第五十八話 千の里町
千の里町があるはずの岩山に到着した。
しかし、入口が見つからない!
第五十八話 千の里町
南南東にあるという千の里町に向かう。
岩山が見えてきた。 思ったより大きな山だ。
しかし所々に緑はあるが大きな木はなく、切り立った大きな岩が広範囲でむき出しになっていた。
「入り口は西側にあると言っていたな···じゃあ、とりあえず分かれて探そう」
皆が別れて飛んで行った。
洞窟があるはずだからすぐに見つかるだろうと思っていたのに一向に見つからない。
おかしいと思っていると、微かに轍の跡が岩の中に向かって伸びているのを見付けた。
近付いて見てみると、洞窟の入り口を大きな石で塞いであった。 隙間から中をのぞくと、結構広く、結界の気配がある。
『あったぞ!』
みんなを呼び、来るまでの間に石をどけようと押してみるがびくともしない。
「翔鬼、ここか?」
「あら、岩で塞いであるのね」
「大きな岩ですね。 動かないのですか?」
みんなが集まってきた時、岩肌がザワザワと動き始めた。
「まずい!! みんな離れろ!」
かなり大きな岩だ。 このサイズなら土蜘蛛並みの大きな妖怪のはずだ。
離れて様子を見ていると、巨大なサルのような顔が現われ、フカフカな鬣と大きな体には虎のような縦縞があり、なんと長い尻尾は紺碧色のヘビだ。
「なんだ? この妖怪は!」
《鵺 顔はサル、体はトラ、尻尾はヘビという獣が合成したような姿をしている》
またユニオンビーストかよ! と思っていると、突如襲ってきた。
「ワァッ!! 待て! ちょっと待て!!」
慌てて避けるが太くて鋭い爪が目の前をかすめる。
「おい! 待てって!」
翔鬼は空に飛び上がったが鵺も空まで追いかけてきた。 空中に足場でもあるようにジグザグに飛んでくる。
心が視えないので【心開】と唱えたが、怒りの感情しか見えない。
「おい!! 目を覚ませ!!···クッ!···仕方がない」
翔鬼は下に向かって鵺の顔を思いっきり殴った。
バキッ!!···ズドドン!!
しかし 殴られて地面に叩きつけられた鵺は頭を一振りしてから、直ぐに起き上がり翔鬼に向かって再び飛び上がろうとする。
「まだ来るか!【縛】!」
捕縛術をかけた。 新たに覚えた術で、鵺は四本足を縛られた状態になり、動きを封じられた。
それでも翔鬼を狙って長い尻尾のヘビの口が向かってくる。 翔鬼は一歩下がって蛇の攻撃を回避した。
「俺達は敵じゃない! 落ち着けって!! 大丈夫だから」
翔鬼の声を聞いて鵺の目に少し落ち着きが戻ってきた。
「正気になったか? 心配するな、俺達は敵じゃない。 大丈夫だ···落ち着け、大丈夫だ···」
鵺は捕縛術で縛られたまま、五本角の鬼神と、岩の陰から出てきた猫娘や白翼狼に視線を向けた。
「······お前は······誰だ···」
「やっと話ができるようだな。 俺は翔鬼。 ここは千の里町の入り口だよな?」
「······何しに来た」
大人しく質問に答えてくれるつもりはなさそうだ。
「石魂刀を探しに来た。 お前が護っているのは石魂刀なのか?」
鵺は不審げな面持ちで翔鬼を見上げる。
「······あんなもの···持っていけるものならいくらでも持っていけ」
「その言葉を忘れるなよ。 しかし石魂刀を護っているのじゃないとしたら、お前は何を守っているんだ?」
「······」
我を忘れるほど必死で守っている物を本人の口から聞きたい。
「お前の答え次第では千の里町の村人全員を助けてやることもできるが···」
全員石にされていると聞いた。 村人の事など気にも留めていないのならこの言葉で心を動かす事はないだろうが······返事を待つ。
「···そんな事が出来る訳···あっ···」
どうやら翔鬼に石から戻してもらった事に今頃気が付いたようだ。 鵺の心が完全に落ち着いたようなので捕縛術を解いてやる。
捕縛術が解けた事に戸惑いながらも、翔鬼の前にチョコンと座った。 チョコんと言っても頭までの高さは3mほどあり、見上げなければならない。
「私は···」
やっと話す気になってくれたようだ。
「私はこの千の里町の長をしている抗牟と申す。 私が暫しこの村を離れている間に幽鬼が入り込んで、この村の住人を全員石に変えてしまったのだ」
「お前は出かけていたのか···」
抗牟は頷く。
「あまり知られてはいないが、この洞窟の奥には金鉱があり、村人達は裕福で幸せに暮らしていた。 だからそれなりの貯えがどの家にもあるのだ。
金鉱自体は私の二代前の長がかけた強力な結界のおかげで村人以外は入ることが出来ないのだが、この村の住人が石にされたことを知った妖怪達が村人達の財産を盗みに来るのだ。
そういう奴等から私はこの村を護っていたのだ。 再び襲ってきた幽鬼に石にされるまで····」
「お前が金を独り占めしているのではないのか?」
心を視ているのでそうでない事は知っているが、少し意地悪な質問をしてみた。
「そんな事はない!! 私は金になど興味はない。 たまたま千の里町に来た時にこの村の住人達が困っていたので長の役割を引き受けただけだ。 本当だ」
見た目は怖くて体も大きいのに、とてもいい妖怪っぽい。 きっと村の住人達にも信頼されていただろう。
「わかった、信じる。 先ほども言ったが、俺は翔鬼。 猫娘が白鈴、白翼狼が白狼。 そして烏天狗が与作だ。 ついでに言うと、俺達も金には興味はない。 目的は石魂刀だけだが、その前に住人達を元に戻すので案内してもらおう」
抗牟はほんの一瞬だが躊躇いを見せた。
『彼らを本当に信用してもいいものだろうか? 翔鬼殿は勿論だが、白鈴殿と白狼殿からも恐ろしく強い【気】を感じる。 彼らとサシで戦っても絶対に勝てないだろう···彼らを信用するもしないも、従う以外に方法はないか···残念ながら』
抗牟は心の中で葛藤しているようだが、そのうち分かってくれるだろうと翔鬼は確信していた。
「こちらに···」
洞窟の正面と左側に結界がある。 抗牟は左の結界を潜った。 正面の結界は金鉱に続くそうだ。
結界を潜ると直ぐに長閑な村の風景が広がる。
裕福だと聞いていたのでもっと煌びやかな建物を想像していたのだが、他の農村に比べると少しはましではあるが、ごく普通の家が並んでいた。
「この人からお願いします」
村に入るなり、二つの石があった。 翔鬼はしゃがんで両方の石に手のひらを当て、いつものように呪文を唱える。
「アブラカダブラサッカーバドミントン! 元の姿に戻れ!!」
抗牟は翔鬼が聞き慣れない呪文を言い、村の住人を石から元に戻していくのを興味深く見守った。
そして元の姿に戻った者達には、例のごとく与作が説明していった。
また「アブラカダブラサッカーバドミントン!!」を何回言えばいいのだろう····
( ´Д`)=3




