第七十七話 磯の碕町
海妖が襲ってきた!!
第七十七話 磯の碕町
ふと横を見ると巨大な口を開けた海妖が既に目の前に迫っていた。
以前、北海道に行く時に襲われた巨大な鯨のような妖怪と同じ奴だ。
(回想シーン)
翔鬼達は慌てて岩壁と反対側に逃げたが、数人の魚人は岩場の陰に隠れている。 しかし海妖はゴゴゴゴゴバキバキバキ!!と、岩壁ごと逃げ惑う魚人達を飲み込んでいったのだ。
翔鬼達は反射的に踵を返し、刀を抜いて海妖に向かって行く。
海妖の動きは思った以上に速い。 餓者髑髏を思い出す。
それにいくら斬っても一向に刃が立たない。 喉の柔らかそうな場所を狙ってみるが、それでもまるで斬ることができないのだ。
「ぬらりひょん! こいつ斬れないぞ! どうすればいい!!」
「わしにも分かりませぬ」
『知識の本!! どうすればいい?! 数人の魚人が食われた! 早く倒さないと!!』
《申し訳ありません。 海の妖怪に関しては殆ど知識がなく···》
「くそう!!」
四人であちらこちらから攻撃するが、海妖にダメージを与える事が出来ない。
素早い動きの海妖を見ていると、どうも頭の上側に行かれるのを嫌がっているように見える。 少し離れてみると、頭の上に、ほんのりと光っている場所が見える。
『みんな! 頭の上に光っているところがあるのが見えるか?』
『どこ? 見えないわ?』
『私には見えないぞ』
『わしにも見えませぬが···あ···翔鬼殿、そこを突いてみて下され!!』
『わかった!』
頭の上に行こうとするが、素早い動きで口を持ってくるか、体を捻って喉側を見せる。
海妖が頭側に行かれるのを嫌がっているのが分かる。
「それなら!」
正面から口の上に飛ぶと、思った通り口を開けてきた。 翔鬼はその口先を思いっきり下に向けてドガッ!!と殴る。 思わず下を向いた海妖の頭の上に飛び、光の上に辿り着けた。
「伸びろ!!」
翔斬刀を出来る限り長く伸ばして額にある僅かに光る場所にズドン!と突き刺した。
5m程も伸びた刀の柄までググっと深く入れ込む。
ギュオォォォォォォォ~~~!!
海妖は鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大きな雄叫びを上げた。 すると全身がブワッと光り、そのまま小さな光の粒になってフワフワと浮かび上がっていく。
餓者髑髏と同じく、死んだ者の霊魂で出来ていたのだろう。
沢山の光が上に登っていった後には、岩壁と共に飲み込まれた魚人達が、その場に漂っていた。
「もしかすると、さっき光って見えた所は急所だったのか?」
「そのようじゃのう。 我々には見えませなんだ」
「わぁ。 新たな能力が開花したか?」
「凄いわね、翔鬼」
「流石翔鬼だな」
その時、魚人達が翔鬼達を取り囲んだ。 しかし先程のように銛をこちらに向けてはおらず、なにげに低姿勢に見える。
先ほど口を開きかけた一回り大きな魚人が口を開いた。
「ありがとうございます。 海妖を倒した妖怪を始めて見ました。 奴に会えば逃げるか隠れる以外に方法はないと思っていたのです。
我らの仲間を助けていただき本当にありがとうございました。 我々は受けた恩は必ずお返しいたします。
よろしければ我らの町に御越し下さい」
全員が頭を下げる。
『どうしよう···』
『お断りするのは礼に反すると思われます』
『そうか···仕方がないなぁ』
そう言いながらも翔鬼はとても楽しみだ。
海底の妖怪の町があるなんて想像もできなかったのにそこに招待されるなんて夢にも思わなかった。
どんな所か凄く楽しみで、石魂刀の事はすっかり忘れていたのだが······まぁいいか···
