第七十二話 北の町と南の町
北の町では、抗牟と宝蘭が戦っていた。
ただ、東の町で雷を落としたのは···
第七十二話 北の町と南の町
北の町に白狼とギンが到着すると、そこでは抗牟と宝蘭が戦っていた。
二人共、刀は使わない。
抗牟は長く伸びた爪で次々に幽鬼を斬っていく。
例のごとく岩場を飛び移るような飛び方をするのだが、どうやらその足場の岩を飛ばして攻撃できるようで、たまに近づく幽鬼達が見えない岩を叩きつけられて吹っ飛んでいく。
宝蘭も長く伸びた爪を使うが、それよりも飛び道具を頻繁に使っている。
水、氷、風、岩がそれぞれ刀になって飛んでいき、幽鬼を切り裂く。
今回は雷を使っていないようだ。
「町を壊さないように、ちゃんと考慮しているのだな」
白狼はちょっと宝蘭を見直した。
先に飛んでいったギンが【気】を放って幽鬼を集めて消していくと、不思議そうに見ていた宝蘭が白狼を見つけて寄ってきた。
「白狼さん!! あれは何? てっきり翔鬼さんだと思っていたわ。 彼と同じ【気】を感じるのだけど?」
「彼はギン。 翔鬼の気龍だ」
「気龍?···始めて見たわ···凄い···」
そうやってギンを見つめる抗牟と宝蘭は、あちらこちらから血がでていた。
「二人共、ケガを治療するからジッとしていてくれ」
白狼の翼が伸びてきてキズに薬を塗っていく。 宝蘭はそれもまた不思議そうに見ていた。
「会議の時に白狼さんが治療するという話しが出ていたのを聞いて不思議に思っていたのだけど、本当なのね。 白翼狼に治療の術があったなんて初めて聞いたわ。
「ハハハ、色々あってこうなった。 抗牟は他にケガをしているところはないか?」
「もう大丈夫です。 ありがとうございました。
幽鬼というのは思ったより強いのですね。 防御結界を教えてもらっていなかったら勝てていたかどうか···」
「うん···戦うたびに強くなってきているんだ」
「そうですか···それより、東の町の壊れている家の住人達が、多分大ケガをしています。
ケガをしたまま石にされていたのですが、翔鬼殿が戻してくれる時に回復してやってもらえないでしょうか」
「もちろんだ。 だが珍しいな、幽鬼が家を破壊するなんて」
「いや、あれは······」
白狼は宝蘭が雷を落とした時はまだ翔鬼を起こそうとしていた時なので知らない。
しかし抗牟の視線は宝蘭に向けられていて、宝蘭もバツが悪そうにしている。
···そういう事か···
水がかけられて消火されていた事から、幽鬼が火を出して宝蘭が消し止めたのかと思ったが、多分また雷でも放ったのだろう。 そうして自分で消火したという事のようだ。
···流石···やってくれる······見直したのは撤回だな···
ギンの仕事が終わった頃には殆ど幽鬼はいなくなっていた。
残りの幽鬼を抗牟と宝蘭に頼んで中央の町を通って南の町に向かう。
途中何度かギンと白狼が幽鬼を倒し、町中の幽鬼達は殆どいなくなった。
◇◇◇◇
最後の南の町では敬之丞が一人で戦っていた。
「翔鬼様ぁ~~!! あれ?···」
ギンが仕事を始めた時、翔鬼の【気】を感じて飛んで来たのに本人がいなくて敬之丞はあからさまにガッカリする。
「翔鬼がいなくて残念か?」
「まだ寝ているのか?」
「あいつ、一度寝ると簡単に起きないからな。 仕方がないのでギンだけ来てもらった。
しかし敬之丞一人でこの場所で戦っていたのか? あ···ちょっと大人しくしていろ」
大きなケガはないが数か所斬られた跡があるので治療する。
「蜘蛛の糸の防御はもう少し改良する必要があるな。 あんな弱い奴の刀で斬られるなんて情けない···」
「いや、今までの幽鬼より一段と強くなっているのにも関わらず、これだけのケガで済んでいるのは流石だぞ。
本当によくやった。 きっと翔鬼が知ったら褒めてくれるぞ」
「そ!! そうか!! そうだな!」
敬之丞は飛び跳ねて喜んでいる。 どれだけ翔鬼に心酔しているのやら···
ギンの仕事ぶりに見入っていた敬之丞だが、ハッと何かを思い出した。
「···あっ···そうだギン様!!」
ほぼ仕事が終わったギンを呼ぶ。
「洞窟から町中に入れないように網を張って、まだ沢山いる幽鬼を食い止めているんだ。 厳之丞が見張ってくれているが、どうにかしてくれ」
「わかった」
「ギン、私は敬之丞といる」
「了解」
広い町の中にまだ残っている幽鬼を、白狼と敬之丞が手分けして倒していく。
◇◇◇◇
後を任せてギンは洞窟に向かった。
あの大きな江の坂洞窟の入り口全体が真っ白い蜘蛛の糸で覆われていた。
その時一瞬、近くに厳之丞の【気】を感じたのだが姿が見えない。 隠遁術で姿を隠しているのだろう。
「厳之丞! いるか?」
「ここに」
洞窟から少し離れた大きな木の幹に乗っていた。
「もう少し離れて隠れていてくれ」
「承知しました」
厳之丞は気龍を見るのは初めてだが、【気】は明らかに翔鬼だ。 疑いもせずに命令に従った。
ギンは洞窟の少し手前から渦巻き始め、洞窟の入り口に向かって突進していった。
厳之丞は気龍が蜘蛛の網にかかってしまったらどうしようかとハラハラして見ていたが、何もないように網をすり抜け、錐揉みして幽鬼を巻き込みながら黒い霧に変えていく。
あれだけの幽鬼を一瞬で消し去っていく気龍に感動まで覚えた。
ギンは洞窟内にびっしりと詰まっていた幽鬼達を消し去り、結界の向こう側で洞窟に入れずに外で漂っていた幽鬼達も全て消し去る。
一回りして幽鬼がいないことを確かめてから厳之丞の所に戻った。
「もう外から入り込んでくる幽鬼はいないと思うが、もう少しの間、網はこのままで様子を見ていてくれるか」
「お任せ下さい」
「頼んだ」
そう言って町の方に飛んでいく気龍を厳之丞はいつまでも見送っていた。
◇◇◇◇
ギンは町の中をもうひと回りする。 残った幽鬼は八人衆によって既に殲滅されていて、ギンに気付いた八人衆が手を振っているのが見えた。
「もう大丈夫だな」
ギンは白狼を呼び寄せ、再び防御結界に角で穴を開けてもらってから、翔鬼の中に戻っていった。
やっぱりギンは凄かった( ̄ー ̄)b




