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第六十六話 海妖《うみあやかし》

海の上を飛んでいると、静かな海が突然波立ってきた!!


 第六十六話 海妖(うみあやかし)





 目の前に海が見えてきた。


 やはり北の国とは北海道の事のようだ。 夕焼けで赤く輝く波のない静かな海の上を飛ぶ。



 暫く飛んでいると、波がないはずの海が波立ってきた。


 何だ? と思っていた時、清宗坊があわてて叫ぶ。


「高く飛び上がってください!!」


 大急ぎで高く飛び上がった時、足元の海がパックリと割れて巨大な妖怪が翔鬼達を丸呑みにしようと大きな口を開けて伸びあがってきた。


「わぁ~っ!! 何だこいつ!!」



海妖(うみあやかし) 海で死んだ者の魂が集まった妖怪。 海に出た者を海中に引きずり込もうとする》



 ザトウクジラが海面の小魚を丸呑みにしようと大きな口を開けて浮かび上がってくる場面をテレビで見た事がある。 まるでそのシーンのようだ。

 口元は鯨のようだが体は長い二本の触角がある巨大な蛇のようだった。



 翔鬼達を追って海面高く伸びあがってくる。 50m以上伸び上がってきたが、やっと諦めて海に戻っていった。




挿絵(By みてみん)




「わぁ!! 驚いた。 あんなのがいるんだな」

「海には海の妖怪がいます。 お気を付けください」

「お···おう」



 空から海の中を見てみると、何か大きな生き物が時々動いているのが見える。 どんな妖怪がいるのかちょっと見てみたい気もするが、今は止めておこう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇



 対岸が見えてきた。



 岬の先に白い何かがいる。


「あっ! 彼女は宝蘭(ほうらん)です! 先に行きます!」


 抗牟(こうむ)がスピードを上げて白い妖怪の元に飛んでいき、それを見た清宗坊が横に来た。


「あれが七尾狐(ななびぎつね)でござる。 宝蘭(ほうらん)という名前のようでござるな」

「あれがそうか。 結構デカいな」

「抗牟殿ほどではありませんが、頭までの高さは拙者(せっしや)と同じくらいと思われます」



···俺より少し大きいのか···



 近くに行くと、豪華な七本の尾のせいもあり、かなり大きく見えた。 全身真っ白なのだが左肩に確かに黄色の勾玉が付いている。



挿絵(By みてみん)



「宝蘭、清宗坊殿は知っているな? 今は黒い姿をしているが彼が白翼狼の白狼殿。 そしてこの方が翔鬼殿だ。 で···こっちが七尾狐の宝蘭です」


 抗牟がお互いを紹介してくれた。 こちらは紹介された者が軽く頭を下げたが、宝蘭は顔を高く上げたままで微動だにしない。 プライドが高そうだ。



「清宗坊から話しを聞いていると思うが、俺達は八岐大蛇(やまたのおろち)を倒すために勾玉を持つ八人衆を探していた。 君が最後の一人だ。 仲間になってもらえないだろうか?」



