第七十話 町への襲撃
大変だ!! 幽鬼の大群が町の中に押し寄せてきた!!
第七十話 町への襲撃
訓練中の敬之丞は何とも言えぬ嫌な予感がした。
「厳之丞、何だか気になるんだ。 ちょっと待っていてくれ」
そう言うと江の坂洞窟の方に向かって飛んで行く。
大きなクレーターのような形をした、鬱蒼と繁った木々に埋め尽くされた窪みの底にある洞窟の入り口が見えてきた。
すると、そこから突如、巨大な黒い龍が飛び出してきた。
「龍ではない! 幽鬼だ!! なんという数だ!! ど···どうすればいい···そうだ!」『翔鬼様!! 翔鬼様!!』
思念通話で話し掛けるが返事がない。
『白狼!! 白鈴!! 清宗坊!!』
彼等とは結界を超えて通話ができないのだった。
「そうだ!!」『ぬらりひょん!! 大変だ!!』
『敬之丞殿でしょうか? 何かあったのですかな?』
まだ気づいていないのだろう。 いや当然まだ気づいてはいない。
『大変なんだ!! 町の中に幽鬼の大群が雪崩れ込んできた!!』
『な!! なんじゃと?!』
ぬらりひょんは急いで窓から外に飛んで出た。
見越し入道も町の入り口の方を何だろうと見入っている。 あちらの方から何やらフワッと黒い雲が広がってきているように見えるのだ。
思念通話で翔鬼に話しかけるが返事がない。
「皆の者!! 幽鬼じゃ!! 急いで建物の中に入るのじゃ!! 戸締りをしっかりとして決して出てくるでないぞ!!」
それだけ言うと、猛スピードで大天狗邸に向かう。
その間にも「幽鬼の襲来じゃ! 建物に入れ!」と大声で叫びながら飛び、それを聞いた妖怪達はぬらりひょんのただならぬ様子に慌てて建物に向かって走り出した。
ぬらりひょんは大天狗邸に入るなり思念通話で怒鳴る。
『幽鬼の大群が襲って来た!! 応援頼む! 白狼殿は翔鬼殿を起こして下され!』
それだけ言うと今度は酒呑童子邸に向かって飛ぶ。
そうしている間にも幽鬼達の黒い雲のような影が広がりながら迫ってきている。
『敬之丞殿、まだ幽鬼達は入ってきておりますかな?』
『まだ雪崩れ込んできている』
『何とか洞窟の入り口で止めて下さらんか!』
『今、やっている!』
◇◇◇◇
ぬらりひょんは酒呑童子邸に着くなり門番に幽鬼が来ているから門を閉めるように指示し、結界内に入るなり怒鳴る。
『堂刹殿! 大変じゃ! 幽鬼の大群が町に入って来た!!』
『なっ?? 何だと!!』
直ぐに堂刹が飛び出してきた。 ぬらりひょんは堂刹を待たずにくぐり戸から外に飛び出した。
直ぐ目の前まで幽鬼が来ている。 思った通り手には刀を持っていた。
「おい!! どうなっている?!」
堂刹がくぐり戸から出てきた。
「わからん。 それは後じゃ!」
ぬらりひょんは両手に刀を出して幽鬼に向かって行った。
その時堂刹が両手を前に出して【気】を練る。
「試してみたかったんだ」
堂刹の周りに黒い火花がバチバチと跳ね始めた。
『堂刹殿!! ダメじゃ!! 町を壊さんでくれ!!』
『だめか? 進化してから出来るようになったから試してみたかったのに···』
その時、遠くの方でズドドドドン!!と、雷が落ちた。 その後黒い煙と赤い炎が見えた。 宝蘭だ!
