第五十九話 千の里町の長
千の里町の住人達を戻していく。
第五十九話 千の里町の長
抗牟は鬼神である翔鬼が、幽鬼によって石にされた体を元に戻してくれた事に感心し、次々と仲間が元に戻っていく姿に感激していた。
同じく村人達も感激しながらゾロゾロと後をついて来る。
···みんなが付いて来て直ぐ傍で見ているから呪文の短縮ができないじゃないか···
本来なら触るだけでいいのに、長い呪文を言わないといけないので面倒になってきている。
「ところで村の住人は何人いるんだ?」
「474人です」
···はぁ~~、まだ半分くらいだ···
「先は長いな···アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
村の奥の方まで来た時、少し先にある森の中に大きな祠らしきものが見えた。
「あれは?」
「あの中に石魂刀が納められていると言われています。 先に石魂刀の方に行かれますか?」
「いや、村の住人を助けてからでいい。 しかし、わざわざあんな所に納めてあるという事は大切にしているんじゃないのか?」
「私が長になる前からこの祠は放置してありました。 そうだ、利久慈殿!」
抗牟は少し前を歩くお爺さんを呼んだ。 見た目は禿げ頭の人間のお爺さんのようだ。
《子泣き爺 赤ん坊のような泣き声で泣き、抱き上げると石のように重くなって押しつぶす》
···わぉ! 子泣き爺も聞いたことがある···
砂かけ婆と同じくらい感激した。
「抗牟様、何でごじゃりましょう?」
「石魂刀の祠についてお話をして差し上げてもらえないか?」
利久慈はお安い御用でごじゃりますると、ニッコリ笑って翔鬼の横に並んで歩く。
「先々代の長の鴻醍殿がわしらに一言もなく突然村を去られた時の事でごじゃりました。 今まで見た事のない大岩が先ほどの祠の場所に現れもうしたのでごじゃりまする。
先代の長で鬼神の是傲殿が仰るには、あそこには石魂刀という魔刀が隠してあるのじゃが今まで鴻醍殿が隠匿結界で目眩ましをしていたので気付かなかったのじゃろうという事でごじゃりました。
石魂刀がこの村にあることが他の町に知れれば、魔刀を狙った妖怪が必ずや荒らしに来るので祠を作って隠せとの仰せじゃった。
初めの頃こそ定期的に固く閉ざしてある祠の鍵を開けて中の掃除をしておりましたのじゃが、是傲殿が必要なし!と鍵を取り上げられ、祠の事は忘れよとの御達しで、それ以後はわしらも忘れておったのでごじゃりまする」
「じゃぁ、昔からある大切な秘宝とかじゃないんだな」
「はい。 いつからあるのか、なじぇあるのかも、石魂刀とはどういう物なのかもわしらは知る由もごじゃりませんし、本当に在るのかも定かではごしゃりませぬ」
「石魂刀が欲しいのだが、貰って行っても問題ないな?」
「もちろんでごじゃりまするが、ただの岩でごじゃりまするぞよ」
「···とりあえず、試してみるさ」
「たとえ石魂刀が村の秘宝であったとしても、村の住人全員の恩人である翔鬼様のお願いを断ることなどいたしませぬ」
「心置きなく貰う事が出来るな···と···次はこの石か?···アブラカダブラ···」
確かに474人全員をやっと石から戻し終わり、みんなは礼を言いながらそれぞれの家に戻っていった。
「翔鬼殿本当にありがとうございます。 不甲斐ない長の私は皆を護れなくて情けない限りでしたが、少しは心が晴れました」
抗牟が申し訳なさそうにそう言うが、そんな事はないと思うぞと翔鬼が言う。
「多分、幽鬼が襲ってきた時に抗牟がこの村にいれば一緒に石にされていただけだろう。 そうなればここの村人の財産を守ることが出来なかったと思うぞ。 石にされた時も村の入り口を塞ぐように固まるなんて、なかなかできる事じゃない」
白狼達も頷いている。
「きっと皆は抗牟を誇りに思っていると思うぞ」
珍しく白狼が抗牟を褒める。 与作も恐れながらと口を開いた。
「この村の住人達を見ていると抗牟様が如何に良い長であるかが計り知れます。 立派に勤めを果たしておいでです」
「皆様、温かい言葉をありがとうございます」
大きな体を小さくして頭を下げる。 ちょっと涙が浮かんでいるようにも見えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
やっと石魂刀の祠に行く。
村から少し離れた結界際にあり、周りは木や雑草で覆われていて寂れた雰囲気だが、かなり大きい祠で、外見は神社の本殿のような立派な造りだ。
2m四方ほどの大きな祠の扉には鍵が掛かっているのだが、抗牟は躊躇う事なく扉ごとバキッ!と壊した。
祠の中はガランとしていて装飾もなく ただ広い部屋に3m四方ほどの大きな石があり、その上側に刀の柄のような形の突起した石が出ているだけだ。
···あの刀の柄のような突起が石魂刀であってくれ···
翔鬼は石の上に飛んでいき、白鈴と白狼にチラリと視線をよこしてから石魂刀の柄らしき突起を掴んだ。
全員が固唾を呑んで見守る中、暫くすると掴んだ部分の石がゆっくりと溶けだして不思議な形の柄が現われた。
「よし!!」
翔鬼がゆっくりと引くと、途中で引っかかりがあったものの、どうにか抜けてその全容を現した。
刀というより両刃の剣で、握り部分は鱗のようになっていて滑りにくくて握りやすい。 そして柄の先端には白黒の勾玉を二つ重ねたような太極図が描いてあり、中国の剣のようなイメージだ。
特に変わっているのが刃の部分に返しがある事だ。 剣を差し込んだ後、抜けにくくなっているのだろう。
···それで抜けにくかったんだ···
「石魂刀ゲットだぜ!」
白鈴達の所に降りて石魂刀を見せていると、白狼が叫んだ。
「翔鬼!! 後ろ!」
振り返ると石魂刀が刺さっていた石が揺らめき始めた。
幽鬼に石にされた者は石の部分の氷が解けるように沈んでいくのだが、これは硬い石が泥のように柔らかくなっていき、ドロ~~ッと流れ落ちてきた。
石魂刀はゲットしたが、石にされていたデカイ妖怪が!!




