第六十一話 天狗蔦
抗牟がついてくるだって?
第六十一話 天狗蔦
「ではそろそろ···」
翔鬼達が立ち上がると、抗牟が待ってくださいと引き留める。
「私もお供します」
「でも···村が···」
「鴻醍殿がいます。 それに元々私の性には合わないのです、長なんて堅苦しい役は」
白鈴と白狼を見るが、どちらも頷いている。
「わかった、一緒に行こう···でも···デカいな···」
大きいと幽鬼に見つかりやすい。 脅威ではないが、やっぱり面倒だ。 見つからないに越した事はない。
そう思って翔鬼がつい呟いてしまうと、抗牟の姿がみるみる縮んでいき、驚く翔鬼達の前で少し大きめのサルの姿になった。 四足で立った大きさは白狼より少し小さい。 立ち上がると2m弱ほどか。 サイズ的のはゴリラ位だ。
《狒々 サルの妖怪》
「あ···妖怪なのか···」
「お邪魔にならないように致します。 参りましょう」
抗牟はニッコリと笑った。
その時、バタバタと数人の足音が近付いてきた。
部屋の前から「失礼します」と声をかけてきたのは、使用人の啄諾だった。
「なんだ? 入れ」
入って来たのは啄諾と子泣き爺の利久慈、そして起樹という名前の小鬼だった。
珍しい顔ぶれに抗牟は驚くが、起樹が手に持っている刀の鞘を見て更に驚いた。
「起樹···それは···もしかして···?」
抗牟は始めて見るのだが、形や色からして、石魂刀の鞘だと直感したのだ。
起樹は鞘を前に押し出してひれ伏す。
「石魂刀の祠を作った時に、近くで拾いました。 是傲様の物だったと思って御持ちしたのですが違うと仰られて···」
利久慈が話しを受けて続ける。
「この鞘は妖気を抑える術が施されてごじゃりますゆえ、処分するのも惜しまれ、保管しておくべきだと思いましたので、起樹の家の魂手箱に保管してもらったのでごじゃります」
翔鬼は石魂刀を持って立ち上がり、その鞘に納めた。 もちろんピタリと収まり、微妙に石魂刀の刃から放たれていた妖気も完全に抑えられた。
「これは凄い。 この鞘を貰ってもいいのか?」
「もちろんでございます」
「やった」
すると翔斬刀の鞘ベルトからヒュルルと紐が伸びてきて石魂刀と繋がった。
···流石翔斬刀、いい仕事をする···
抗牟の部屋を出ると、まだ鴻醍の周りに沢山の村の住人達が集まってワイワイしている。
「皆さん、洞窟の所で待っていてください」
抗牟はそう言うと、狒々の姿のまま鴻醍を囲む村人達の所に走っていった。
何かを一生懸命演説をしているように見えるが、そのうち村の住人達と一緒にゾロゾロと洞窟の前で待っている翔鬼達の所にやってきた。
抗牟は翔鬼の横に来て座る。
鴻醍が長い鬣を揺らしながら翔鬼の前に来た。
「翔鬼殿には御礼をいくら言っても言い足らないほど感謝しております。 本当にありがとうございました」
「こちらとしても目的の物を手に入れることができたのだから、恩に着る必要はないぞ」
「いえいえ、翔鬼殿は千の里町の救世主として語り継がれるでしょう」
···それはちょっと恥ずかしすぎる···
「そして抗牟殿も同じく千の里町の恩人です」
「いや! だからさっきも言っただろう? 何もできなかったって」
「いやいや、実は既に与作殿からお聞きしておりましたのでごじゃりまする。 わしたちが石にされている間に抗牟様がわし達の為にしていただいた事を」
利久慈は与作に向かって頭を下げ、与作は頭を掻いた。
その時与作が「そうだ、これを···」と利久慈の前に行き、小さな巾着袋を差し出す。
利久慈が中を見て驚き、鴻醍に中身を見せた。 鴻醍も驚きを隠せない。
「こ···これは、もしかして···」
「天狗蔦です。 ここの洞窟の前に植えて下さい。 そうすれば再び幽鬼が村に入って来る事を防ぐことが出来るでしょう」
『天狗蔦?』
《天狗蔦 天狗族にのみ伝わる蔦で、どんな所にも根付き、隠匿効果があるため天狗蔦の内側に隠れると、見つかりにくい》
『そう言う事か···もしかして小天狗達が森の中で見えなかったのも天狗蔦のおかげ?』
知識の本に訊いた。
《おそらく···天狗以外の妖怪に天狗蔦の種を作るのは不可能なので、とても貴重なものです》
···ちょっと与作を尊敬···
鴻醍を筆頭に村の住人達は歓喜した。
「ありがとうございます。 本当にありがとうございます。 みなさんいつでも遊びに来てください、村を上げて歓迎いたします。
そして抗牟殿の住まいを用意して待っていますから、お役目が終わったら戻って来てください。
お待ちしています」
千の里町を離れて振り返ると、千の里町の入り口の洞窟の前に、緑の草がムクムクと伸びて入り口を塞いでいくのが見えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
抗牟は面白い飛び方をす。 戦った時にも思ったのだが、空中を走るように飛ぶ。
「もちろん翔鬼殿のような飛び方もできるのですが、鵺は足場を作ってそこを踏んで飛びます」
ゆっくりではあるが岩から岩を飛び移るような飛び方をしている。
「こっちの方が楽だし妖気も使わないのです」
「種族によって違うのだな」
···余計に疲れそうだけど···これも新たな常識か···
帰りはスムーズだった。 途中の村に寄る事もなく、幽鬼の襲撃もほとんどなく、東の国の近くまで帰ってきた。すでに日は傾きかけていて、そろそろ昼の季節が終わりそうだった。
<昼の季節···11時頃から17時頃>
帰った事を報告しておこうと思って、ぬらりひょんを呼ぶ。
『翔鬼殿、お帰りですか?』
···あれ?···声が違うような···
『近くまで来ている。 もう少しで江の坂町に着く』
『えっ? では結界は?』
『進化して結界に関係なく思念通話ができるようになったんだ』
『やはりそうでしたか。 おめでとうございます。 お陰でわし達も恩恵に与らせていただきました』
『そうか! 白鈴と白狼も変わったぞ』
『わしも若返らしていただきもうした』
···ぬらりひょんの若返った声だったんだ···
『そうか、楽しみだな。 そうだ、勾玉を持つ者を一人仲間にした。 彼を連れて行く』
『それはおめでとうございます! ではわしの屋敷においで下され。 清宗坊も戻って来ておりますし、堂刹殿も呼んでおきまする』
『じゃぁ、敬之丞も連れて行ってもいいか? 堂刹とぬらりひょんはまだ会っていないだろう?』
『さようですね。 それでは待ちしておりまする』
『わかった』
若くなったぬらりひょんに会うのが、ちょっと楽しみ( *´艸`)