◇◇◇◇
少し離れた岩場に洞窟がある。 そこの中に入っていくと結界があった。
結界を潜った途端、なんと、水が無くなって地面を歩く事になるので、ちょっとコケそうになる。
···予め教えてほしかった···
下半身が魚の魚人はどうやって歩くのかと思ったら、結界に入ると下半身が普通の足になっているのだ。
···それでスカートみたいなのを履いていたのか···
翔鬼はつまらない事を納得して喜んでいた。
かなり大きな町だ。 江の坂町ほどではなさそうだが、起伏の激しい土地にエスニック風な建物がびっしりと建っている。
先を行く魚人がここは[磯の碕町]だと教えてくれた。
どうやら魚人の町のようだ。 女性っぽい魚人もいる。
たまに普通の人間がいると思ったら、人魚だそうだ。 人魚も魚人と同じく男性も女性も水の中に入ると下半身が魚になるそうだ。
そして男女共に恐ろしく美しい。
[魚人]が[鬼]、[人魚]が[鬼神]と同じような階級のようで、人魚の方が上級妖怪だという事をぬらりひょんが教えてくれた。
大きいお城のような建物の中に案内され、大きな扉の中には、これまた身長が3~4mほどありそうな、大きくて美しい男性が座っていた。
人魚のようだが、サイズから見て長とか王様とか、そんなところだろう。
中に入ると先程の一回り大きい魚人が「あの御方が魁皇様です」と、小声で教えてくれた。
魚人が大勢左右に並び、魁皇の左右には数人の人魚の男女が座っている部屋の中を進み、魁皇の前で止まった。
「魁皇様。 先ほど報告いたしました陸の妖怪の方々です。 そしてこちらが海妖を倒してくださった御方です」
翔鬼の方を指し示し紹介した。
「わしが···」と、翔鬼を制してぬらりひょんが一歩前に出る。
「私は陸の妖怪を統べるぬらりひょんでござりまする。 この御方は鬼神の翔鬼殿。
そして猫娘の白鈴殿と白翼狼の白狼殿でござりまする」
「御主様がぬらりひょん殿でございましたか。 お噂はお聞きしておりました。 翔鬼殿が海妖を倒してくださったとか」
「はい。 この御方は類稀な【気】を持つ御方です」
「なんと···」
魁皇は翔鬼をマジマジと見つめる。
···「類稀な【気】を持つ鬼神」って有名なのか···
「実は···御恥ずかしながら大切な物を盗まれたうえに、この海域に投げ込まれてしまいました。
それを探しに参りましたところ、こちらの方々と共に海妖に襲われてしまい、このような仕儀に至りました。
ご迷惑をおかけするつもりはなく、必要な物を見つけ次第、陸に戻るつもりに致しておりましたのです」
「御謙遜を。 こちらとしてもあの海妖を倒していただき、同胞を助けていただいた事は感謝に堪えません。
是非ともごゆるりと過ごしていただきたく思っております」
「お気持ちは有難いのですが、実はあまり時間がありませぬ。 急ぎ戻らないといけないもので···」
明らかに魁皇は落胆した様子だ。
「···分かりました、もしよろしければ大切な物とは何かを教えていただけましたらこちらでお探しいたしますが···」
『翔鬼殿、この町に魂手箱の気配はござりますかな?』
『·······ごめん。 町に入る時にはすっかり忘れていて線を見ていなかった。 あの場所に戻ってあの細い線を見つける事は出来るかな···』
『·········』
暫し呆れて翔鬼を見ていたぬらりひょんは魁皇を見上げる。
「落としたものは魂手箱でござります。 そう時間は経っておりませぬ。 新しく魂手箱を海底でみつけたなら、わしらの探しているものかもしれませぬ」
魁皇が魚人達に視線を送ると、数人が走っていった。
海の中の町に招待された( v^-゜)♪




