第七十一話 ギン
翔鬼が起きない!!
そうだ、ギンがいればいいんだ!
第七十一話 ギン
白狼はぬらりひょんから報告を受けて慌てて翔鬼を起こそうとするが、防御結界のせいで揺り起こす事が出来ない。 気持ちよさそうに深く眠っているようだ。
「翔鬼!! 起きろ!! 幽鬼の大群が襲ってきたらしい! 起きろ! 」
声をかけてもダメだ。 それならと、思念通話で起こしてみる。
『翔鬼!! 俺だ、白狼だ!! 起きろよ! 幽鬼が襲ってきたんだ! 起きてくれよ!』
びくともしない、そう言えば一度寝てしまうと周りの声では絶対に起きなかった。
母親が叩き起こすか白狼が顔を嫌という程舐め捲ってやらないと起きなかった。
「ダメだ。 どうして防御結界を張って寝るんだよ···そうだ! 翔斬刀! 翔鬼を叩き起こしてくれ!」
「すみません白狼様、俺はここに···」
枕元の魂手箱の所から声がした。 白狼は慌てて振り向き、ガクッと肩を落とす。
「そうだった、翔鬼が寝る時に離れたんだったな···」
声をかけても起きないし、叩き起こす事もできない。
···どうすればいい···
今までの事から言って、幽鬼に対峙するなら何も翔鬼でなくても大丈夫だ。
「そうだ! ギン!!」『ギン! 俺だ、白狼だ、聞こえるだろう? 幽鬼が町に入ってきているんだ。 お前が倒してくれないか?! 翔鬼がいなくても大丈夫だろう?』
すると翔鬼の体からギンが出てきたのは出てきたのだが、翔鬼が張った狭い防御結界の中でクネクネと動いているだけだ。
「ギン、 何しているんだ?」
「う~~ん···どうしよう白狼···ここから出れない···」
「で···出れないのか? お前の【気】で張った結界じゃないのかよ! 何とかできないのか?」
「だっていくら僕の【気】でも、張ったのは翔鬼だから、解除できない。 翔鬼!起きろよ!! おい!! 翔鬼ぃ!!」
ギンも翔鬼を起こそうと頑張ってくれるが、死んだように眠っている翔鬼は起きる気配がない。
ギンは体がやっと動かせる程度の狭い結界内でウネウネとしながら翔鬼の体から出たり入ったりしていたのだが、ハッとして白狼の角を見上げた。
「···そうだ! 白狼の角でこの結界を刺してみてくれ」
「私の角で?」
「君の角は勾玉と一体化しているから、もしかすると結界に穴を開ける事が出来るかもしれない」
「やってみよう」
白狼は翔鬼の結界に角を刺してみると、少し反発力があったがプスッと刺さった。
「よし! じゃあ角を抜いてくれ」
白狼が角を抜くと同時にギンがその小さな穴からスルルッと出てくることが出来た。
「やった! 行くぞ!」
ギンはそのまま外に向かって飛んでいき、白狼も慌てて後を追った。
外では既に幽鬼の大群が群がっていて、ギンと白狼を見つけると一斉に攻撃してきた。
白狼は両手に刀を持ち、飛び上がると幽鬼の群れに突っ込んでいく。
ギンはいつものように竜巻を起こして幽鬼を吸いこみながら倒していこうと思って渦巻き始めた時、数枚の瓦が飛んできた。
「マズいな、家を壊したら絶対翔鬼に怒られるぞ···よし」
ギンは幽鬼を呼び寄せるために【気】を放った。 その【気】に気付いた幽鬼達が真っ直ぐギンに向かってくる。
ギンは集まってきた幽鬼の中に突っ込んで次々と黒い霧に変えていった。
◇◇◇◇
直ぐ近くで清宗坊と白鈴が戦っていた。 その中にギンが突っ込む。
「ギン!! 翔鬼は?」
「まだ寝ている」
「まあ、貴方がいれば翔鬼はいらないわね」
ギンが周りの幽鬼を消してくれて白鈴と清宗坊はやっと一息つく事が出来た。
ギンが時々【気】を放って誘き寄せながら鮮やかに幽鬼を消していく。 その様子を地上から見上げていると、白狼が横に来た。
「ケガの治療をしよう」
白鈴も清宗坊も所々に切り傷が出来ていたので白癒羽が治してくれる。
「ありがとう。 防御結界の練習をしておいてよかったわ。 幽鬼がまた強くなっているのよ。 鬼神並みになっているの。
これ以上長引くと危ない所だったわ」
「私も先ほど戦ってみて驚いた。 翔鬼のおかげで進化する事が出来ていたのでこの程度で済んだが、それでなかったら危ない所だった」
「それだけ八岐大蛇も必死だという事のようね。 でもこうやってムダな妖気を使ってくれることはいい事だわ」
白狼と清宗坊は白鈴の言葉に頷いた。
この辺り一帯の幽鬼を殆ど倒してギンは戻ってきた。
白狼は飛び上がりながら白鈴と清宗坊に声をかける。
「じゃあ、西の町の方に行ってくる、残りの幽鬼を頼む」
◇◇◇◇
ギンと白狼が西の町に行くと、堂刹とぬらりひょんが戦っていた。
二人の戦いはなかなか豪快だ。
堂刹は両手に大刀を持ち、屋根の上で向かってくる幽鬼をバッタバッタと切り捨てて黒い霧に変えていき、 若返ったぬらりひょんは凄いスピードで飛び回り、幽鬼達を次々に刀の餌食にしていく。
ギンは先ずその二人の周りの幽鬼を消していった。
「さっきの【気】はお前だったのか。 翔鬼は?」
「まだ寝ている。 じゃあ、幽鬼はもらうぞ」
ギンは先程のように【気】を放ってこの辺りの幽鬼を引き付けて倒していった。
「話には聞いておりましたが、気龍殿の戦い方は鮮やかなものですな」
ぬらりひょんは腕を組んで感心しながら、まだ月の明かりが眩しい空でクネクネと幽鬼を消していくギンを眺める。
「二人にケガはないようだな」
いつの間にか横に来ていた白狼が二人を見て言う。 しかし、彼らは心配ないと分かっていた。
「俺達は問題ないが、何人かの妖怪達が石にされる前に幽鬼に斬られているのを見た。 幽鬼がまた強くなっていて凶暴性が上がっているようだ。
翔鬼が石から戻してくれる時にケガの治療をしてやってくれ」
「わかった」
殆どの幽鬼を倒した終えたギンが白狼の元に戻ってきた。 まだ少し残っている幽鬼はぬらりひょんと堂刹で充分だ。
「残りの幽鬼を頼む」
「任せろ。 これだけ減れば余裕だ」
白狼は頷き、北の方を指差してギンを促す。
「ギン、次は北の町の方に行こう」
ギンの活躍は凄いですね!




