、目の前をフワリと線が横切っているのを見つけた。
「あった!!」
翔鬼は海底に向かっている線についていく。
間もなく海底に着いたが魂手箱はない。 今度は海底に沿って横に行き、そのうち洞窟の結界内に入った。
「ここは珀の意村と呼ばれる貧しい小さな村です」
律宜が説明してくれる。
···律宜だけ名前を覚えた···
線に沿って行くと、一軒の家の中に線が伸びている。
「翔鬼様この家ですか?」
「そのようだ」
律宜がドアを叩くと、貧しい身なりの魚人が出てきた。
翔鬼達を見て、ビクッとしてから慌てて扉を閉めようとするのを律宜が銛の先を差し込んで扉を閉まらないようにした。
「聞きたいことがあるんだが···」
「何も知りません!」
無理やり扉を閉めようとするが、律宜が押さえているので閉まらない。 後ろから翔鬼が話しかける。
「君は魂手箱を拾っただろう? これくらいの箱だ」
手を四角い形に動かしてサイズを示す。
「実はその中に俺が欲しい物が入っているんだ。 しかしその箱は俺にしか開けられない。 君には絶対に開ける事が出来ないんだ。
そこで提案なんだが、俺の欲しい物だけ貰えれば、他に入っている物もその箱も君にあげる」
その魚人は扉を閉めようとするのを辞めて、翔鬼を見上げた。
「俺が入れた物を出してしまえば、もし君が次に何かを入れれば、君以外の者には開ける事は出来なくなる。 もちろん俺でも開けられない。
そのまま君が使うのもよし。 どこかで売っ払うのもよし。 好きにしてくれていい。 お願いだ。 必要な物だけを出させてくれないか?」
魚人はどうするべきか悩むように翔鬼と律宜を見比べている。
「この御方は決してウソは仰らない。 信じていいぞ」
律宜が優しく説得した。 すると魚人はゆっくりと扉を開いて出てきた。
「本当でしょうか?」
「もちろんだ」
魚人はもう一度律宜を見る。 そして律宜が頷いたのを見て扉を大きく開いた。
「こちらです」
一間だけの小さな家だ。 奥にある収納庫のような小さな扉の中から魂手箱を出して、翔鬼の前に置いた。
「申し訳ありませんでした」
「うん···ありがとう」
翔鬼は魂手箱を開けて石魂刀を取り出し、腰に近付けると翔斬刀が腰ひもを伸ばしてきて固定された。
魚人達はそれを見て驚いている。
そして携帯電話をポケットに入れた。
あと中に残っている慶臥に貰った酒の入った瓢箪を出し、肉味の飴と、少しの小銭を前に並べた。
「これらは好きに使ってくれていい。 酒は美味いし、この飴も凄く美味いんだ。
そしてこれは人間のお金という物でここではどれだけの価値があるのか俺には分からないが、売るなりなんなりと好きにしてくれていい」
「お金」という言葉に動揺が走った。
「お金ですか?!···凄い御宝です。 本当に頂いてもよろしいので?」
「もちろんだ。 これをありがとう」
翔鬼は石魂刀をポンポンと叩いた。
「ありがとうございます! ありがとうございます」
その魚人は去っていく翔鬼達にいつまでも頭を下げていた。
◇◇◇◇
律宜達と別れる時が来た。
別れは寂しいが、随分時間を食ってしまった。 そろそろ八岐大蛇退治に行かないと、奴が地面から離れてしまう。
「八岐大蛇を退治したら、他の仲間を連れて遊びにくるから、その時はよろしく」
「勿論です。 町を挙げて歓迎致します。
皆様、御武運を···」
翔鬼は頷いてから他の三人に目で合図を送る。
「じゃあな!」
そう言って、上に向かって飛び、陸を目指した。
やっと帰ることができますね(*^_^*)