『宝蘭殿ぉ~!! 町を壊さんでくれぇ!! 入り口は敬之丞殿が塞いでくれておるはずじゃ、今いる幽鬼だけ倒せば大丈夫なはずじゃ、 後は翔鬼殿が起きるのを待とうぞ!!』
『あら···ダメなの? わかったわよ』
◇◇◇◇
敬之丞はぬらりひょんに知らせた後、何とかして幽鬼の侵入を食い止めようと考えた。
土蜘蛛は隠遁術に長けていて術をかけているせいもあるのだが、幽鬼達は森にいる土蜘蛛達には目もくれずに町の方に向かって一直線に飛んでいく。
「こいつらもしかして翔鬼様と俺達八人衆を狙って町まで入って来たのか? ムダだというのがわからないのか?!
ただこれ以上大量に入ってこられるといくらなんでもマズい。 何とかしないと···」
幽鬼達は巨大な龍のように一塊で町に向かって飛んでいく。
···切れ目があれば洞窟の入り口に蓋ができるのに···
洞窟の入り口は高さが20m、幅が40mの、かなりの広さがある。
敬之丞は無駄と分かりつつ洞窟の入り口に向かって蜘蛛の網を飛ばしてみた。
入り口全体を覆う大きな網だが当然のように幽鬼の大群に押し破られる。
「くそう! 一度では無理か···入り口を狭めていこう」
江の坂洞窟の入り口はかなり広く、特に横広になっている。 端の方に網を張って通路を狭めてからの方が止められるだろうと思った。
端から網を張って入り口の通り道を狭めていく。 その端に張った網に掴まるバカな幽鬼もいるのだが、そいつらは網を斬ろうともがき、上手くいけば網を斬ってしまうので張り直しとなる。
そして網を放つ時にはどうしても隠遁術が切れ、気付いた幽鬼が襲ってくる。 そいつらと戦いながら少しずつ網を張って入り口を狭めていった。
そうして最後に大きな網を飛ばしたがやはりだめだ。
多くの幽鬼の勢いに押されて網の端が岩肌に着く前に剥がれてしまう。
「敬之丞、お前が隊列を乱してくれれば俺達が網を張ろう」
厳之丞と影之丞が後ろに来ていた。 二人には危険だが、これ以上幽鬼を町に入れる訳にはいかない。
「では、頼む!」
その時、敬之丞の体にフワッと何かが纏わりつき、全身が銀色に変わった。
敬之丞は防御結界代わりに全身を蜘蛛の糸で覆った。 白狼の水結界をヒントに練習していたのだ。
敬之丞は刀のように鋭く尖らせた手足の爪を最大限に伸ばして幽鬼の群れが出てくる洞窟の中にドォォッ!!と突っ込んでいった。
前が見えないほどの数の幽鬼が攻撃してくる。 敬之丞も八本の足をすべて使って手当たり次第に斬りまくった。
『出るぞ!!』
出口辺りの幽鬼の数が減った所で敬之丞が洞窟の外に飛び出した。 その途端、厳之丞と影之丞が蜘蛛の網を張り、敬之丞もその上から何重にも網を張った。
どうにか食い止める事が出来た。
先頭の幽鬼達が張られた網の手前で止まるのだが、後ろから来る幽鬼に押されて結局網に掴まってしまう。
網一面に幽鬼が張り付くが、後ろから来た幽鬼が張り付いた者を切り殺して黒い霧に変える。 そして今度は通り抜けようとして網に攻撃してくるのだ。
蜘蛛の繭のように網にも結界を張ってあるのでそう簡単には斬れないが網の結界は繭の結界ほど強力ではない。 そのため網が斬れてしまう事がある。 そうなると網を追加で張り直す必要がある。
「敬之丞、追加の網は私が張っておくから、お前は町の方の加勢に行け」
「あれ? 影之丞は?」
厳之丞の視線の先に大きな石があった。
「網を張った際に私達に気付いて攻撃してきたようだ」
「クソッ! でも大丈夫だ、翔鬼様が助けてくれる。 厳之丞も気をつけろよ!」
「私の隠遁術を舐めるな」
「そうだったな、では頼んだ!」
敬之丞は町の方に向かって飛んでいった。
大変な事になってしまった!!




