第六十九話 最終会議
八人衆が有利に戦えるように打ち合わせる。
第六十九話 最終会議
「という事で、奴は動けないのだから、それぞれがなるべくこちらに有利になる頭に絞って攻撃するという事で、決まりだな」
堂刹の言葉に全員が頷く。
「余は氷野郎を相手。
清宗坊殿は水。 白鈴殿は黒雲野郎。
ぬらりひょん殿は風相手。
宝蘭殿は岩。 抗牟殿は雷。 敬之丞殿は毒。
そして白狼殿は火野郎が相手という事でいいな?
火野郎は八つの頭の頭だから手強い。 火野郎だけ翔鬼と一緒に先に倒してしまえば白狼の手が空いて治療ができるし、他の者と一緒に戦えば有利になる」
皆が頷くが、白鈴が「それよりも···」と言い出す。
「問題は結界よ。 八岐大蛇が自ら結界を解くときは八岐大蛇が自由になる時。
それまでには倒したいのだけど、私達四神でも結界を破壊できなかったのよ?」
「結界破壊術が出来る者は誰だ?」
堂刹、白鈴、ぬらりひょんが手を挙げたのを見て、翔鬼が頷く。
「今更だけど俺は結構強い。 結界破壊術も結構レベルが高いと思う。
でも一人だと少し心配だから、堂刹達と四人で結界破壊をすればできると思う···多分だけど、大丈夫だと感じるんだ」
「類稀なる【気】の持ち主のお前がそう言うなら大丈夫なのだろう。
余達も進化させてもらった程だからな。 それより翔鬼殿は白狼と火野郎を倒した後が本番だぞ」
「分かっている」
「何度も言うが奴の八本の尾は八つの頭並みに危険だ。 尾の先に目があるのではないかと思うほどだ。
ただ直接戦ったわけではないから確かではないが、油断だけはするなよ」
「分かっている。 気をつけるよ」
「で?···いつ出発する?」
一斉に全員が翔鬼を見た。
「今すぐ···と言いたいのだが、実はもう眠い。 人間は夜の季節は眠るんだ」
眠いという言葉に不思議そうに翔鬼を見る抗牟と宝蘭に説明した。
「ひと眠りしてからでもいいか?」
「もちろんだ。 それでいいな?」
堂刹が全員の顔を見て確認する。
「では翔鬼殿が眠っている間に防御結界を張る練習と、戦いの訓練をしよう」
「あっ! そうだ!」
翔鬼が叫ぶ。 皆が驚いて翔鬼の顔を覗き込んだ。
「白狼お前、女郎蜘蛛の所でどうして毒蜘蛛に咬まれなかったんだ? 不思議だったのに聞くのを忘れていた。 防御結界が出来るようになったのか?」
「あぁ···その事か···実は進化してから【水結界】を張れるようになったんだ」
そう言った途端、白狼の毛がブワッと膨らんだ。
近くで見てみると毛の一本一本に薄く水の膜が張られている。 しかし触ってみても手に水が付く事はない。
「多分それ程強力ではないと思うが、ないよりはいいだろう」
「ほぉ···本当にお前って勉強家だなぁ···」
「翔鬼に比べると全然弱いから、これくらいはしないとな」
ぬらりひょんがヒョッヒョッヒョッと笑った。
「我らも負けてはおられませんのう。 皆が進化した事で何かしら出来る事が増えているようじゃ。 翔鬼殿が眠っている間に少しでも上を目指しましょうぞ」
会議は終わり、四天王達も呼ばれて夕食が振る舞われた。 もちろん慶臥と与作も末席に座るように言われ、二人共恐縮しまくっていた
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふわぁぁぁ~~」
翔鬼は大きなあくびをした。
「ダメだ、眠いから帰るわ」
その一言でお開きになった。
宝蘭は白狼と抗牟もいるという事で、大天狗邸に泊まる事になり、一緒に帰るという。
翔鬼が立ち上がり部屋から出ようとすると『ありがとうございました』と、慶臥が感情をねじ込んできた。
振り返ると、立ち上がって頭を下げている。
『与作とゆっくり話が出来て良かったな』
実は与作と慶臥の話しを聞いていた。 いや、聞こうと思ったのではないが視えてしまった。
慶臥は本当にいい奴だ。
別の出逢いをして入れば友達になれただろう。
翔鬼は部屋を出て行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
大天狗邸の自分の部屋に到着するなり、布団に倒れ込んだ。 翔斬刀の腰帯が自らスルルとほどけ、魂手箱に立てかかる。
「ごゆっくりお休みなさい」
「ふわぁぁぁ~~···翔斬刀ありがとう。 二人共お休み···」
翔鬼は直ぐに眠りに落ち、またも防御結界が周りを囲む。
今回は白狼も自分の布団の上に丸くなった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「なに?! 女郎蜘蛛も失敗したのか!! どうなっている!! 茨木童子はどうした!!」
富士の山の火口の隅の方に猫娘の美華が震えながら控えている。
「報告によれば···茨木童子様は翔鬼に完膚なきまでに遣られて、鬼神達と共に結界の中で治療中という事です。 その為、忍び込む事も出来ず、会う事も出来ないそうです」
「慶臥は?!」
「···行方不明です」
「酒吞童子からの返事はまだか?!!」
「···酒吞童子様の所に向かった者はまだ誰も戻らないとの事。 既に殺されているのではないかと···」
「役立たずな奴等ばかり!!」
「ヒッ!!」
美華はより小さくなって地面に頭をこすりつける。
「そう興奮するな。 翔鬼とか言う鬼神がどれほどの者かは知らんが、我らの敵ではないだろう。 心配する事はないのではないか?」
「いや、類稀な【気】を持つ者を侮ってはいけない。 それに強力な仲間を集めておると聞いた」
「勾玉が付いている者達だとか···何の効果があるのだ?」
「幽鬼の攻撃で石にならないらしい」
「それだけか? 取るに足らん」
「しかし仲間を集めているというのは気に喰わん」
「ではどうする。 他の手の者では歯が立たんぞ」
「仕方がない、また数でいくしか···」
「前にも退けられたのだぞ」
「そんな事を言っている場合じゃないだろう! 今自由に動ける我らの手駒はこれしかない。 我らも協力して幽鬼の妖力をあげれば、奴の仲間を一匹でも減らせる可能性があるのではないか?」
「奴らは今、江の坂町にいるとか···結界内では奴等も自由に動きにくいだろう。
そうだな···奴等の仲間を一人でも減らせることが出来れば······黒、頼む」
[黒]と呼ばれた八岐大蛇の黒い頭の周りに渦巻いている黒い雲が勢いよく回り始めた。 そして、その雲の中から幽鬼がフワッと飛び出してきた。
何体も何体も幽鬼が次々に現れては富士の山の火口から外に飛び出していくのだった。
幽鬼の大群が再び?!!
( ̄□||||!!