 宝蘭はギロリと翔鬼を睨む。



「そうね···八岐大蛇に我が物顔でこの妖界を好きにされるのは面白くないわね。

 あいつを倒すのを手伝うのはかまわないけれど、あんたの手下になるのが気に喰わないわ」

「いやいや、俺の手下になるわけじゃないぞ。 共に戦う仲間になるって事だ」


「でもあんたが(かしら)でしょ?」

(かしら)って···そんなんじゃないけど、どうすれば仲間になってくれるんだ?」

「そうね···(わたくし)と戦って(わたくし)が勝てば、(わたくし)がお(かしら)という事でよろしいんじゃない」


「君と···戦うのか?···」

「負けるのが怖いのかしら?」

「ケガさせたら嫌だし···」

「まぁ! (わたくし)が負ける前提?」

「あ···いや···そう言う訳では···仕方がないなぁ···」


 やる気をなくしてくれるように【気】を思い切り放ってみた。 すると、小さくヒッ!という声が聞こえた。



 宝蘭の目が一瞬、泳ぐ。


「そ···そうよね···ケガしてもバカらしいし、(かしら)になると色々面倒になりそうだから、あんたがやってくれていいわ」



···良かった···諦めてくれた···



「それはいいとして···それじゃあ···」


 宝蘭は前足の裏を上に向けて前に出した。




···これって何かくれ! のポーズ?······




(わたくし)ほどの妖怪を勧誘するなら普通、それなりの物を差し出すものじゃないこと?」

「それなりの物って···何も持ってきてないぞ」

「じゃぁ、この話はなかったことに···」

「わぁ! ちょっと待てよ!」


 森に帰っていこうとして背中を向ける宝蘭を呼び止める。



···困ったなぁ···なにもないし···あっ?···



 その時、宝蘭の耳飾りに見た事のあるものがぶら下がっているのが見えた。 人間のお金の五円玉だ。 そんな物をわざわざ耳飾りにしているという事は···


 確か、五円玉と五十円玉をこちらの世界に持ってきていたはずだ。



「なぁ、その耳飾りってオシャレだよな。 実は俺、それと同じ金色の奴と、それの銀色の奴を二個持っているのだが、それでどうだ?」


 それを聞いた宝蘭の目が輝いた。


「ほんとう?! これを持っているの? これは()()の宝物よ。 そんな御宝(おたから)をあんたが持っているの?」



···宝物って···あながち間違ってはいないけど···



「清宗坊から聞いていないか? 俺は、元は人間だ」

「まぁ!! そうだったわ!! じゃあそれで手を打つわ!」



···よっしゃぁ!···しかし本当に面倒な奴···



「じゃあ、行こうか」

「ちょっと待って」


 宝蘭は後ろの森の方を向く。 すると、宝蘭より少し小さくて、茶色の五尾狐の皐月(さつき)によく似た七尾狐が出てきた。



···他にも七尾狐がいたんだ···



 宝蘭は茶色の七尾狐と話していたが、直ぐに戻ってきた。

 当分の間、この北の国を彼女に任せたそうだ。



「では行きましょうか?」

「じゃあその前に配気をしておく」

「配気?」

「俺の【気】を少し君に分けるんだ。 そうすると幽鬼に襲われても石にならない」

「あら···そんなのが必要?」


 今までと反応が違う。


 この辺りにまでは幽鬼は来ないのだろう。 だから必要性が分からないのも無理はない。


「今から戻る東の国には特殊な幽鬼が多くいる。 配気をしていないと色々面倒だからとりあえずやっておくぞ」


 抗牟が是非やってもらえと言う。 清宗坊にも損はないからと勧められて宝蘭は渋々承諾した。



「行くぞ」


 宝蘭の左肩の勾玉に触れて「我が力を分け与える···【配気】!」と唱えた。


「あ···あぁぁぁ~~~···」


 宝蘭は気持ちよさそうな声を上げている間に、真っ白だった七本の尾先に七つの色が現われた。



 レベルアップしたのだ。



···てっきり尻尾が八本になるのかと思っていた···


《二尾の妖狐から増えるのは七尾狐まで。 九尾狐はまた違う種族。

 七尾狐は神聖視されるが、九尾狐は邪悪な心を持つ》



···だから妖力が強くても九尾狐に勾玉が付かなかったのか···



 宝蘭は自分の体や尻尾に見入っている。


「これが配気······凄いわ···」


「行こうか」

「ええ」



 宝蘭は翔鬼の言葉に素直に答えた。









面倒な七尾狐( ´Д`)=3

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごい!完璧です(σ≧▽≦)σ やりましたね。相当気を遣ったのですね? ご苦労様です(σ≧▽≦)σ [気になる点] 悪いことではなく、七尾狐に配気するところがエッチでした(笑) [一言] …
2020/07/04 19:24 退会済み
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