第七十六話 魂手箱の軌跡
魂手箱には追跡装置が付いている?!
第七十六話 魂手箱の軌跡
「う~~~む······」
ぬらりひょんは魂手箱があった辺りをジッと見つめている。
「魂手箱は、時に軌跡を残す事があるのじゃが、翔鬼殿に見えませんかのう」
「軌跡?」
「ふむ···妖力の強い者なら見えるはずなのじゃが、魂手箱を移動した時に軌跡として線のような物が見えて、どこを通ったのかが分かるようになっているのじゃ。
盗まれても見つける事ができるようにじゃな。 どうじゃ? 何か見えんか?」
···と言われてもよく分からない···
「そうじゃな······翔鬼殿、これをこちらの箱に入れてみて下され」
ぬらりひょんはさっきまで飲んでいた湯飲みを翔鬼に差し出す。 それを受け取り、白狼の魂手箱の中に入れた。
「清宗坊殿、その箱をあちらの部屋に···」
言われるままに清宗坊が魂手箱を移動させると、白狼の夢の中で見た細い蜘蛛の糸の様な消え入りそうな線が見えた。
「あっ!! 見えたぞ!」
「さようですか。 では盗まれた方の魂手箱に繋がっている軌跡はどうじゃ? 見えんかのう?」
あの時の糸のようにキラッと光る事もなく、よく見ないと分からない。 魂手箱が置いてあった辺りをじっと見つめるが、なかなか見えない。
そこで翔鬼は目に【気】を入れてみた。 するとフッと線が浮かび上がってきた。
「あった!! 見つけたぞ!!」
線から目を離さずに翔鬼は歩き始め、皆が後に続く。
清宗坊がぬらりひょんを呼び留めた。
「拙者はこちらでもう少し調べまする」
「ふむ、それがいいじゃろう。 頼むぞ」
白狼と白鈴とぬらりひょんが翔鬼の後を付いていく。
大通りを通らずに町外れの林の中を通って行く。 あの時は、町中は人で溢れ返っていたのだが、逆にこの辺りに人影などはなくて人目を盗んで運ぶのには都合が良かっただろうと思われる。
◇◇◇◇
町から出てそのまま真っ直ぐ南の海に向かっている。
「マズいわね」
「まことに···」
「何がマズいんだ?」
白鈴とぬらりひょんの言葉に白狼が首を捻る。
「ふむ。 陸の妖怪と海の妖怪は、仲違いをしているという訳ではござらんが、お互いに不可侵と定めておって、それを破った者にはそれなりの刑罰が下されると決められておるのじゃ。 このまま海に出るという事は、海に入らねばならんようになるじゃろう。 という事は···」
「さっさと取って戻ってくれば大丈夫なのじゃないか?」
「そうね···そう簡単にいけばいいのだけど···」
◇◇◇◇
翔鬼は懸念していた通り、海に出た。
今まで線に集中していた翔鬼が振り返る。
「なぁ、これってマズくないか?」
「よくご存じでございますな。 非常にマズいです」
「だよな···海の底まで息が続くとは思えない。 潜水艦とかダイビングのボンベとかもないし···思いっきり急いだら息が続く間に行って帰ってこれるかな?」
「「······?······」」
ぬらりひょんと白鈴は暫し唖然としていた。
「どうしたんだ? 俺、何か変な事を言ったか?」
ぬらりひょんがフッと笑うと、白鈴がキャハハハハ! と笑いだした。
「そっち? マズいのはそれ? 翔鬼ったら笑わせるわ!」
翔鬼はキョトンとしている。
「翔鬼殿がご存じないのも致し方ありませぬ。 人間と違って我々妖怪は水の中でも息が出来まする。 下級妖怪の小鬼や小天狗等、種類によっては無理な者もおりますがのう」
「じゃあ、俺も水の中でも息ができるのか?」
「はい」
「深く潜っても大丈夫なのか?」
「はい」
翔鬼はホッと息を吐く。
「じゃあ何がマズいんだ?」
「ふむ。 先ほど白狼殿にも説明したのじゃが、海の妖怪と会うのはあまり好ましくないのじゃ。 敵とみなされる可能性もありますのでのう」
「そうなのか···じゃあ、急いで取って戻ってくれば大丈夫だろう」
「フフフ、白狼と同じことを言うのね。 そう簡単にいく事を願っているわ」
「盗んだのが金治殿なら海の中には入れんので、海上から捨てた可能性が高いのう。 うまく海底に転がっていてくれればいいのじゃが····」
「悩んでも仕方がない、 行くぞ」
皆で海に飛び込んだ。
つい息を止めて海に入ったが、恐る恐る息をしてみた。
何の抵抗もなく、普通に息が出来る!
「息ができる···話もできる···防御結界を張っているから服も濡れない···妖怪の常識っていいなぁ···」
翔鬼は一人でブツブツ言いながら潜っていった。
◇◇◇◇
海の中はとても綺麗だ。 沢山の魚が泳いでいる。 小魚たちが何かを話しているが、よく聞き取れない。
目の前に大きな魚が泳いでいる。 唇が分厚いデカい魚だ。 すれ違いざまに声が聞こえた。
「こいつはら陸の妖怪だ。 なぜ海にいるんだ?···」
···やはり俺達は御邪魔虫なんだ···急いで探さないと···
その時、遠くから巨大な影が近付いてきた。
『マズい! 気配を消して下され!』
ぬらりひょんが慌てて言うので、四人は完全に気配を消してジッとしていた。
それは悠然と目の前を通って行く。
大きなサメのようだが20mはありそうだ。 そしてヒレが手になっていて鋭い爪があり、三本ある尾にはおろし金のような細かい針が何本も付いている。
「鮫···じゃないよな? 何だあれは?」
《磯撫で 海の中を撫でるように泳いで近づき、獲物を尾びれの針で引っ掛けて捉える》
磯撫では幽鬼達には気付かずに通り過ぎていった。
「あれ位なら倒せそうだよな」
「ダメよ! 一匹を倒したらその匂いを嗅ぎつけて遠くから仲間が集まってくるのよ。 共食いを好む種なの」
「···そうなんだ···」
悠然と通り過ぎていく磯撫でを見送った。
◇◇◇◇
しかしこの海域はかなり深い。 真っ暗な海の底に向かって線が伸びている。
徐々に光が届かなくなってきて周りが暗くなって来た時、横に岩の壁が現われた。 その岩壁に沿って線が伸びているため、ここを転がって落ちていったのだろう。
そろそろ海底かと思われた時、その岩壁から数十人の妖怪が現われた。
下半身が魚の魚人だ。 全員鎧を着ていて、手には長い銛のような物を持っている。
もちろん全員銛の先をこちらに向けていた。
『どうする? 突破するか?』
『翔鬼殿、それは少し困りまするのう。 ここは大人しく致しましょう。 最後の手段としては、彼らは我らの敵ではござらんが、先ずは···わしが話します』
『わかった』
翔鬼達は両手を上げる。 ぬらりひょんは一歩前に出た。
「これは海の御方々。
突然お邪魔して申し訳ござりませぬが、我らに敵意はござらんし、其方らの領域を冒すつもりもござらん。
失くし物を探しに仕方なく海の中に来たまで。
見つけ次第すぐにここを去るつもりでござりまする」
一回り大きな魚人が前に出てきた。
何かを言おうと口を開きかけたとたん、何かの気配を感じた魚人達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
魚人達はなぜ逃げて行った?!!
( ̄□||||!!




